帰還と告白
途中何度か起きる事があったけど、基本的には寝て過ごしていき、三日程で怠さが薄れていった。トイレのお世話とかを常にされていたから、結構恥ずかしかったけど、ミモザさんは気にせずにお世話してくれた。
朝目を覚ますと、ミモザさんの腕に抱かれていた。昨日の夜もこうして寝ていたからだ。
「起きましたか?」
「はい」
「では、準備をしましょう」
ミモザさんはテキパキと荷物を纏めていき、鞄などを用意している。それらを自身の【アイテムボックス】に入れると、ミモザさんは私を抱っこしてくれた。そのまま外に出ると、メイリアさんが待っていたので、そのままメイリアさんに抱っこされる。私を歩かせないつもりみたい。まだ心配だからかな。
「メイリアさんも一緒に帰るんですよね?」
「ええ。保護者として傍に居ないといけないから。基本的にはミモザ様に抱えて貰うわ。私が護衛という形ね」
「なるほど。あっ! そうだ」
私が突然声を上げたからか、メイリアさんは首を傾げている。それよりも重要な事がある。私は雷鎚トールに戻るように念じた。すると、テントの横にあった雷鎚トールが飛んできて、私の手に収まった。
「あら? そんな事も出来るのね」
「はい。普通は出来ないんですか?」
「やろうと思えば出来ると思うわ。でも、ヒナちゃんは簡単にやっているようだから、ヒナちゃんのアーティファクトには、そういう能力がそもそも付いているのね」
普通は自分で取りに行くみたい。いや、そもそもアーティファクトを投げないのか。私は雷鎚トールが元々そういう能力を持っているから使えるって感じらしい。
ミモザさんが畳んだテントを【アイテムボックス】に入れて、再びミモザさんに抱っこされる。
「重くないですか?」
「寧ろ軽いくらいです」
ミモザさんはそう言って微笑む。そのままミモザさんとメイリアさんと一緒にイースタンへと向かって行った。途中で騎士団の方々に遭遇する。軽く手を振ると、皆手を振り返してくれた。皆安堵したような表情だったので、私の事を聞いていたのかもしれない。心配掛けちゃったのは申し訳ないな。
イースタンに入ると、すぐにビビアンさんが駆け寄って来た。入口でずっと待っていたみたいだ。
「ヒナさん!」
「ビビアンさん。ご心配おかけしました」
「いえ、ご無事なようで安心しました……」
ビビアンさんは、両目から涙を零しながらそう言ってくれた。私を心配してくれていたという事がよく分かる。ビビアンさんは、私の頭や頬を撫でて、私が生きているという事を確認していた。
「おう! ヒナの嬢ちゃん!」
威勢の良い声が聞こえてきたと思ったら、ガンクさんとバルガスさんがやって来た。
「ガンクさん、バルガスさん。久しぶり」
「おう。本当に治ったんだな。信じられねぇくれぇに綺麗になってんぞ」
「あれ? ガンクさん達もミモザさん達と一緒にいたの?」
私の状態について詳しく知っていそうだったので、私が怪我をした状態を見ていたのだと考えられる。
「おう。調査団にいたからな。当事者がいた方が分かり易いだろ?」
「子供であるヒナの嬢ちゃん達に任せるのは酷だからな。大人の俺達が担当したんだ。ヒナの嬢ちゃんは、もう大丈夫なのか?」
「うん。若干の倦怠感が残ってるくらい。しばらく休めば元通りに動けると思うよ。心配してくれてありがとう」
「おう。しばらくはここにいっからな。また会おうぜ」
「基本的にはギルドにいるからな」
「うん。またね」
二人は手を振って去って行く。久しぶりに二人に会えた事で、ちょっと嬉しい気持ちになりつつ、ビビアンさんの方を向く。
「あの……依頼の手続きなんですけど……」
私が何を言いたいのか分かったのか、ビビアンさんは苦笑する。
「お気になさらずとも、事情は知っておりますので、依頼の方は一時停止としています。お元気になった時に、ご報告に来て頂ければ大丈夫です」
「分かりました。ありがとうございます」
「いえ。それでは、また会える日をお待ちしています」
ビビアンさんはそう言って、私の頬を撫でてから離れていった。あまり長く引き留めるのはいけないと考えたのだと思う。ミモザさんが私を抱っこしているので、その配慮は有り難い。
そのままミモザさんに運ばれて、騎士団の宿舎にある私の部屋に戻った。その部屋のベッドに座って一息つく。
「それでは定期的に様子を見に来ます。後三日は運動を控えてください。良いですね?」
