嬉しい再会
ゴンドラで街を見て回った後、船頭さんにお礼を言ってから地上に戻る。水路から見る街と地上から見る街では印象が本当に違う。より下の方から見る水路は、街がより大きなものに見えたけど、地上から見ると普通にしか見えない。
「水質も良いからか嫌な匂いとかもしなかったし、普通に良い感じだったなぁ。さてと、夜ご飯食べて宿に戻ろう」
昨日と同じ大衆食堂で夜ご飯を食べる。割とメニューがあるから、毎日行っても飽きない。それに栄養バランスもしっかりしているから、メイリアさんとの約束を守れるのも大きい。偶には崩しても良いけど、まだそこまでの欲求を持っていないから平気だ。
夜ご飯を食べ終えて宿へと向かう。大分日が沈んできているので、なるべく早く帰ろうと思っていると、昨日よりも街が賑わっているのが分かった。
「何だろう?」
ちょっと気になったので、騒がしくなっている方に向かって行く。すると、少し長い人垣が出来上がっていた。身長の低い私ではどう足掻いても、その奥を見る事は出来ない。
「う~ん……まぁ良いか」
そんな何が何でも見たいという訳では無いから、宿に戻る事にした。その時にようやく気付く。この人垣が宿を囲んでいる事に。
「…………頑張ろう」
何とか人の切れ間を抜けつつ頑張って潜る事で、宿の中に入る事が出来た。
「はぁ……本当に迷惑……」
マッチョボアを相手にするよりも疲れた気がする。ため息をつきながら歩いていると、正面から駆け寄ってくる人がいた。その人は私もよく知る人で、さっき会いたいと思っていた人だった。
「ヒナちゃん!」
勢いよく駆け寄って来たミモザさんが、私を抱きしめてくる。胸に押し潰されるかと思った。それと同時に少し汗っぽい匂いがする。どうやら帰ってきたばかりみたいだ。
「ミ、ミモザ様、そのままですと窒息させてしまうかもしれません……!」
「あっ、ごめんなさい。大丈夫ですか?」
「はい。また会えて嬉しいです」
「はい。私もですよ」
ミモザさんは私の頭を優しく撫でてくれる。その後ろから少し心配そうな表情をした赤い髪で犬人族の女性がいた。ハヤトさんの馬車の御者を務めていた女性だ。
その後ろにはジェーンがいた。
「誰かと思えば、あの時のガキかよ。ったく付き合ってらんねぇ」
そう言って自分の部屋に帰っていった。あの性格でよく上手く付き合っていられると本当に思う。私が変なのかな。
「ヒナか。こっちに来ていたんだな」
そんなジェーンを見送って、ハヤトさんがやって来た。ハヤトさんは少し驚いたような表情をしていた。私がもう来ているとは思わなかったみたい。もう少し後になると思っていたのかな。
「はい。元々こっちに来ようと思っていたので」
「そうか。せっかくまた会えたんだ。ミモザに付き合ってあげてくれ。ヒナと過ごせれば、多少はストレス発散になるだろう」
「はい」
「またな。行くぞ、ユーリ」
「はい!」
ユーリと呼ばれた赤髪の犬人族の女性がハヤトさんを追っていく。名前を呼ばれた時に尻尾を激しく振っていたので、ハヤトさんを好いている事が分かる。ジェーンはよく分からないけど、ユーリさんはそういうために集められた一人という事が分かる。
一体何で惚れたのか気になるけど。そんな事を考えていたら、ミモザさんが急に慌てて離れた。ちょっとだけ頬と耳が赤くなって恥ずかしがっているような感じがする。
「ごめんなさい。帰ってきたばかりだという事を忘れていました。汗臭かったでしょう?」
ミモザさんは恥ずかしそうにそう言った。そこまで気にする事もないと思うけど、女性だから気になるものは気になるよね。
「ミモザさんが頑張ってお仕事をしていた証拠ですよ。そんなに私は気にしないですよ」
そう言うと、ミモザさんは、また顔を赤くしていた。ちょっと良い格好し過ぎたかな。でも、ミモザさんには好印象だったから良いよね。
「それでは、私は一度部屋に戻ってお風呂に入ってきます。ヒナちゃんのお部屋はどこですか?」
「私は505です」
「そうなのですね。私は504です」
「えっ!? 隣だったんですか!?」
何という事だろう。ミモザさんはずっと隣にいたらしい。つまり、タイミングが全然合わずに、すれ違いをしていたみたいだ。
「嬉しい運命ですね。後でお部屋に伺っても良いでしょうか?」
「はい!」
