表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界旅はハンマーと共に  作者: 月輪林檎
異世界旅始め

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/152

真名

 取り敢えず、ここまで追ってきた改造人間達は全員倒した。後はあの男を殺すだけだ。


「な、何……だと……」


 ゆっくりと追ってきた男は唖然としながら改造人間達の死体を見ていた。まさか、全部倒すとは思っても見なかったらしい。思慮の浅さというのは可哀想かな。こんな子供に大男の改造人間十何体が負けるという事を想定しろという方が無理のある事にも思えるから。

 男は怒りに任せて、風の砲弾を連続で放ってきた。それを弾こうとしたら、私の真横にある扉から別の改造人間が出て来た。男の口角が弓なりになる。

 つまり謀られたという事だ。あそこまで絶望した表情をしておきながら、次の策を用意していたのだ。風の砲弾に対処すれば、接近している拳を受ける事になる。拳と砲弾どちらがマシか。熟考するまでもない。

 改造人間の拳を雷鎚トールで弾き、風の砲弾を受ける。腕、胸、足、そして頭に命中した。大きく飛ばされて地面を転がっていく。腕や足などは問題ない。ただし、頭に命中した事で、視界が歪んでいるかのような状態になっていった。耐性があると言っても、無効化ではない。だから、衝撃を消失させられない。

 そんな状態でも立ち上がる事は出来る。若干ふらつきながら身体を起こした瞬間に、左腕を改造人間に掴まれた。向こうの怪力は異常で腕は簡単に握り潰された。左腕の感覚が無くなる。痛い。【痛覚耐性】と【苦痛耐性】を潜り抜けてきた痛みが左腕から駆け上がってくる。


『スキル【激痛耐性】を獲得』


 スキルを獲得したおかげで、耐性を突き抜ける凄まじい痛みに支配されそうになっていた思考が蘇ってくる。雷鎚トールに雷を纏わせて無事な右腕で振い、改造人間の脳を破壊する。


『ヒナのレベルが上昇しました。10SPを獲得』


 レベルは上がっても肉体は元に戻らない。ステータスにHPがない以上、身体の傷が治るという事はない。左腕は【高速再生】で再生されているけど、それでも使えるようになるまで時間が掛かる。地面に降り立った私に風の砲弾が飛んできた。それも数ではなく密度が高いものだ。

 咄嗟に雷鎚トールを盾にしようとしたものの右手のみという状態で完璧な防御などが出来るはずもなく、そのまま吹っ飛ばされた。


「っ……!」


 左手が使い物にならないため受け身を取ることも出来ずに、身体で地面を削るように転がっていった。右手の握力がなくなり、雷鎚トールも手放してしまう。


「はっはっはっはっ!! 本当にその程度か!? こっちには、まだまだ戦力がいるぞ?」


 周囲の部屋から他の改造人間が出て来た。


「一体……何人の人を……」

「さぁな」


 男はニヤリと笑った。こいつにとって、自分の研究に費やした人の命などどうでも良いという事だ。


(そんなに改造人間達を見せられた事が嬉しいのか……ここまでに至るのに何人犠牲にしたの……そうして一体何人の心を壊し、操り人形にしたの……こいつは生かしておくわけにはいかない……)


 男を睨んだのと同時に、目の前に改造人間の足があった。咄嗟に折れている左腕を前に出す。改造人間の蹴りが直撃して、一気に五十メートルくらい吹っ飛んだ。吹っ飛んだ先には壁があり、そこに叩き付けられる。

 まず、蹴られた衝撃で骨が粉々になっていた左腕は、臂から先が千切れて飛んでいった。左腕では防御も不完全だったので、肋骨も折れたと思う。呼吸音がおかしいし。背中から叩き付けられたせいで背骨も何かやったかな。下半身に痺れているような感じがする。

 この状態で意識が残っているという事が何よりも最悪だった。


『【激痛耐性】のレベルが上昇しました』

『【激痛耐性】のレベルが上昇しました』

『【激痛耐性】のレベルが上昇しました』

『【激痛耐性】のレベルが上昇しました』

『【激痛耐性】のレベルが上昇しました』

『【激痛耐性】のレベルが上昇しました』


 どんどん【激痛耐性】のレベルが上がっている。まぁ、それだけの痛みが身体を支配しているという事だ。その中で、私は自分の横に大きな牢屋がある事に気付いた。およそ人間に使うものではないレベルで大きい。

 一瞬心臓が跳ねて身体が冷えるかのような感覚に陥った。

 その牢屋には皮膜の張った翼と大きな角と爪、立派な四肢を持ち、全身を大きな鱗で覆った巨大な蜥蜴……ドラゴンがいた。全身が傷だらけで血が流れている。確かに、これで死なないとなれば、【不死】持ちと考えてもおかしくない。


