脱出
ガンクさん達が広場で盗賊達を燃やしている間、私はいくつか建てられている建物の中を探索していた。その理由は、子供達の服や靴と何かしらの情報が眠っていないかの確認をするためだった。
「ここにも無し……あっ、ここは本が置いてある。本を読むだけの知能はあったって事なのかな?」
自然と辛辣な言葉が出て来た。まぁ、五年間も棒で殴られていたのだから、このくらい出て来てもおかしくはないと思って欲しい。
簡単な文字しか読めないので、題名をちゃんと読む事が出来ない。
「そういえば、インベントリの機能って使ってなかったなぁ。本とかは入れておくかな」
転生特典で使えるインベントリに本を入れる。そして、インベントリを開いて本を選択すると、いくつかのメニューが出て来た。『取り出す』『解読』『閲覧』『組み合わせ』の四つのメニューがある。『閲覧』を押すと、その本の中身を読む事が出来る。しかも、ちゃんと私に理解出来る言語に変換されるみたい。
『解読』は、本に隠されている暗号などを解読してくれるものらしい。この本には、何も効果がなかったから、解読が必要になる本が今後出て来るかもしれないのかな。取り敢えず、今は置いておこう。
「これは……娯楽小説? 今は読む必要はないかな」
それからいくつかの娯楽小説を見つけて、何着かの服を手に入れたけど、靴は見つからなかった。子供の足に合う靴を用意してはいなかったらしい。子供靴を収集するような変態がいなかったという事だ。
「靴は無しか……最悪布を足に巻くしかないかな」
服を抱えて皆がいる建物まで戻ってくると、外で水浴びをしている子供達がいた。その水を出しているのは、子供達を纏めてくれている女性だ。確か、名前はリリアンナさんだ。
レパ達が子供達を拭いているので、私は持ってきた服を着せていく。身体が小さいので、上着だけでもワンピースのようになってくれる。盗賊の服だけど、着させられていたボロ布よりも遙かにマシだ。
「は~い。次はあなた達ね。家の裏に移動しましょう」
リリアンナさんに連れられて家の裏に来た私達は、ボロ布を脱いでリリアンナさんが魔法で生み出してくれる水を浴びる。
互いに身体を擦り合ったりして、身体の汚れを落としていく。虐めで水を掛けられる事は何度もあったけど、しっかりと身体を洗うために水を浴びるのは、五年ぶりだ。結構気持ち良い。レパは、特に私を重点的に洗ってくれた。なので、お返しに私もレパを丁寧に洗った。リタとキティも同じように互いを重点的に洗っていった。
タオルで身体を拭いて、私達も服を着る。リザやキティの尻尾が問題だったけど、服に穴を開ける事で解決した。その分破れやすそうだけど。
そして、余った布で、子供達の足を覆う準備をする。そこに、バルガスさんがやって来た。
「おう。ヒナの嬢ちゃん。こいつは役に立つか?」
バルガスさんはそう言って、小さな革の束を渡してきた。
「革ですか?」
「ああ。子供達の足の裏に使えればと思ってな。さすがに靴はなかっただろ?」
「なるほど。ありがとうございます」
「おう。ところで、なんで言葉遣いが変わっているんだ?」
バルガスさんは、最初に会ったときと私の口調が変わっている事に気付いて、そう訊いてきた。確かに、さっきまでと違って、私は少し丁寧な口調にしている。その理由は簡単だった。
「さっきまでは余裕が無かったので、なるべく早く会話が出来るようにしていただけなんです。本当なら大人のお二人にため口は駄目だと思いますので」
敬語で話しているよりもため口の方が早く会話が出来る。それを意識して、私は二人に対してため口で話していた。でも、もう盗賊もいないし、ちゃんとしないと駄目だと思ったから、この口調に変えていた。
「いきなり口調が変わった方が気にするぞ。普通に話してくれ」
「そう? 分かった」
ここで断る方がバルガスさん達に対して失礼になりかねないので、普通に話す事にした。
「でも、このまま出発して大丈夫かな? 皆も疲れてるだろうし、一泊してからでも良いんじゃない?」
