悍ましい
翌日。私が朝のルーティンを行っている間に、ミモザさんは自分の部屋に戻っていった。今日も調査があるらしい。こればかりは仕方ないので、手を振って送り出した。
私も準備をしてから適当に朝ご飯を買って食べて、依頼を選びにギルドに向かう。
「何にしようかな……って、マッチョボアしかないんだけど」
お金的にも狩り効率的にもマッチョボアが一番良い。私のランクならだけどね。依頼を受けて、カトリーナさんに見送られながら、ギルドを出た。
「確か湖の周辺にモンスターが集中してるんだったっけ」
昨日の話を思い出して湖の方に足を踏み出した瞬間に、私の頭にヌートリアに来た時の事が過ぎった。
『あれ何?』
『恐らく廃教会か何かか』
バルガスさんと話した時にした会話。ここに来る途中に見えたボロボロの屋根。バルガスさんとガンクさんが廃教会と言っていたあの建物だ。
「そうだ。廃教会。行ってみようかなって思ってたんだった。う~ん……貯金は割とあるし、そっちに行ってみようかな。モンスターの数が減ってるとかも確認出来るかもしれないし」
私は、ヌートリアに来た時に気になっていた廃教会の方に向かって行く。正確な場所を覚えていないので、まずは道に沿って歩いて行く事にした。あの時は馬車で移動していたから徒歩よりも速い速度で移動していたので、割と離れていると思う。
なので、ここは軽く走って移動していく事にした。道中現れるホーンラビットを叩いていく。そこで改めて気付いた。
「数が少ない。う~ん……こうやってモンスターが少ない場所を調べていったら、中心にはヌートリアがあるって事になるのかな?」
私はそこまで調べていないので、確かな事は言えない。でも、ヌートリアが怪しく見えるようにはなっている。
「そういう風に誘導されていたりして。まぁ、ないか」
ホーンラビットを倒しながら進んで行くと、廃教会の屋根が見えてきたので森に入って進んで行く。森の中に入ると、全然モンスターがいない事に気付いた。
「あれ? 一体くらいはマッチョボアがいるかなって思ったんだけど……」
そのまま歩いて廃教会に着く。石造りの教会で、前面が完全に崩れている。奥の方は残っており、屋根は辛うじて形を維持しているという印象だった。
「ふ~ん……何に壊されたんだろう」
何かが壊したのは間違いないけど、マッチョボアではなさそう。それに壊れたのは、随分前かな。苔とかが生えているし、中も風化している感じがする。でも、何か違和感を覚えていた。
「何だろう……何かが引っ掛かるなぁ……」
屋根に注意しながら廃教会の中に入っていく。私が違和感を覚えたのは、廃教会の奥だった。全体的にボロボロになっているけど、その一部だけが綺麗に形が残っているように見える。
「偶々?」
偶然そこだけが綺麗に残っているという可能性はある。でも、元ゲーマーから言わせて貰うと、こういうところにある綺麗な部分というのは、物凄く怪しく見える。まぁ、大抵は何もないのだけどね。
綺麗に残っている壁を触っていると、一部の石だけ動かす事が出来た。ここを崩したら教会が全部崩壊しますとかだったら嫌だけど、多分そんな事はないはず。動く石を手前に引っ張ると、足元から音が聞こえていた。
からくり仕掛けのように動いていき、床の一部がズレて地下へと続く階段が現れた。
「おぉ……隠しエリア発見。まぁ、発見して良いものかも分からないけど」
階段を覗いてみるけど、下の方に小さな灯りが見える。ランプが置いてある的な感じかな。ただそれよりも気になる要素があった。
「【気配察知】に大きな反応がある……何これ……」
周囲を見回して何もいない事を確認する。地下への道を開いて感じるという事は、地下にいるという事で間違いないと思う。そのくらいこの入口は隠蔽率が高いのかもしれない。
グリフォンなんて比較にならないくらいの気配だ。大きさ的にも強さ的にもグリフォンよりも遙かに上だと思う。
(今の私よりも確実に強い。でも、ここで確認しないと取り返しの付かない事になるかもしれない。慎重に行って情報を持ち帰ろう)
このままこの場所に何かいると言っても、信じて貰えるか分からない。カトリーナさんが信じてくれても、他の人が信じてくれなかったら意味がない。