(例の不死竜……大きな気配はやっぱりドラゴンか……)


 そんな事を思いながら正面に視線を向けると、改造人間達が私にトドメを刺そうと突っ込んでくる。


(トール……)


 私は地面に転がっているトールに手を伸ばして、戻ってくるように念じる。右手でキャッチしたもののもう立ち上がる事も出来ない。


「ふはははは!! これで終わりだ! クソガキが!!」


 男は私の状態を見て、勝ち誇ったようにそう言う。だから、一矢報いてやる事にした。雷鎚トールにこれまで以上に雷を纏わせる。それは私の【雷耐性】を超えてくる量の雷だ。雷獅鷹の衣はギリギリ耐えているみたいだけど、雷獅鷹の衣で覆われていない私の身体にはどんどんと火傷が広がっている。


『【雷耐性】のレベルが上昇しました』


 雷鎚トールが纏う雷は周囲にも飛び散っている。それを見て、男も勝ち誇った顔から一転怪訝そうな顔になった。


「何……だ?」


 尋常ではないと男はゆっくりと後退していた。でも、改造人間達にその知能はない。私は隣にいるドラゴンを見る。向こうも弱々しく目を開けて、こちらを見ていた。しっかりと眼が合う。


「ごめんね……」


 私はドラゴンに謝ってから、右手に握った雷鎚トールを地面に叩き付ける。直後雷鳴が轟き、通路全体を無数の稲妻が走っていく。全MPを消費した雷撃は、全ての改造人間を焼き殺していく。


『ヒナのレベルが上昇しました。10SPを獲得』

『ヒナのレベルが上昇しました。10SPを獲得』

『【雷耐性】のレベルが上昇しました』

『【雷耐性】のレベルが上昇しました』

『【雷耐性】のレベルが上昇しました』

『【雷電耐性】を獲得』

『【雷電耐性】のレベルが上昇しました』

『【雷電耐性】のレベルが上昇しました』

『【雷電耐性】のレベルが上昇しました』

『【雷電耐性】のレベルが上昇しました』

『【雷電耐性】のレベルが上昇しました』

『【雷電耐性】のレベルが上昇しました』

『【激痛耐性】のレベルが上昇しました』

『【激痛耐性】のレベルが上昇しました』

『【激痛耐性】のレベルが上昇しました』

『【MP超上昇】のレベルが上昇しました』

『【MP超上昇】のレベルが上昇しました』

『【MP超上昇】のレベルが上昇しました』

『【MP超上昇】のレベルが上昇しました』

『【頑強】のレベルが上昇しました』

『【頑強】のレベルが上昇しました』

『【頑強】のレベルが上昇しました』

『【頑強】のレベルが上昇しました』

『【頑強】のレベルが上昇しました』

『【頑強】のレベルが上昇しました』

『【頑強】のレベルが上昇しました』

『【頑強】のレベルが上昇しました』

『【頑強】のレベルが上昇しました』

『【頑強】のレベルが上昇しました』

『【頑強】のレベルが上昇しました』

『【頑強】のレベルが上昇しました』

『【頑強】のレベルが上昇しました』

『【頑強】のレベルが上昇しました』

『【頑強】のレベルが上昇しました』

『【頑強】のレベルが上昇しました』

『【頑強】のレベルが上昇しました』

『【頑強】のレベルが上昇しました』

『【頑強】のレベルが上昇しました』

『【高速再生】のレベルが上昇しました』

『【高速再生】のレベルが上昇しました』

『【高速再生】のレベルが上昇しました』

『【高速再生】のレベルが上昇しました』

『【竜の血】のレベルが上昇しました』


 通路を埋め尽くすような雷撃は、当然私にも命中していた。その雷が身体を貫いてくる痛みが走っている。

 自分の攻撃で自分を傷付けるという最悪な事をしているけど、そうでもしないと状況が改善しないと考えた。実際には、別に改善している訳ではない。改造人間がいなくなったというだけだからだ。

 極限状態における思考は、極端なものになりやすい。でも、こんな身を切るような攻撃でも男は生き残っていた。無傷とはいかなかったみたいだけど。身を覆っていた外套は消え去り、男の素顔が見えるようになっていた。髪がぼさぼさに伸び落ちくぼんだような目。あまり状態の良い人間には見えない。それに加えて大火傷が身体と顔に広がっている。

 そして憤怒の形相で私を見ていた。


「さっさと死ねぇ!!」


 男は風の砲弾を撃ち出してきた。今の私はそれだけでも致命傷となる。


(まぁ、死んでも蘇るから良いけどさ……)


 そう思っていると、横の牢が吹っ飛んだ。それと同時に中からドラゴンが出て来て、風の砲弾を受けてくれた。雷が牢を赤熱させていて、頑丈だった牢が脆弱になっていたらしい。