「はい」
素直に返事をすると、ミモザさんは優しく微笑みながら私の事を抱きしめた。胸が好きだという事がバレてしまったのか、滅茶苦茶押し付けてくれる。嬉しくてこちらからもくっつく。少しの間、そのまま頭を撫でてくれた後、ミモザさんは部屋を後にした。
一人になった私は、ベッドに身体を投げ出す。そして、蜥蜴ぬいぐるみを抱きしめる。
「このことは手紙に書けないなぁ……レパが心配しちゃうもんね。だから、内緒だよ?」
蜥蜴ぬいぐるみが返事をしてくれるわけない。でも、こうして気持ちを吐露出来るのは、良い事だと思う。ちょっと楽になるし。
そんな風な事をしていると、部屋の扉がノックされた。
「は~い」
扉を開けると、そこには部屋着に着替えたメイリアさんがいた。手早くシャワーを浴びたのか少ししっとりとした髪の状態だった。花のような微かに良い匂いがする。
「起きて大丈夫だった?」
「はい」
大丈夫という返事だったのだけど、ちょっと心配だったのかメイリアさんは私を抱き上げて、ベッドまで連れて行った。私をベッドに座らせて、メイリアさんも正面に座った。何かしらの話があるみたいな感じだ。
「ヒナちゃんは、一体何者なの?」
メイリアさんは、真剣な表情で訊いてきた。死にかけどころか死んでいないとおかしいくらいの重傷を負っていた。でも、私は死んでいない。その理由を知りたいという事だ。保護者としても、知っておきたいってところかな。
「…………転生者です。別の世界で死んで、こっちに転生して来ました。その際、私の転生前の記憶が戻るまでに身体が死なないようにするため、【不死】のスキルを期間限定で付与されていました。ですが、盗賊に捕まっている間に何度も死を経験した事により、【不死】が身体に定着してしまったんです。だから、今回みたいな怪我を負っても私は生きているんです。多分、メイリアさんが知りたいのはそういう事ですよね?」
私は正直にメイリアさんの疑問に答えた。メイリアさんには知る権利があるだろうから。これを信じてくれるかどうかが問題だけど。実際、今の話を聞いて、メイリアさんは呆然としていたから。
「転移者……そう……まぁ、少し納得ね。ませている子だなとは思っていたし。でも……そう……それは私に話して良い事だったの?」
メイリアさんは、そっちの心配をしてくれる。私が何かしらのルールに抵触している可能性を危惧しているのかもしれない。
「はい。特に問題はないそうです。そもそも信じてくれるかが問題ですし……」
「まぁ、突拍子もない話ではあるけれど、納得出来る要素があるし、何よりもヒナちゃんが言っている事だからあまり疑っていないわ」
メイリアさんはそう言いながら私の頭を撫でる。私の言動から納得出来る要素があるから信じてくれたらしい。ちゃんと私を見てくれているという点で嬉しさを感じる。
「まぁ、それにしては子供っぽいところが多いけれどね」
「うっ……生まれ変わる前の世界での十五年の記憶が戻るまでに形成された性格も生きているので、若干甘えん坊な部分もあるってだけです……多分……どっちも私ですけど……」
「甘えん坊……まさか、いつも口の周りに付けているのも?」
「あれは、自分の口の小ささを理解出来ていないだけです」
「まぁ、確かに小さいわよね」
そう言うと、メイリアさんは私の頬を揉んでくる。私の口の小ささを改めて確認している感じだ。
「まぁ、ヒナちゃんの可愛い唇は今度で良いとして、ヒナちゃんにだけ秘密を話させるのは公平じゃないわよね」
そう言って、メイリアさんは黒いネックレスを出した。同時にメイリアさんが纏う雰囲気が変わる。全てを射殺すような冷酷な目で私を見ている。その変わりように、私は驚いてしまった。
「これが私が持つアーティファクト。狂剣ダーインスレイヴ」
「アーティファクト……? メイリアさんも持っていたんですか?」
私の問いに答える前に、メイリアさんはダーインスレイヴを【アイテムボックス】に仕舞った。すると、いつものメイリアさんに戻る。豹変と言っても良い変わり方だ。これも狂剣ダーインスレイヴの効果なのかもしれない。
「ええ。五歳の頃にね」
「五歳で?」
「そうよ。ちょっと長くなるかもだけど、私の昔話聞く?」
「はい」
そう答えるのに迷いはなかった。メイリアさんの過去を知れば、また仲良くなれるかもしれないから。




