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異世界旅はハンマーと共に  作者: 月輪林檎
異世界旅始め

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メンタルケア

 ゴミ拾いを中断した私達は、ギルドに戻り最低限の四千リルの報酬を受け取る。ビビアンさんは、ギルドマスターに事の次第を報告して、途中退勤の許可を得て戻って来た。


「許可が取れました。ひとまずは様子見をするようにと」


 クビの判断はビビアンさんとギルドマスターで行っているが、クビにするための報告をしたのはビビアンさんだ。そこからの恨みで行動されているとギルドマスターも判断したみたい。この様子見というのは、騎士団がどう処分するかを見てから動くようにという意味だろう。


「良かったです。宿舎には寄らない方が良いでしょうし、途中で服屋に寄って良いですか? 下着と服を買いたいので」

「そうですね……うちにヒナさんに合うサイズはないと思うのでそうしましょう」


 ビビアンさんも退勤出来る事になったので、ビビアンさんの家に向かう前に服屋と雑貨屋で買い物していく。下着と着替え、歯ブラシなどを買うためだ。ここの代金はビビアンさんが出した。自分のために来るのなら、そのくらいはさせて欲しいとの事だった。

 さすがにビビアンさんも馬鹿ではないので、メイリアさんの考えは見抜いているようだ。

 そして、途中のお店で昼ご飯を食べてから、ビビアンさんの家に来た。ビビアンさんの家は集合住宅の一階だった。中は1LDKになっている。お風呂とトイレもあり、一人暮らしとしては良い物件だと思う。


「お邪魔します」

「狭いところですみません。ゆっくり寛いでください」

「はい」


 取り敢えず、手洗いうがいをしてから、ショートパンツとシャツというラフな格好でソファに座る。ビビアンさんもラフな格好に着替えて、私の隣に座った。


「この度は本当に申し訳ございません。私のトラブルに巻き込んでしまいました」

「いえ、あれを解雇したビビアンさんの判断は正しかったと思います。正直採用されたのが不思議なくらいでしたし。あの態度のままだったら、どこでも採用なんてされないでしょうし。それに対して復讐なんて、復讐に失礼ですよ」


 復讐は自業自得の結果に対して行うべき事ではない。私が両親を奪われたように、ガンクさんとバルガスさんが裏切られて奴隷にされたように、理不尽に対して行うべきものだと私が考える。だから、あんな事で復讐するというのは、復讐という言葉に失礼だ。

 そんな事を言うと、ビビアンさんは少し驚いていた。まぁ、変な事を言っている自覚はある。


「復讐に失礼ですか……ヒナさんは面白い事をおっしゃりますね」


 ビビアンさんはそう言って笑う。さっきまでずっと暗い顔をしていたから、こうして笑ってくれるだけでも嬉しい。


「ヒナさんは、何かやりたい事はありますか? まだ夕方までも時間がありますし、ヒナさんがやりたい事をしても良いですよ?」


 確かに、まだおやつの時間もまだな時間帯なので、ここからやる事がないという事態になる。いつもなら本を読みに図書室に行ったりするけど、それは宿舎だから出来る事。私はビビアンさんを守るために泊まっているので、どこかに行く事も出来ない。


「何だろう? う~ん、取り敢えず、ビビアンさんと仲良くなりたいです」


 何もする事がないのなら、ビビアンさんとの距離を詰める事にした。ビビアンさんは、最初にギルドで仲良くしてくれた良い人だし、私も大好きだからだ。大好きな相手なら、仲良くなりたいと思うのは当然の事。


「仲良く……」


 ビビアンさんはそう言いながら、少しだけ頬を赤らめていた。そういえば、ビビアンさんは私を模したぬいぐるみを買う程私を気に入っているのだった。仲良くをちょっとえっちな方向に考えているかもしれない。気に入るというのがそういう方面だったらの話だけど。態々模したぬいぐるみを探すという事は、そういう可能性が高いと思う。

 私としては、ビビアンさんは好みだから歓迎ではある。まぁ、好みじゃない女性の方が少ないかもしれないけど。


「ビビアンさんって、ずっとギルド職員だったんですか?」


 取り敢えずは、会話から入る事にした。そこから発展する事があれば、その時考えよう。


「はい。別の街で学校に入り、色々と知識を蓄えてから、こちらのギルドにて働く事になりました。実はメイリアより二歳年下ではあります」

「えっ!? そうなんですか!?」


 てっきり同い年かと思っていた。でも、ビビアンさんには、年齢以上の風格がある。その若さで受付係のリーダーを任せられるのだから、風格に合った優秀さも備えている。


「はい。こう見えて優秀なのですよ」


 ビビアンさんはウィンクしながらそう言う。こんな優良物件のような女性が恋人もいないとなると、優秀すぎて逆に近づきがたいという感じの人と思われているのかも。高嶺の花みたいな。それでもモテそうだけど。


「そこまで優秀だとビビアンさんは、モテそうですよね」

「どうでしょう……割と怒る事も多いので嫌われている事の方が多いと思います」

「え~……でも、それってちゃんとしてない人に対するものですよね? 逆にちゃんと叱ってくれる人の方が嬉しいと思いますよ。ああいう人を放置しておく方が問題に繋がりそうですし」


 私がそう言うと、ビビアンさんはやっぱり驚きながら私を見る。

 色々な漫画や映画などを見ていると、問題児は早々に排除しておく方が良いのではと思うからそう言っただけなのだけど、ちょっと子供っぽくはない事を言っちゃったかもしれない。


