出立
それから二週間が経った。一週間前には、ミモザさんがハヤトさん達と旅立っていったので、その見送りをした。ミモザさんが私にキスをしていったので、ハヤトさんは何かを察したみたいだった。ジェーンは、何とも言えないような複雑な表情をしていた。
ミモザさんを見送った後も依頼を続けて、二百万リルを集める事が出来た。本当は野営道具とかで出費が出るはずだったのだけど、騎士団の皆が野営道具をプレゼントしてくれたので稼いだ分がそのまま残った。
そして出立の日。私は宿舎内の私にあてがわれた部屋に置いてある私物を全部回収してインベントリに仕舞っていた。
「片付けは終わったかしら?」
部屋の入口を見ると、メイリアさんがいた。私の準備が済んだのか確認に来てくれたみたいだ。
「はい。多分、これで終わりだと思います」
私がそう言うと、メイリアさんが一通り部屋を調べて行って、忘れ物がないか確認してくれる。
「大丈夫そうね。それじゃあ、これは私からプレゼントよ」
メイリアさんはそう言って騎士のぬいぐるみを出した。騎士という事もあって、ちょっとメイリアさんに似ているような気がする。
「これが私だと思えば、寂しくないでしょう?」
「はい! ありがとうございます! 大切にします!」
騎士のぬいぐるみを抱きしめながら言う。すると、メイリアさんは優しく微笑んで、額にキスをしてきた。
「私はしばらくここから離れられないから一緒に行ってあげられないけれど、ヒナちゃんの保護者にはまだなっているから。それだけは覚えておいて」
「はい!」
私はしゃがんでいるメイリアさんに抱きつく。すると、メイリアさんも抱きしめ返してくれる。
「手紙を送りますね」
「ええ。待っているわ。それじゃあ、ギルドに行くわよ」
「はい!」
メイリアさんと手を繋いで宿舎を出る。すると、騎士団の皆が見送ってくれた。手を大きく振って騎士団の皆に挨拶をしてから、ギルドへと向かった。
ギルドに着くと、すぐにビビアンさんが迎えてくれた。ビビアンさんは、私を抱きしめてくる。なので、私も抱きしめ返した。
「気を付けてね。本当に気を付けて。でも、旅は楽しむのよ」
「はい。お世話になりました。また会えたら、その時は可愛がってくださいね」
「ええ。いつでもね」
ビビアンさんはそう言って、私にキスする。そして、もう一度抱きしめて頭を撫でてから、少し離れた。
「あまり長くしていると、このまま家に連れて行っちゃいそうだから。ヒナさんの無事をずっと祈っているから」
「はい! ありがとうございます!」
ビビアンさんに撫でて貰っていると、私達のところにガンクさんとバルガスさんがやって来る。
「ヒナの嬢ちゃん。準備は良いか?」
「うん!」
「おっしゃ! じゃあ行くか」
ガンクさんとバルガスさんは、次の街まで同行してくれる。二人もその街に向かうという事で、タイミングを合わせてくれたのだ。二人も色々とやる事があったみたいだから、丁度良かったみたい。
ビビアンさんは仕事があるので、ギルドまでの見送りとなる。なので、もう一度ビビアンさんに抱きつく。
「いってきます」
「はい。いってらっしゃい」
ビビアンさんも抱きしめてくれて別れる。涙が出そうだけど、ここでは流さない。ちゃんと元気に別れないとね。
大きく手を振ってギルドを後にした私はガンクさん、バルガスさん、メイリアさんと一緒に街に入口に向かう。そこで、ガンクさん達は馬車を用意してくれている。
その間にメイリアさんは、私と目を合わせるためにしゃがむ。
「さてと、次の街に行ったら?」
「まずはギルドに向かう」
「何故?」
「冒険者として滞在する事を伝えるのと良い宿を紹介して貰うため」
「食費は?」
「なるべく安く栄養が取れるように。最悪自炊」
「次に行く街が決まったら?」
「ちゃんと手紙で知らせる」
「身の丈以上には?」
「仕事をしない」
「良し! それじゃあ、元気にいってらっしゃい」
「はい! いってきます!」
メイリアさんと注意する事を確認していたら、もう馬車の用意が終わっていたので馬車に乗り込んだ。後ろが丸開きの幌馬車なので、簡単に乗り込める。御者はバルガスさんが務めてくれる。
私が乗り込んだのを確認して、馬車がゆっくりと動き出していく。メイリアさんは門の外まで見送ってくれる。だから、私は大きく手を振り続けた。馬車の速度が速くなって、メイリアさんが見えなくなるまで。
「別に泣いても良いんだぞ?」
ガンクさんは、私が涙を堪えているのを見てそう言ってくれた。それに対して、私は首を横に振る。
「ううん。別れる時は笑顔でいたいもん。それに、また会えるかもしれないしね」
「そうか。なら、俺には何も見えねぇな」
