定期検診
イースタンに戻ってから三日が経った。毎日ミモザさんによる定期検診を受けていた。全身隈無く検査されていったけど、毎回問題なかった。そして、今日も定期検診を受ける。
「排泄に違和感はありますか?」
「ないです」
「目は見えていますか?」
「はい」
「顎に違和感はありますか?」
「いいえ。問題なく動きますし、ちゃんと水も飲めます。味覚もあります」
「次は全身を触っていきますね。違和感があれば言って下さい」
「はい」
服を脱いで、直接皮膚を触られる。ミモザさんは、特に左腕、左脚、右脚、お腹、顎を念入りに触っていく。そのどこも問題はない。
「ちゃんと感じていますか?」
「はい」
「触覚も問題なし。内臓も問題なく機能していますね。眼球も問題なく機能し続けています。全身の機能に問題なしと……」
ミモザさんはカルテらしきものに記載していく。そして、全部のチェックを終えた後に、私の方を見る。
「では、外を走りましょう」
「運動して良いんですか?」
「それも経過観察の一つです。損傷した内臓の機能に問題がなく、失った部位の感覚なども問題がなく、治療後から病気の兆候もないので、今度は運動機能が問題ないかを確認しないといけないのです。運動許可になりますが、まずは私の監視の下で運動して貰い異常がないかを確認します」
内臓の損傷とかもあったみたいだし、大きな怪我だから感染症を引き起こす可能性なども考えて、こうして経過観察するという事にしたのかな。でも、ようやく運動出来るようになった。軽いジョギングから始めるみたいだけど、動いても良いというのは嬉しい。ずっと図書館とかで本を読んで勉強するだけだったから。
運動着に着替えた私はミモザさんと一緒に外に出て、騎士団の宿舎の周りを走っていく事になった。尚、このジョギングにはミモザさんも付いてくるらしい。監視というのはそういう意味だった。
まずは体操から始めるのは、どこの世界でも変わらないみたい。軽く身体を動かしてから走り始める。
「違和感はありませんか?」
「はい。普通に動きます」
「痛みはありますか?」
「ないです」
走りながら確認されていくけど、特に何も問題なく身体は動くし、身体に痛みを感じる事もない。これは普段の走りで感じる痛みを抜いた答えだ。
「呼吸をする度に、痛みが走る事はないですか?」
「特にはないです。久しぶりの運動で驚いているみたいな感じはしますが……」
「そこは仕方ありませんね。このまま走り続けていきましょう」
「はい」
十分くらい走っていると少しずつ息切れをしてきた。それでも十分くらいは普通に走る事が出来ているので、問題はないと思う。
「身体の疲れはどうでしょうか?」
「まだ大丈夫です……」
「限界の手前で終えましょう」
「はい……」
結局一時間くらい走って終える事になった。その一時間の間、ミモザさんはずっと私の隣を走っていた。しかも全く遅れる事もない。ミモザさんは見た目的に、おっとり系で運動が出来なさそうなのに、汗は掻いていても疲れている様子はなかった。勇者パーティーとして、そこら辺もちゃんと鍛えているのかな。
「これなら大丈夫そうですね。今後は通常の運動も解禁します。ですが、十分に気を付けてください」
「やった……!」
疲れているので、喜びも小さなものになっていた。でも、あれだけの大怪我をしていたのに、一週間近くで普通に運動出来るまでになっているのは、私の身体が異常なのかな。まぁ、死なない身体で再生能力を持っているのは普通じゃないか。
「ふぅ……お風呂入らないと……ミモザさんも一緒に入りますか?」
「そうですね……では、お言葉に甘えます」
ミモザさんと一緒に部屋に戻り、お風呂に入る。ミモザさんが頭と身体を洗ってくれた。
「少し髪が戻って来ましたね」
ミモザさんの言うとおり、焼かれたり切られたりした髪は、大分生えてきていた。
「再生って髪の毛も元に戻すんですか?」
「いえ、髪は怪我ではありませんから。身体を再生させる過程で、髪の成長を促す効果が発生しているのだと思います。身体の成長には関係しませんが、こうした部分に影響するのです。ヒナちゃんは、体毛が薄いから髪くらいにしか影響はないみたいですね」
「確かに……あっ、髪の色って、ミモザさんから見ても白いですよね?」
「そうですね」
「やっぱりもう元の色には戻らないんでしょうか?」
「その辺りは私にも分かりません」
戻って来ている髪は、金ではなく白。元々の色には戻っていない。ストレスで完全に白くなった髪はもう戻らないのかもしれない。まぁ、諦めるしかないかな。