 この子にも雷は当たっていたはずだけど、身体が凄い勢いで回復していて、火傷が目に見えて引いていた。それとは別にかなり深い傷があるけど、それも大分治っている。もしかしたら、私と戦っている間に、重傷を負わせないといけない時間が過ぎていたのかもしれない。


「なっ……」


 これには男も目を剥いていた。対して、竜は男に突っ込んでいき頭で吹っ飛ばした。


「ぐああああああ!!」


 男の声が遠くなっていく事から、かなり遠くまで吹っ飛んだと思われる。ドラゴンはそれを追って駆け出していった。これまでの復讐をしに向かった感じかな。

 私も追いたいところだけど、身体が治っていない上に意識が朦朧としてきていた。


「マズい……こんな……ところ……で……」


 瞼が自然と落ちていく。でも、意識はまだギリギリで保っていた。


(早く……)


 早く回復して欲しいと思っている中で、何か頭に直接言葉が聞こえてきた。


『汝、我が真名を呼べ』


(誰……?)


 本当に誰だか分からない。真名というのも全然理解が出来ていない。


『汝、我が真名を呼べ』


(真名……何? 誰? 何も分からない……ここにいるのは……)


 そんな思考になった時、一つ気付いた事があった。真名を呼べという事は、その対象は偽名を使っているという事。それに心当たりがあった。何故そちらの名前がとずっと思っていたもの。

 そう。私の右手で今握っているものだ。


「……ミョルニル」


 そう呼んだ瞬間、右手から鼓動を感じた。同時に頭の中に機会音声のようなものが聞こえてくる。


『雷鎚ミョルニルの第一封印完全解除』


 そんな声がしたと思ったら、右手から何か力が流れ込んできて身体が急速に回復していった。意識もはっきりとしてきて、目を開けると、自分の左腕が生えているのが見えた。そして、痺れていた下半身の感覚も元に戻っている。


「えっ……何これ……【高速再生】のレベルじゃない……」


 私はすぐにステータスを確認する。


────────────────────


ヒナ Lv30『雷鎚ミョルニル』

職業:槌士Lv9

MP:744/7443 6323+720+200【MP超上昇】200【竜の血】

筋力:5340(180)『3000』 4663+377+300【竜の血】

耐久:5920(135)『2000』 4473+867+380【頑強】+200【竜の血】

敏捷:2295『1000』 2019+276

魔力:1624『1000』 1384+240

器用:1888 1655+233

運:300 250+50

SP:300 250+50

スキル:【槌術Lv14】【両手槌術Lv4】【体術Lv2】【投擲Lv3】

【雷魔法Lv2】

【MP超上昇Lv55】【剛腕Lv27】【頑強Lv68】【疾駆Lv19】【知力Lv2】【至妙Lv18】

【騎乗Lv2】【採掘Lv58】

【MP回復力超上昇Lv40】【重撃Lv22】【暗視Lv69】【見極めLv11】【気配察知Lv10】

【火耐性Lv8】【風耐性Lv6】【雷耐性Lv10】【雷電耐性Lv7】【斬撃耐性Lv5】【打撃耐性Lv10】【毒耐性Lv3】【痛覚耐性Lv10】【苦痛耐性Lv10】【激痛耐性Lv10】【精神耐性Lv10】

【高速再生Lv82】【竜の血Lv4】

【生命維持】【不死】【女神との謁見】

職業控え欄:旅人Lv1 平民Lv18 採掘者Lv48


────────────────────


 スキルが育った事もあって、ステータスが大きく上昇している。それに加えて、真名を取り戻した雷鎚ミョルニルのステータス補正値が変わっていた。なので、ミョルニルを調べる。


────────────────────


雷鎚ミョルニル:かつて、英雄の一人が用いていたと言われる古代遺物。手放しても念じれば自分の手元に飛んで戻ってくる。雷を纏わせて放つ事が出来る。また纏った状態を維持する事で身体能力を上昇させる事が出来る。MPを消費して、触れている対象の身体を再生させる事が出来る。一部の能力は封印された状態になっている。腕輪、懐中時計に変化する。『筋力+3000 耐久+2000 敏捷+1000 魔力+1000』


────────────────────


 フレーバー的なものはあまり変わらない。でも、第一封印が解除されたからか能力が増えていた。身体能力の上昇と治療が出来るようになっていた。今の私の身体を再生させた結果、MPが一割しか残っていないという事だろう。腕の再生や内蔵などの修復。それらを完全に行ってくれている事を考えると、これだけで済んだのは良いことだと考えられる。


「これで第一封印が解除されただけ……でも、ステータスの補正値は異常だ……いや、今はそんな事どうでも良い。あいつをどうにかしないと!」


 身体は動く。なら、やる事は一つ。立ち上がった私は男とドラゴンを追って駆け出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