楽しい
リタ達を救出してから、盗賊を四人殺した。その内、二人は、リタとキティに殺して貰った。それでレベルが上がれば生存確率が上がるので仕方ない。残り二人は、ガンクさんが手早く片付けた。そうして、十人の奴隷を解放した。解放された奴隷は、男性奴隷が多かったので、三、三、四で分かれて、他の奴隷の解放をして貰う事になった。手分けをすれば、それだけ盗賊の数を減らして、奴隷を解放出来る。
こうして、効率を上げていく事で、私達の安全度が上がっていった。そして、段々と出口が近づいてくる。それと同時に大きな音が聞こえてくる。
「既に外で戦闘が起こっているな」
「大丈夫かな?」
「分からねぇ。だが、激しい戦闘って事は間違いねぇ。気を引き締めろ」
バルガスさんもガンクさんも真面目な声でそう言うので、レパ達の表情が強張る。緊張するのは良い事だ。それだけ慎重になれる。後は、私が守るように動けば大丈夫なはずだ。
「行くぜ!」
外に出ると、そこには広場が存在し、盗賊と元奴隷達が戦っていた。
「嬢ちゃん達は、子供達のところに行ってくれ!」
バルガスさんはそう言って駆け出す。ガンクさんは既に駆け出していた。
私達は、端っこの方で守られている子供達の方に向かう。年齢的には、十に満たない子供達ばかりだ。戦闘慣れしていない大人が必死にツルハシとスレッジハンマーを使って戦っている。一気に加速した私は、襲い掛かろうとしている一人の盗賊の腰を打つ。
「ごっ……!?」
くの字に曲がりながら、盗賊は横に吹っ飛んでいき、隣にいた盗賊を巻き込んで倒れていった。
「てめぇっ! 何してやが……」
ぶつかってきた仲間が腰から曲がっているのを見て、盗賊は困惑していた。その盗賊の背後に移動して、その頭を真上から雷鎚トールを振り下ろす事で潰す。その間に、レパ達も追いついてきて、一人の盗賊の足に穴を開けて、倒れたところを三人で滅多刺しにして倒していた。
三人で組み、確実に一人を狙う。これなら、比較的安全に戦える。私は三人を気にしながら、子供達に向かっている盗賊の身体をへし折っていく。
「ガキがっ!!」
私が邪魔になると判断した盗賊の一人が私に向かって来た。振り下ろされる片手剣を振り上げた雷鎚トールで弾き飛ばす。
「んなっ!?」
驚愕している盗賊の肩に雷鎚トールを叩き付けて、姿勢を崩したところで顔面を打って首を飛ばす。飛んでいった首は、元奴隷と戦っている盗賊の一人に命中して、図らずも援護になった。
「レパ達は……」
三人は、子供達の傍で盗賊達と戦っている。その援護をする為に駆け出そうとしたけど、また私の元に盗賊が向かってきた。再び、剣を弾き飛ばし、盗賊の股間を雷鎚トールで打って、悶絶して倒れたところをゴルフのように顔を弾いて倒した。
『ヒナのレベルが上昇しました。6SPを獲得』
『スキル【槌術】を獲得』
ステータスを確認したいところだけど、ここで確認する余裕はないので、そのまま駆ける。
レパ達が戦っている方に向かって行き、戦っている盗賊の後ろから加勢しようとしている盗賊に向かって行き、その腰を雷鎚トールで突く。腰の骨の一部が粉砕された盗賊は地面に顔を擦り付けながら倒れる。
「あ……あ……」
唐突に腰をやられた盗賊は目を剥きながら声を漏らしていた。そのまま顔面を潰して殺した。
「ガキがぁ!!」
怒声が聞こえたと思ったら、一際がたいの良い盗賊が両手剣を持って突っ込んで来た。盗賊のくせに、騎士みたいな武器を持っているのは、盗品を使っているからなのかな。私が盗賊を殺し回っているのを見て、標的として決めたらしい。レパ達に回すわけにはいかないので、私も突っ込む。
「死ねや!!」
「ふんっ!」
振り下ろしに合わせて、雷鎚トールを振り上げて弾く。でも、こっちも軽くノックバックさせられた。
(これまでよりも遙かに重い……ステータスに大差がないって事?)
こいつは油断出来ない相手らしい。確実に、他の盗賊とは別格の存在。私は見た事も会った事もないけど、こいつが盗賊のボスなのかもしれない。
私はすぐに体勢を立て直して、雷鎚トールを振う。同時に、ボス盗賊も両手剣を振って合わせてきた。そこから互いに武器で武器を弾く攻防が十回以上続く。弾きが甘くて、少しだけ攻撃が身体を掠める事があったけど、それでも身体が動かなくなるような傷じゃない。
命を賭けた戦いで、ここまで白熱してくると、ゲームをしていた時を思い出して楽しくなってくる。
そんな中で、ボス盗賊も困惑の表情になっていた。私みたいな子供をすぐに殺す事が出来ないという事実が、ボス盗賊には信じられないらしい。
「な、何なんだ……テメェは!! この状況で……何で笑っていられる!?」
違った。ボス盗賊が信じられなかったのは、私がこの状況でも笑いながら攻撃していたかららしい。
(笑ってたかな? まぁ、そんな事はどうでも良いか。今はただこの戦いに勝とう!)