ミモザさんと一緒に五階に上がって、それぞれの部屋に入る。そして、ミモザさんが来る前に私もお風呂を済ませた。いつもよりも早く上がっているけど、それは気にしない。今はお風呂よりも、ミモザさんとの時間だ。ちゃんとイースタンで買った良い匂いのする石鹸も使っているから、何も問題はないはず。
髪を拭いていると、すぐにノックが来たのでミモザさんを中に受け入れた。ミモザさんは中に入ると、私の頭に掛かっているタオルを手に取って、私をベッドに座らせてから水気を取ってくれた。
水気を取ったタオルは、軽く石鹸で洗ってから干しておく。ミモザさんも手伝ってくれたので、今日着ていた服などの洗濯も終わった。そうして色々と終えた後、ベッドの上でミモザさんの肩に寄り掛かっていた。ミモザさんも腰をに手を回して支えてくれる。
「ギルドで聞いたんですが、何か色々と調査をしているみたいですね?」
「はい。モンスターの様子が前と変わったという事で、勇者様が何か違和感を覚えたらしく、しばらく調査をしています。ジェーンは不満のようですが、モンスターの様子が変である事は事実でしたので、少し滞在期間が延びたのです」
「へぇ~……」
やっぱりジェーンは反対したらしい。あの人なら普通に反対すると思った。今のハヤトさんの旅は物凄くゆっくりだろうから。どう考えてもせっかちそうなジェーンが反対しない訳がない。
「何か分かったんですか?」
「湖にモンスターが集まっているという話しでしたが、実際は湖周辺に逃げてきているのではと勇者様はお考えのようです。私も同意見でした。モンスターが集まっているのは、湖の片側と思われるからです」
「片側……街がある方とは逆側ですか?」
私が湖を一周した時に、一番モンスターとの遭遇率が高かった場所だ。集まっている場所と言えば、そこしかないだろうと思ってそう言ったら、ミモザさんが頷いた。
「はい。ヌートリアから離れるようにというのが勇者様のお考えですが、それに対して何かに引っ掛かっているようです」
引っ掛かる。一体何が引っ掛かっているのか。私は少し考えてみる事にした。
(引っ掛かる点は……順当に考えれば、モンスターが逃げる理由。冒険者を恐れているとすれば、それはもっと前から起こってないとおかしいってなる。だから、もっと別の原因がないとおかしい……モンスターが恐れるような何かが街に……ううん。街に拘るのも違うかもしれない……ん? そういえば……)
そんな風に考えていると、目の前にミモザさんの綺麗な顔があった。緑色の双眸が私の目を見ている。
「大丈夫ですか?」
考え事をしている状態で黙り込んでいたからか、ちゃんと起きているのか心配になったみたい。
「はい。ちょっと考えていたんですけど、ドラゴンの目撃情報ってないんですか?」
「ドラゴン……ですか?」
ミモザさんは元の姿勢に戻りながら聞き返してきた。この様子だとドラゴンに関する情報はないのかな。ちょっと詳しく情報を出して、何か引っ掛かるような情報がないか引き出してみる。
「はい。盗賊のアジトから抜け出して草原にいた時に空を飛んでいたドラゴンがいたんです。落ちてきた血を浴びたので、傷だらけだったと思います。そのドラゴンの飛んでいった先が、ヌートリアの方面だった気がするので」
「なるほど……ん? 血を浴びたのですか?」
ミモザさんは、眉を寄せながら私を見た。ミモザさんもドラゴンの血を浴びる事がどういう事を意味しているのか分かるらしい。
「はい。それで【竜の血】のスキルが目覚めました」
「そうですか……であれば、空を飛んでいたのは、本当にドラゴンの可能性が高いですね……ですが、この辺りでドラゴンの話は聞きません。ここより先に飛んでいったか、ヌートリアに着く前に森のどこかに墜落したのかもしれませんね。血を流したままという事は、どこかに痕跡が残っているかもしれませんし、明日勇者様にお話してみます」
「はい。お願いします」
ハヤトさん達が調べてくれるのなら安心かな。でも、あのドラゴンが本当に死んじゃったのかとかが少し気になるし、私の方でもちょっと調べてみる事にする。
そんな会話をしていたら、欠伸が出た。いつもならもう寝ている時間だからかな。後は、身近にミモザさんがいるという安心感もあると思う。
「もう眠いようですね。今日は一緒に寝て差し上げましょうか?」
「はい……お願いします」
私はそう言ってミモザさんに抱きつく。すると、ミモザさんが抱きしめ返してくれて、そのままベッドに入ってくれた。ミモザさんに包まれながら私はゆっくりと眠りに就いた。やっぱり誰かと一緒に寝るのは安心出来て良いな。