「ヒナさんは、的確に私を喜ばせる事を言ってくれますね」

「そうですか?」

「はい。とても嬉しく思います」


 ビビアンさんはそう言いながら、私の頭を撫でる。基本的にビビアンさんを褒めるような言葉ばかりを言うからかな。私が知っているビビアンさんは、それだけ褒めるところしかないし。

 ビビアンさんが喜んでくれるのなら、私も嬉しい。段々とビビアンさんが纏う雰囲気も硬いものが消えて打ち解けてきた事を感じる。


「そうだ! ビビアンさんは、メイリアさんに話しているみたいに少し砕けた感じになってください。今のビビアンさんは、ギルド職員として話しているような感じに思えるので。せっかくプライベートで会っている訳ですし」


 ここで三歩くらい詰める事にした。ギルド職員と冒険者の関係だから敬語で話してくれているけど、本来のビビアンさんは、メイリアさんと同じように話すのだと思う。私にも同じように話せるようになったら、ギルド職員と冒険者の壁がなくなると考えられる。

 そうすれば、もっと仲良くなれるはず。


「それは……いや、そうね。それじゃあ、お言葉に甘えさせて貰おうかな」

「はい!」

「ヒナさんも普通に話して良いからね。」

「う~ん……私はこっちの方が話しやすいので。最初から敬語を使っていなかったら、普通に話せるんですけど、ビビアンさんには、最初から敬語だったので。まぁ、私の敬語はなんちゃって敬語ですが」

「そうなの? なら、仕方ないか」


 ガンクさんやバルガスさん達みたいに状況で敬語を使わずに話していたならまだしも、ビビアンさんには最初からこんな感じなので、急にため口にするように言われてもちょっと困る。なので、現状話しやすい方で話させて貰う事にした。身体も中身も年上だからっていうのもあるかな。

 少し話していると、ビビアンさんの手が、私の手に触れる。隣に座っているから、触れる事は普通にある。それで手を離す理由もないので、そのままにしていたらビビアンさんが手を繋いできた。指が指の間に入れられる。俗に言う恋人繋ぎってやつかな。

 手を繋がれても気にならないどころか、私としてもこのままで良いかなと思っていた。

 その状態のまま会話は続く。本当に他愛のない話だ。この街の美味しいレストランとか、どんな動物が好きかとか、好きなご飯とか、そういう互いの事を知っていくような話題ばかりだった。そこまで二人でやった事とかもないし、私の過去はビビアンさんも知っているので、不用意に触れてこない。まぁ、触れられても記憶にないものの方が多いから、何も言えないのだけど。幼少期の思い出は、本当に消えるのが早い気がする。少なくとも私は前の世界でも、そこまで小さい頃の思い出はあまりなかった。

 好きだったものくらいは覚えているけど、本当にそれくらいだ。

 そうしながら、ビビアンさんに寄り掛かるようにすると、ビビアンさんの右手が私の頬に触れる。


「メイリアから聞いたのだけど、身体が欠損する程の傷を負ったって」

「あ、はい。右腕以外の四肢と顎と左目が潰されたみたいですね。再生と治療で作られたみたいですけど」


 私がそう言うと、ビビアンさんは私の左目を覗きこんできた。顎とかは普通に見ても分かるけど、目は注視しないとどうなっているか分からないからかな。


「本当に綺麗に治っているのね」

「ミモザさんが治療してくれたみたいですから」

「なるほど」


 左目を覗きこまれているので、ビビアンさんと至近距離で目を合せる事になった。ミナお姉さんの綺麗な顔で慣れていると思ったけど、こうしてビビアンさんの綺麗な顔が目の前にあると、心臓が高鳴ってしまう。

 ビビアンさんの顔がゆっくりと近づいてくる。


「嫌だったら、拒絶してね」


 そう言われて拒絶できる程、私の意思は強くなかった。いや、そもそも嫌じゃないからか。

 自分からしやすいように顎を上げる。すると、ビビアンさんの唇が私の唇と重なる。

 拒まれなかったからか、ビビアンさんは、ついばむようなキスを何度かする。

 最初からがっつくような事はしないみたい。それが逆に私の心を鷲掴みにしてくる。遠慮がちなキスを続けられて、私の中の炎が燃え上がらないわけがない。

 少しずつ重ねる時間を私の方で延ばしていく。それがビビアンさんへのOKという返事になる。身体への負担なども考えられて、優しく丁寧なビビアンさんの愛の表現は、これまた逆に私の中の愛と心を刺激していった。

 夕食、お風呂を挟んでリビングで同じようにビビアンさんに愛して貰う。快楽に溺れる時間が過ぎると、寝室へと移動する。

 ベッドの横に、この前買っていた犬のぬいぐるみを見つけた。どうやらビビアンさんはいつも一緒に寝ているみたい。


「この子はこっちね」


 ビビアンさんは犬のぬいぐるみを回収すると、寝室にある机の上に置いた。今日は代わりじゃなくて本人がいるからという事なのかな。

 ぬいぐるみを置いたビビアンさんがベッドに戻ってくる。

 そして、再び快楽の時間が始まる。私ばかり溺れているから申し訳なく思っちゃうけど、ビビアンさんが幸せそうだから良いかな。ビビアンさんのメンタルケアもしっかり出来たと考えて良いと思う。

 レパとの夜みたいな激しさとかは一切なかったけど、それでもこっちの身体を熟知しているような優しい触れ合いは、私のメンタルも回復させてくれた。

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