同志
レパから離れて、離れた場所に置いてある雷鎚トールに手を伸ばす。そして、頭の中で戻るように念じると、私の手に向かって飛んできた。
「わっ!? ど、どういう事!?」
「これは雷鎚トール。念じれば手に戻ってくるし、腕輪や懐中時計に変化するの。後は雷を放つ事が出来るみたい」
そう言って念じて見せてみる。腕輪や懐中時計にするのは、初めてだったけど、こっちも念じるだけでなってくれた。後は雷を出す事だけど、それは敵が出て来てからで良いと思う。
(さっきは色々と確認を優先していたから、あまり気にしていなかったけど、これって北欧神話の雷神トールが持っていたミョルニルだよね。色々な能力があったはずだし、封印されている能力も、それに準じているのかな)
仮にそうだとすれば、一つだけ疑問が出て来る。
(どうして北欧神話の神器が……しかも、北欧神話の神様の名前で……ここには、私の他にも沢山転生者が来ていたって事なのかな? それも古代の時代に……これは考えても仕方ないな)
考えたところで答えが出る問題でもないので、考える事を止める。
「レパ。私達は逃げないと」
「うん。こんな状況を見られたら、殺されるしね。でも、リタとキティも助けないと」
レパも同じ事を考えていた。リタは人族のキティは猫人族の女の子だ。この場所で友達になった二人を見捨てられない。
「うん。分かってる。でも、それなら他の人達も助け出そうと思うんだ。そうすれば、盗賊も倒せる。これから先の安全を確保するために、少しリスクを負うべきだと思う」
「…………うん。分かった。でも、それだとヒナに掛かる負担が大きすぎる」
「うん。でも、皆が解放されれば、その負担も軽くなるから、先行投資だよ」
「なるほどね」
一応先行投資の意味は分かるみたい。私も言ってから気付いたから、内心どう説明しようかと思っていたけど、杞憂に終わって良かった。
「それじゃあ、行こう」
レパがツルハシを持ってそう言うので、私も雷鎚トールを握る。レパの速度に合わせて走る。
「レパ。レパのレベルも上げておくべきだと思うんだ。だから……」
「うん。私が殺さないと行けないって事だよね……うん。大丈夫」
レパが緊張しているのが分かった。さっきは死体にツルハシを振り下ろしただけ。言ってしまえば、物に八つ当たりしたようなものだ。でも、今度は生きた人間に振り下ろさないといけない。緊張するのも当たり前だ。
「私が動けなくするから、トドメだけをお願いね」
「う、うん……」
次のトドメをレパが刺す事に決めた私達は坑道の分かれ道に来た。レパを止めて坑道を覗きこむと、盗賊の後ろ姿と、その奥でツルハシを振っている男性の奴隷が二人見えた。
盗賊は一人だけ。しかも、無防備に背中を向けている。
「行くよ」
「うん」
私が先に坑道に入り、一気に加速する。敏捷が増えているから、かなりの速度で近づく事が出来た。近づいた勢いのまま、雷鎚トールを突き出してヘッドで盗賊の腰を突く。すると、メキッという音と共に腰椎が折れるような音が聞こえた。
「がっ……!? あっ……」
盗賊は意識を失って倒れた。追いついてきたレパが盗賊の頭にツルハシを振り下ろす。最初の一撃は、頭を軽く凹ませるくらいしか出来なかったけど、その後に二度三度振り下ろして、貫通させた。脳を破壊された盗賊は、そのまま息絶える。
これがステータスの差によるものなのかな。耐久が高いと、ツルハシによる一撃でも凹むくらいで済むようだ。でも、何度も叩き付けられていれば、それも貫けるらしい。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「レパ……」
声を掛けるとレパは私を抱きしめる。レパが落ち着くまでは、抱き枕となる事にしよう。レパは、一分くらい私を力強く抱きしめると、ゆっくり離れた。
「大丈夫?」
「うん……落ち着いた」
レパが落ち着くまでの間、男性奴隷の二人は、ツルハシを持った状態で待っていた。今は話す状況じゃないと気遣ってくれたのだと思う。
「嬢ちゃん、何をしたかは分かってんだよな?」
禿頭の方の男性奴隷がそう言う。私達がしたのは、盗賊殺し。つまり、ここから逃げ出すしか生きる術はないという事だ。
「うん」
「そうか。なら、俺達も立ち上がらねぇとな。俺はガンク。こっちは、バルガス。元冒険者だ。仲間だと思っていた奴に裏切られて、こうして奴隷の契約をさせられてな。状況から考えて、嬢ちゃん達は契約をしていねぇな」
「うん。子供だから契約無しでも平気だろうって。お金が掛かるでしょ?」
「だな」