自然と口が弧を描いている事に気付いた。確かに私は笑っていた。PvPゲームばかりしていたからかな。こうした戦いになると、どうしても昂揚感が抑えられなくなる時がある。でも、別に良いよね。
ボス盗賊の攻撃を弾いて弾いて弾いて、その身体に雷鎚トールを叩き付ける。ボス盗賊のお腹に命中したけど、ボス盗賊がノックバックしていくだけで、死には至らなかった。
「ハッ! その程度か!?」
こっちの筋力はかなり高いはずだけど、向こうは耐久が高いらしい。それでもダメージは負っているらしい。ちょっとお腹を擦っている。
「俺の鉄の身体は、その程度じゃ崩れねぇぞ!!」
そんな事を言うボス盗賊に向かって突っ込み、思いっきり両手剣を弾き飛ばしてから、太腿を打つ。そして、流れるように雷鎚トールを振り上げて、腕を打ち、肩を打ち、脇腹を打ち、爪先を打ち、手を打ち、脇腹を打ち、脇腹を打つ。
「がっ! ぐっ! うおっ! ぐあっ! テ、テメェ……!!」
「鉄なら何度も叩けば強くなるよね? ああ、もしかしたら発熱もするかもね」
「ぐっ! ごっ! ぶべっ! ぴっ! がっ! げっ……! ごっ……! う……む………………」
武器を失ったボス盗賊に対して、雷鎚トールを振り回して滅多打ちにしていく。それでもボス盗賊は死なない。本当に耐久が高いらしい。でも、大分ダメージは溜まっているように思える。今は既に膝を突いて、息も絶え絶えになっているから。
(トドメ)
私は雷鎚トールに雷を纏うように念じる。すると、雷鎚トールが本当に雷を纏った。やっぱり、念じるだけで良いみたいだ。
「痛っ……」
纏った雷が、私の腕の方に伸びてきて、赤く火傷を負っていく。腕の表面に木々の絵のような火傷が広がっていた。
(これヤバい……)
このまま維持するのは危険だと判断して、そのままボス盗賊に叩き付けた。
「あ……待っ……」
何か言おうとしたボス盗賊の横顔に雷を纏った雷鎚トールのヘッドが命中する。直後、雷鳴と共に雷がボス盗賊の頭を貫き、身体全体にも流れたようで私と同じような火傷が広がり、身体をビクンビクンと震わせながら倒れた。
『ヒナのレベルが上昇しました。6SPを獲得』
『スキル【雷耐性】【見切り】を獲得』
どうやら殺す事が出来たみたい。頭を雷が貫いていたし、さすがに高い耐久を持っていても耐えられなかったみたい。頭も雷鎚トールの形で凹んでいるし。
「次」
強敵を倒したので、次の獲物を狙おうとしたところで、膝から崩れる。
「あ、あれ……?」
身体に力が入りづらい。MPを消費したからかな。バルガスさんの言うとおり、今のMP量で雷鎚トールの雷を使うのは危険だった。力を振り絞って立ち上がろうとすると、誰かに抱え上げられた。
「重っ……」
抱えてくれたのは、レパだ。私はすぐに雷鎚トールを腕輪にする。これで、雷鎚トールの重さが軽くなり、レパが運びやすくなる。質量保存の法則はどこに行ったのだろうか。そんな疑問が頭を過ぎったけど、考えても仕方ないので端に追いやっておく。
「レパ、ありがとう」
「無理しないの! あんな大男と一人で戦って……戦い好きになっちゃったのは、仕方ないかもだけど、こんな場所で動けなくなるのは駄目でしょ!」
ボス盗賊と戦っている時に笑っていたのを見られたみたい。それは良しとしてくれているけど、その後動けなくなっていたのを叱られた。まぁ、その通り過ぎるので謝っておく。
「ごめんなさい」
「全く……取り敢えず、立て籠もれる家を見つけたらしいから、そこに避難するよ。子供達もそこに入ったから」
そう言われて、子供達が居た場所を見ると、本当に一人もいなかった。手早く移動出来たのは、それだけ子供達を統率出来る存在がいたとみるべきかな。
リタ達もその家の前でツルハシを持って待っていた。
「ヒナ! レパ! 早く!」
私達が入ると、リタ達も中に入って扉を閉めた。多分、扉の前には男性の大人達が武装して守ってくれていると思う。さっき、リタ達と一緒にいたし。
「はぁ……はぁ……これでひとまず大丈……夫……って! ヒナ! 手!」
レパは私の事を改めて見て、私の手に広がっている火傷に気付いたようだ。
「それに、顔にも切り傷が……」
「え? そっちは気付かなかった」
「もう……心配させないで……」
レパは、私の額に自分の額を押し付けながらそう言う。レパは、本当に私の事を想ってくれている。それが伝わってくる。
「うん。ごめん」
私達は、そのまま家の中で立て籠もり、外の戦闘が終わるのを待った。ボス盗賊が死んだ事もあり、盗賊達も士気を失い、ガンクさん達がすぐに掃討してくれた。ひとまず、これで私達の安全は確保される事になった。