ガンクさんは目を瞑ってそう言う。私の目から頬を伝う涙を見ないようにして。
馬車は、順調に街道を進んでいく。もう既にイースタンは見えなくなっていた。意外と速度が出ている。
「この道って、私達が歩いた道?」
「ああ。少し長いが平坦で安全な道の方が良いからな。それに情報を集めた限りでは、山道では土砂崩れが起きているみてぇでな。ここが一番良いって事だ」
「ふ~ん、そうなんだ。それってギルドで得られる情報?」
「おう。掲示板の一部にそういう情報が載ってんぞ」
「へぇ~、旅するなら、そういうのも見ないとかな」
掲示板と言えば、依頼ばかり見ていたので、そっちは全然気付かなかった。依頼が張り出されている掲示板にそんな情報があるわけもないので、気付くはずもないのだけど。
「ああ。なるべく気にしておいた方が良いな。今みてぇに馬車で移動するとすれば、土砂崩れをしている場所で通行止めになんからな。歩きってなら乗り越える奴もいるが」
「そっか。でも、基本歩きになると思うから、あまり変わらないかな」
「馬車でも扱ってみっか? バルガスが教えられんぞ」
「やってみるか?」
私達の話を聞いていたバルガスさんがそう言って振り返る。余所見運転はやめて欲しい。ただ、その提案には乗る。今後の旅に関わってきそうだし。
「やりたい!」
私がそう言うと、バルガスさんが御者台から後ろに戻って来た。御者台に乗って、手綱を握る。そして、バルガスさんに教わりながら馬車を操縦していく。すると、私達が通った森の前を通り過ぎて行くのが分かった。
「結構速いね」
「ああ。割と強い馬を借りられたからな。それに歩きに合わせる必要もない。だが、そろそろ休憩を入れないといけないな」
「馬が疲れちゃうもんね。どこら辺で休むの?」
「この先に川があんだ。この街道はその川と合流して、そのまま街まで伸びてるらしいぞ」
「へぇ~……そうなんだ。川沿いの道か……危険じゃない?」
「まぁ、氾濫していればな。そんな情報はねぇし、街道自体は、川からそこそこ離れてる。街道と川の間に小さな草原が続いてるって感じだな」
「ふ~ん……野営には良さそうだね。水が隣を流れてるし」
水分の補給がしやすいという面と衛生的な面で、川が流れているというのは有り難い。水の魔法とかが使えないと、身体が汚れたまま過ごしていかないといけないし。水を自由に使えて、ちゃんと身体を拭けるのは嬉しい。私も水魔法を使えたら、いつでも水浴び出来るのにね。
「野営を考えて人々が歩いた証拠とか言われてんな」
「へぇ~、そうなんだ。もうちょっとで休憩だから頑張ってね」
馬車を引いている馬にそう言うと、大きく嘶いて速度を上げた。休憩か近いからって、そこまで急がなくても良いのに。その方が疲れるだろうし。まぁ、やる気があるのは良い事だと思うけど。
そのまま進んでいくと、少しずつ川が見えてきた。
「少し先に行った場所にある草原で止めてくれ」
「うん」
川が真横に見えてから少し進んだ場所にある草原に逸れてから止まってもらう。。
「どうどう」
馬が止まったところで、御者台から降りて馬の留め具などをバルガスさんに習いながら外していく。
「あまり離れちゃ駄目だよ? ここで草を食べて休憩してね」
私がそう言うと、馬は首を押し付けてくる。なので、軽く撫でてあげる。懐かれる事をした覚えがないので、人懐っこい子なのだと思う。ここでは一時間の休憩をしつつ、近くの草原にいるホーンラビットを倒しておいた。
二人は、私が【アイテムボックス】のようなインベントリを持っている事を知っているので、このまま仕舞って次の休憩場所に着いた時に夕食として出す事になった。
そこから次の街であるヌートリアまでの道程は、本当に平坦で特に大きな出来事もなかった。日が沈む前に止まってテントを張って寝る。日の出と共に起きて、朝ご飯の後に出発する。毎日テントの中で身体を拭いていたけど、イースタンでの生活でそれでは満足出来ず、お風呂に入りたくなった。
ヌートリアまでの道程は、大体一週間掛かった。それでも全然問題がなかったのは、ガンクさんとバルガスさんが見張りをしてくれたりと、危険な事を引き受けてくれていたからだ。一人で旅をするとなると、ここら辺も気にしないといけない。【気配察知】のおかげで、何かが近づいて来たら分かるから、ある程度問題はないと思うけど。
それと何度か馬に乗せて貰う事も出来た。嫌がられるかと思っていたけど、特にそんな事はなく、普通に歩いてくれた。馬の方から乗せてくれたりもしたので、【騎乗】のスキルも手に入れる事が出来た。
こういうちょっとした無駄な時間とかもあったから、予定よりも少しだけ時間が掛かる事になっていた。まぁ、その分良い経験が出来たから良いのだけどね。