「いや、なるべく早く離れる方が良い。盗賊がこれで全員とは限らないからな。ヒナの嬢ちゃんは、腕の方、大丈夫か?」
バルガスさんが自分の腕を指して言う。私の火傷の事を言っているのだと分かる。
「うん。リリアンナさんが治癒を進めてくれたから、大分マシだよ」
「そうか。それは良かった。悪いが、子供達の最後の砦になって欲しい」
「うん。分かった。でも、大丈夫? 私が前に出た方が良かったりしない?」
雷鎚トールを持つ私は、誰よりも戦力になる。それを考えると、子供達の傍で護衛するよりも、私が動き回った方が良いのではと思った。
「いや、ヒナの嬢ちゃんは、さっき倒れかけたとレパの嬢ちゃんから聞いた。アーティファクトがあっても、嬢ちゃん自身の体力の問題があるだろう? しばらくは体力温存してくれ。他の大人達が、嬢ちゃん達が戦っているのを見て、やる気を出しているからな」
「へぇ~、じゃあ、一応ピンチになったら手を貸すくらい?」
「ああ、それは頼む」
「うん。分かった。じゃあ、子供達の準備をしてくるね」
「おう」
私達は、バルガスさんから預かった革と適当な布を使って、子供達の足を保護していく。私達の分の革はないので、そこは我慢する事になった。
そして、それぞれで準備をしていく。
「よし! ガンクさん、準備出来たよ!」
「おう! それじゃあ、さっき話し合った配置で進んでいくぞ。まずは、この森を抜ける! そこから街道を探して街を目指すぞ!」
『おう!』
ガンクさんの指示の元、皆が動き出す。士気は大分高い。中央に子供達を配置して、その周りに私達とリリアンナさん。そこから少し離れて、ガンクさん達大人が囲んでいる。これで子供達の安全を確保して移動する事が出来る。
私達がいた盗賊のアジトは、森に囲まれている。なので、まずは、この森を抜けていく必要があった。それが結構難易度が高い。重要なのは、子供達を守るという事。森には、凶暴なモンスターが多いらしいので、余計に警戒しておかないといけなかった。
森の中を歩き始めると、自然とレパが手を繋いできた。この状況だし、まだ不安が抜けていない感じかな。特に今は問題ないので、手を繋いだまま歩いていく。
三十分くらい歩いていると、キティが私のところに来て服を摘まんだ。
「ん? どうしたの?」
「な、何かいる気がするの。囲んでる音が聞こえる……」
「数は分かる?」
キティは首を横に振る。さすがに、そこまで聞き分ける事は出来ないみたい。まだ子供のキティには難しいって感じかな。
「ガンクさん! 囲まれてる!」
「おう!」
ガンクさんは、手を上げて全員を止めた。私みたいな子供の言葉でも疑う事なく、そのまま受け入れてくれる。これは有り難い事だ。
「ここで迎え撃つぞ!」
襲い掛かってきたのは、灰色の狼だった。
「アッシュウルフだ! ここの強さはそれほどでもねぇ! 連携に気を付けろ!」
ガンクさんがそう言って、アッシュウルフとの戦闘が始まった。私は、もしもの時の為に金槌の大きさで雷鎚トールを出しておく。ただ、私の出番はなかった。バルガスさんが言っていた通り、皆の士気は高く、それぞれがそれぞれの死角などを補い、良い連携で対処出来ていた。
「皆の動きが良くなってる。これなら大丈夫かな」
「うん。だから、ヒナは大人しくね」
「は~い」
レパが私と手を繋いでいるのは、不安だからというだけじゃなくて、私が勝手に動かないようにするためというのもあるのかもしれない。そこまで戦闘狂だと思われているのかな。いや、思われるだけの戦いはしていたかも。
「よし! もう大丈夫か!?」
ガンクさんが確認してくるので、キティの方を見る。キティは、頷いていた。
「大丈夫!」
「おう! そんじゃあ移動再開するぜ!」
「うん!」
そうして森での移動を再開する。
そこから二時間程掛けて森を抜ける事が出来た。その間、四回程アッシュウルフが襲ってきたけど、皆が頑張って何とか切り抜ける事が出来た。私も一回だけ戦闘に参加したけど、一匹抜けてきたアッシュウルフを叩き潰しただけだった。