執行者
通路を走っていると、そこらかしこに血液が飛び散っていた。血液量から考えて、恐らくドラゴンの方だ。
「死なないで……」
ドラゴンの無事を願いつつ移動を続けていき、大きく壊れた出口から外に出る。すると、ドラゴンがすぐ横で倒れていた。
「大丈夫!?」
『グルル……』
私の声掛けに力無く唸る。深く傷付いて血を流しているけど、その傷も塞がり始めている。不死竜という名前を付けられたくらいだから、このくらいの傷でも時間を掛ければ塞がるとは思う。やっぱり【不死】持ちっぽい。
「貴様……何故生きている……?」
ドラゴンを心配していると、不快な声が聞こえた。そちらに目を向ける。
少し離れたところにいた男は、私が五体満足で動けている事に驚愕していた。いや、それ以上に恐怖しているようにも見える。でも、すぐに私が右手に握っている雷鎚ミョルニルを見てから、私を睨んだ。
「やはりアーティファクトか……」
雷鎚ミョルニルをアーティファクトだと見抜いたようだ。だからと言って、何か意味がある訳ではない。知ったところで対策出来る事など無いのだから。
私は雷鎚ミョルニルを握って、一気に駆ける。出来ればドラゴンを治療してあげたいところだけど、そんな暇は与えられないだろうから。
放たれてくる風の砲弾は、雷鎚ミョルニルで全て打ち消していく。封印が解けて、ステータスの補正値が大きく上昇した事により、密度の高い風の砲弾でも簡単に打ち消せた。
「くっ……はっ! 貴様の攻撃は私に通じないという事を忘れたのぶがっ……!?」
接近してきた勢いをそのままに雷鎚ミョルニルで思いっきり顔面を殴った。殴る直前に雷を最小限纏わせたので、弱めの雷撃が後を追うように撃ち込まれて男が吹っ飛んだ。男は鼻血を出している。
(力が強くなってるから、物理攻撃でも通用してる。でも、油断はしちゃ駄目。油断したからさっきみたいな事になった。だから、相手の一挙手一投足に集中する)
身体を再生してからMPは回復しきっていないために、かなり少ない。そのため雷は最小限しか使えない。さっきみたいなMP全消費の雷撃埋め尽くしは出来ないから、最小限の雷を纏いながら、MPを使い切らないように調整して戦う。吹っ飛んでいった男を追って駆け出す。
体勢を立て直した男は風の槍を次々に作り出していた。その槍に先行して風の刃が飛んでくる。
「グリフォンの方が鋭かった……」
大体の風の刃は避けられる。命中しそうなものは雷鎚ミョルニルで消せる。グリフォンとの戦いが、こんなところで活きてくる。風の刃の質も怖さも向こうの方が上だ。
移動しながら、それらを見切って動く。
『【見極め】のレベルが上昇しました』
どんどんと近づいてくる私を引き寄せてから、風の槍は放たれた。射出された槍は、空気の密度によるものなのか空間が僅かに歪んで形が丸わかりだった。それ以外にも周囲の砂やらなんやらが巻き込まれている事でも軌道はある程度読める。
厄介なのは斉射ではなく、連続発射である事。少しタイミングがずらされているが故に、連続で打ち消して行かなければならない。
「すぅ~……っ!!」
一瞬身体に雷を纏って、自分の身体能力を上げる。これがどんな効果なのか分かっていなかったけど、ぶっつけ本番で使うしかなかった。
僅かな加速。時間にして一秒程の効果。でも、これで相手が予測した私の動きとは完全に異なる行動が出来た。一本目は前傾姿勢になって、頭上を通り過ぎさせる。長い方の髪の毛が巻き込まれるけど、これは気にしない。
二本目は、身体を捻って横を通り過ぎさせる。頬が切れて血が飛び散る。
最後の三本目は金槌の大きさにした雷鎚ミョルニルで打ち消す。これで命中しそうなものは全部切り抜けたと思ったところに風の砲弾が飛んできた。振り切った状態なので、雷鎚ミョルニルの返しは間に合わない。
だから、ここでも身体に雷を纏って身体能力を一瞬上げて、更に前傾になりながら踏み切る。
驚愕で目を剥いている男の一メートル前で身体を起こしながら、雷鎚ミョルニルを元の大きさに戻して股間を打った。
「くぁっ……!?」
身体を改造している男でも、股間は改造していなかったみたい。更に上から頭を打ち、横から太腿を打って跪かせる。
苦悶の表情になっている男の顔面に向かって、身体を回転させた遠心力を乗せた一撃を思いっきり打つ。重機でコンクリートを破壊するかのような大きな音を立てながら、男が吹っ飛んでいった。周囲の木々をへし折っていくところから、男の頑丈さがよく分かる。
それでもこの攻撃で無傷とはいかないらしい。地面に膝を突いて呼吸が荒くなっている。私が強くなったのか、ドラゴンと戦って何かしらの無理が出たのか。前者だと嬉しいかな。
「はぁ……はぁ……貴様ぁ……一体何者なんだ!?」
「え? う~ん……神様から送り込まれた……ただの執行者だよ」
「はぁ!? 何なんだ……何なんだよ!!」
意味の分からない返答をしたからか、男の目が血走っていく。そうして冷静さを失った男は、風の砲弾を連射してくる。私は風の砲弾を雷鎚ミョルニルで打ち消しながら、男に向かって突っ込んでいった。
冷静さを失い、やけになった攻撃程読みやすく対処しやすい。風の砲弾が私に通用しないので、さっきよりも小さく弱い風の槍の連射に切り替えてきた。散弾のように飛んでくる風の槍を見て、最短で切り抜けられるルートを瞬時に把握しようとした瞬間、横から飛んできたドラゴンが槍の散弾を背で受け止めた。