そのまま湯船を張りながら、ミモザさんと湯船に入る。ミモザさんが背もたれになってくれて、ゆったりとする事が出来る。
「ヒナちゃんの再生能力は、身体機能を損なう事がないようですね。全ての項目において、正常という診断を出せましたから」
「普通の人の再生は違うんですか?」
「普通の人の再生では、感染症を引き起こすという事例がありました。なので、こうして検診しているのです」
「へぇ~、私は何で大丈夫なんですか?」
「私が施術したという事もあるのかもしれませんが、何か特別な力があるのかもしれませんね」
「特別な力……」
そう言われて心当たりは【女神との謁見】くらいしかない。【不死】が感染症を防ぐようなものかと言うと違う気がする。どちらかというと、感染症に罹っても死なないというだけな気がするから。
「アーティファクトに秘密があるかもしれませんね」
「あ、そっちですか」
ミモザさんは、雷鎚トールに秘密があるかもしれないという風に考えているみたい。雷鎚トールは、まだ目を覚ましただけの状態だ。第一封印が解けているのかもよく分かっていない。でも、雷鎚トールが再生に関わっている訳ではないという事は、雷鎚トールの説明を見たから分かっている。
確かミョルニルにも復活的な力はあった気がするけど、感染症に罹らないとはならなさそうだし。多分、この力は封印されていると思う。
「でも、これには治療の力はないですよ?」
「アーティファクトには、色々と謎が多いので、封印をされた状態でも何かしらの能力が発動しているかもしれません」
常に微弱なパッシブ効果が発動しているという可能性を疑っているみたい。私もあの説明文が全部とは言い切れないので、それが間違っているとは言えなかった。
「アーティファクトって、能力が判明しているものはどのくらいあるんですか?」
「勇者様のエクスカリバーくらいでしょうか。大抵は個人が所有している事が多いので、その能力が詳しく知れ渡るという事自体が珍しいのです」
「なるほど……雷鎚トールの名前って、どのくらい知られていますか?」
「私は聞いた事がありません。あの場所に埋まっていたという事は本当に新しいものだと思います」
あそこに埋まっていた以上、雷鎚トールの事を知っている人はいないという事が分かった。逆にエクスカリバーなど有名なアーティファクトになると、その能力は知られているらしい。もしかしたら、昔話みたいなものになっていたりするのかも。
そんな話をしていると、少しずつウトウトとしてきた。久しぶりの運動で眠気が来たみたい。そろそろ出ないといけないなと思っていたら、ミモザさんも私の様子に気付いたらしく、私を抱えて湯船から上がった。
「ヒナちゃん、身体は拭けますか?」
「ふぁい……」
欠伸混じりに返事をして、タオルで身体を拭く。ミモザさんも騎士団の備品のタオルを借りて身体を拭いてから、バスローブを纏って髪の水気を取っていった。そして、私の髪を乾かしてくれる。
私の髪を乾かして、ミモザさん自身の髪を乾かし始める。その邪魔をする訳にはいかないので、先に部屋に戻りベッドの上に座ってミモザさんを待った。ちゃんと見送りたいしね。
眠気に負けそうになり船を漕いでいると、正面から柔らかいクッションが襲ってきた。眠い私はそれを布団だと勘違いしてしまい、少ししがみつくように身体を預けた。そして、そのまま眠りに就いた。
────────────────────
髪を乾かしたミモザは、ヒナの様子を確認しようとバスローブのまま脱衣所を出て、ベッドの上でヘッドバンギングしているヒナを見つけた。慌てて正面から受け止めて、寝かしつけようとしたが、受け止めた瞬間バスローブを掴まれてしまい動くに動けなくなってしまった。
さらに、そのまま小さな寝息まで聞こえてくる。
(寝てしまいました……本当に胸が好きなのですね。ここでバスローブを脱ごうにも、ヒナちゃんを起こしてしまいそうですし……仕方ありません。このまま一緒にベッドに入って寝る事にしましょう。もしかしたら、そのうち放してくれるかもしれませんし)
ミモザはそう思いながら、ヒナと一緒にベッドに入って眠りに就いた。
昼食の時間になって、ヒナを迎えに来たメイリアが、その姿を見て困惑する。
(どんな状況……? 確か……今日は診断の結果が良ければ、運動をする予定だったから、運動をして疲れて眠ってしまったというところかしら。ミモザ様は、ヒナちゃんにバスローブを掴まれて寝るしかなくなったというところね。取り敢えず、寝かせてあげようかしら。今は休む時間が必要だもの)
疲れている中で起こすのも悪いと思ったメイリアは、取り敢えずそのまま寝かせる事にしたのだった。