それに下手な人選をすれば死ぬ人が出て来る可能性もある。それなら最悪でも死ぬ事はない私が様子を確認して、人選に口を出せば良い。まぁ、それでも信じて貰えるか分からないけど、しっかりと見れば情報を詳細に話せるようになるから信頼性が上がるはずだ。
雷鎚トールを元の状態に戻して慎重に下っていく。すると、床の入口が閉じていった。
「…………壊せば良いか」
地下のどこにスイッチが分からないから、最悪破壊すれば良いと考えて進む。壊せるだけの手段は持っているし。
通路に着くと広さに驚く。縦三メートル以上はあるかな。横幅も五メートルはありそう。掘られた場所ではあるのだろうけど、壁がしっかりと張ってあるので、しっかりと作られたものなのだと思われる。
ゆっくりと進んで行くと、壁に扉が見えた。
扉の横に張り付いて中を探ろうとするけど、【気配察知】は何も感じない。というか、大きな気配が強すぎて中がよく分からない。水の中で別の水を感じろと言っているような感じだ。
呼吸を整えてから、勢いよく扉を開けて飛び込む。周囲を見回すけど、特に誰かがいる訳じゃなかった。雷鎚トールはそのままでその部屋を調べる。
部屋にあるのは、沢山の書類だった。字が乱雑だったりして、そのままだと読めそうにないから、片っ端からインベントリに入れる。そのせいで誰かの仕事部屋が質素なものに変わった。全体的に石造りだから冷たい雰囲気だけが残っている。
ざっとインベントリの中で書類を確認する。ボロボロの書類やよく分からない文字でもこれで読めるし、仮に私が知らない文字だったとしても読めるようになる。インベントリ様々だ。
『第十二回人体実験記録──
実験対象の冒険者三名にモンスターの血液を注入。今回のモンスターの血液はマッチョボアを利用する。マッチョボアの筋力を人に移す事が出来れば、より強い兵を作る事が出来る。血液によるモンスターの特徴を移す実験も十二回目になる。ここまで適合者は一人もいない。
注入から二時間後──一名死亡。吐血による失血死と思われる。適合者ではなかった事が原因か。
注入から四時間後──二名死亡。全身に亀裂が入り、バラバラに弾け飛んだ。マッチョボアの筋力に身体が耐えられなかったか。あるいは、これまで通りのモンスターの血液に対する拒絶反応も考えられる。
マッチョボアの血液による実験は、これまでよりも生存時間が長い。ホーンラビットの際は最大で三時間だった事を考えると大きな進歩にも思えるが、誤差とも考えられる。今後はマッチョボアとホーンラビットの血液による対照実験を行う必要があるだろう。
実験対象の条件を揃える必要があるため、この実験が出来るのは当分先か』
『第十八回毒物投与実験記録──
冒険者四名に同種の毒物を同量投与する。今回は複数の毒物を混ぜた混合毒だ。
体重約六十キログラムの男性冒険者。目、鼻から出血。五秒後吐血し痙攣。痙攣が十秒程続くと動かなくなる。死亡を確認。
体重約四十キログラムの女性冒険者。吐血。顔色が青くなっていき、更に吐血。そのまま吐血し続け失血死。
体重約八十キログラムの男性冒険者。呼吸が浅くなる。一分後意識が混濁する。二分後死亡を確認。
体重約五十キログラムの女性冒険者。十分後幻覚が見え始める。三十分後死亡を確認。具体的な死因は不明。恐らくショック死と思われる。
同じ毒でも人によって症状が出るものが異なる。これは、相手が持つ抗体もしくは耐性によるものと考えられる。今回症状として出たのは、抗体を持たなかった毒もしくは耐性で耐えられない毒だったのだろう。
同様の実験を複数繰り返す必要有り』
『第二回モンスター隷属実験記録──
ホーンラビットを対象に隷属実験を行う。今回は痛みによる支配が可能かどうか。まずは殴る蹴るなどの軽いものから始める。ホーンラビットは、何度やっても向かってくる。そのうち命が尽きた。
次は刃物で刻む。こちらも何度やっても向かってくる。そのうち失血死した。
次は首を絞める。これも従順になる様子はなく死んだ。
──死んだ。
──死んだ。
──死んだ。
──死んだ。
これ以上は実験の無駄として、次のモンスターに移る事にする』
この他にも悍ましい実験記録がいくつもあった。大体の実験の結果は死亡ばかりだ。ここで一体何人の人が犠牲になったのか。何体のモンスターが無意味にいたぶられたのか。
教会の地下にあるものとしては、あり得ないくらいに悍ましい。