そして、自分の前脚を私の方に伸ばしている。まるで駆け上がっていけというように。
「ありがとう!」
お礼を伝えてからドラゴンの脚を駆け上がっていき、その身体を踏み台にして、男の頭上に出る。男が目を見開いて私を見る。
私は全MPを消費して、雷鎚ミョルニルに雷を纏わせる。
「死ねえええええええええ!!」
私が振り下ろした一撃を脳天に食らった男は、直後の雷撃で身体をビクンと跳ねさせてから白目を剥いて倒れた。全力の雷撃を受けた事で意識を刈り取る事が出来たみたい。物理に対する耐性が高いけど、魔法への耐性の方はまだ確立できていないのかな。通路での雷撃が効いていた事もあるし、恐らくはそうなのだと思う。
若干ピクピクしているので、まだ死んでいないという事が分かる。気絶した状態なら、避けられる事はない。
私は男の頭が平らになるまで、無心で何度も雷鎚ミョルニルを叩き付けていった。
『ヒナのレベルが上昇しました。10SPを獲得』
『【MP超上昇】のレベルが上昇しました』
『【MP回復力超上昇】のレベルが上昇しました』
『【重撃】のレベルが上昇しました』
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ヒナ Lv31『雷鎚ミョルニル』
職業:槌士Lv9
MP:7694/7694 7443+201+50【MP超上昇】
筋力:5409(180)『3000』 5340+69
耐久:5988(135)『2000』 5920+68
敏捷:2366『1000』 2295+71
魔力:1670『1000』 1624+46
器用:1942 1888+54
運:310 300+10
SP:310 300+10
スキル:【槌術Lv14】【両手槌術Lv4】【体術Lv2】【投擲Lv3】
【雷魔法Lv2】
【MP超上昇Lv56】【剛腕Lv27】【頑強Lv68】【疾駆Lv19】【知力Lv2】【至妙Lv18】
【騎乗Lv2】【採掘Lv58】
【MP回復力超上昇Lv41】【重撃Lv23】【暗視Lv69】【見極めLv12】【気配察知Lv10】
【火耐性Lv8】【風耐性Lv6】【雷耐性Lv10】【雷電耐性Lv7】【斬撃耐性Lv5】【打撃耐性Lv10】【毒耐性Lv3】【痛覚耐性Lv10】【苦痛耐性Lv10】【激痛耐性Lv10】【精神耐性Lv10】
【高速再生Lv82】【竜の血Lv4】
【生命維持】【不死】【女神との謁見】
職業控え欄:旅人Lv1 平民Lv18 採掘者Lv48
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レベルが上がってMPも回復した。そして、これで男を殺す事が出来たという事が確定する。ひとまずは安堵というところかな。お礼を言うためにドラゴンの方を見る。
『グルル……』
ドラゴンが唸りながらゆっくりと身体を上げようとして、再び地面に伏せた。身体に力が入らないくらいには怪我を負っているらしい。最後の力を振り絞って手助けをしてくれたという事なのかな。
ドラゴンは、私から離れようとしているように見える。
「大丈夫。私は何もしないよ」
そう言って安心させようとしていたら、ドラゴンが私の方を見ていない事に気付いた。私よりも更に向こうを見ている。
「ヒナ!」
後ろの方から声が聞こえて振り向くと、そこにはハヤトさん達がいた。ハヤトさん焦りながら私に向かってくる。それも当たり前だ。私の傍にはドラゴンがいるのだから。事情を知らないハヤトさん達からすれば、私が危ないという状況になる。
私はドラゴンの前に立って両手を広げる。
「ちょっと待って!」
「っ!?」
私の言葉で、ハヤトさんは即座に止まる。そして、ドラゴンに向かおうとしているジェーン達を止めた。
「おい! ハヤト! 何で止める!? トドメを刺すなら今だろ!?」
ジェーンはハヤトさんを睨んでそう言う。ドラゴンの脅威を知っているからなのかな。確かに、こんな街の近くにドラゴンがいるとなれば、街の安全のためにも討伐するべきだという意見になるのは理解できる。
「これ読んで下さい! ミモザさん! 解呪と呪いに対する抵抗をこの子に!」
ハヤトさんにドラゴンに関する記録を投げつけて、ミモザさんにお願いする。ミモザさんは、一瞬戸惑っていたけど、すぐに私の傍に来てドラゴンに『浄化』を施してくれる。
『ガアアアアアア!!』
ドラゴンが苦しむ。呪いに蝕まれた身体から呪いを除去しようとしているので、呪いが抵抗しているのかもしれない。聖水を掛けられて苦しんでいたという記述もあったはずなので、ミモザさんの『浄化』となれば、更に苦しくなると考えられる。。
「大丈夫! 大丈夫だから! お願い、我慢して!」
雷鎚ミョルニルの力を使って、ドラゴンの身体を癒しながら落ち着かせる。私の言葉が通じているからなのか、ドラゴンは歯を食いしばりながら我慢してくれている。そのまま私達に危害を加えようとはしてこない。
ドラゴンから黒い何かが溢れ出してきて、身体が変わっていく。それを見て、ミモザさんは驚いていたけど、そのまま『浄化』を続けてくれた。これでドラゴンに掛けられているという呪いが解けてくれれば……