奴隷契約自体は、法で禁じられている。だけど、昔はよく行われていた事のため、奴隷契約をさせる事が出来る人はいる。そういう人達が、裏の生業として、盗賊達からお金を貰ってやる人がいるらしい。ただし、危険な橋を渡るため、契約処置料が異常に高いらしく、私達みたいな暴力で従える事が出来る子供には行わないという風に決められたらしい。その結果が、今の状態なのだけどね。
この奴隷契約は、首輪をされた相手を支配するもので、主人に逆らう事が出来ない。ただし、主人が死ねば奴隷は解放される。そこが脆い部分だけど、奴隷が主人を殺す事は出来ないので、主人にとっては何も問題ない事だった。こうして、誰かに殺されさえしなければ良いのだから。
「取り敢えず、盗賊を殺して奴隷契約を解く事で、仲間を増やそうと思うんだ。後、私達の友達を助けたい」
「人数を増やして、全員が生き残る確率を増やすって事だな。了解だ。一つ確認するが、嬢ちゃんのそれはアーティファクトか?」
バルガスさんが、私が握っている雷鎚トールを指してそう訊く。こんな目立つものを持っていたら、普通にそう思われるに決まっている。
「うん。これを掘り当てて、運べって言われて触ったらこうなったの」
「ああ、嬢ちゃん達が逃げる決断に至った経緯は何となく分かった。取り敢えず、戦力に数えて良さそうだな」
「うん。あ、そうだ。私はヒナ。こっちはレパ。よろしく」
「おう」
「ああ」
名前だけの自己紹介をする。二人の名前だけ聞いていて、私達が名乗っていない事に気付いたからだ。
「二人は、嵌めた奴に復讐する?」
私はさっき両親を殺した奴に復讐した。別にすっきりした感覚はないけど、二人は違うかもしれないので、復讐のお手伝いくらいは出来るかなと思って訊いてみた。
「そこで死んでるぞ」
「え?」
バルガスさんが、指差したのはレパがトドメを刺した盗賊だった。まさかの復讐相手を横取りしてしまったらしい。
「あ、ごめん」
「いや、こいつには似合いの最期だ。気にすんな。それより、俺が先頭になって走るぜ。速度はレパの嬢ちゃんに合わせんぞ。それで良いよな?」
「うん」
「あ、ありがとうございます」
この中で一番足が遅いのがレパなので、レパの速度に合わせながらガンクさんが先頭を走り、バルガスさんが最後尾を守るという形で進んでいく。
「ヒナの嬢ちゃん。アーティファクトは、大きさを変える事が出来る。走っている間は、金槌くらいの大きさにしておいた方が走りやすいぞ」
「え? そうなの?」
雷鎚トールの説明に大きさを変えられるとは書いてなかったので、それは知らなかった。バルガスさんの言葉的にアーティファクト全体に共通する特徴なのかな。
試しに念じてみたら、本当に金槌くらいの大きさになった。ヘッドが大きいからアンバランスになっているけど、走りやすくなったのは確かだ。
「ありがとう」
「おう。アーティファクトについては、あまり知らないみたいだな」
「うん。ある程度能力は分かってるんだけどね」
「レベルが低いうちは、あまり能力に頼らない方が良い。MPが切れれば、異常な倦怠感が襲ってくるからだ」
「分かった」
MP切れでどうなるのかは知らなかったので、ここでバルガスさんから聞けたのは良かった。雷はなるべく使わないでおく。
バルガスさんに教えてもらっていると、ガンクさんが手を上げて、私達を止める。そこは坑道の分かれ道だ。ガンクさんが覗きこんで、指を二本立てる。盗賊が二人いるという事だ。バルガスさんに目配せして、レパを守るように伝える。バルガスさんが頷いたのを見て、ガンクさんに並ぶ。
ガンクさんが自分を指差してから右を指した。ガンクさんは右側を狙うという事だ。それに頷いて、ガンクさんと一緒に入る。
「ああ? な、なんぺっ……!?」
一気に加速しながら雷鎚トールを元の大きさに戻して、盗賊の頭を飛ばした。隣で仲間の首が飛んでいく様を見たもう一人の盗賊は、一瞬唖然としてしまい、ガンクさんのツルハシによる一撃を避けられず、側頭部に穴を開けた。
これで盗賊二人が死んだので、レパが入って来る。バルガスさんは入口を警戒していてくれる。
「ヒナ?」
声が聞こえた方を見ると、ツルハシを持っているリタとキティの姿があった。私達が探していた友達だ。
「リタ!」
「キティ!」
私とレパは、それぞれで二人を抱きしめる。十秒程抱きしめてから放すと、二人は見張りをしながら後ろにいるガンクさん達と倒れている盗賊を見る。
「もしかして、逃げるの?」
リタは、すぐに状況を理解してくれた。キティは、リタの言葉を聞いて気付いたみたい。驚いた表情をしていた。リタは、十三歳。キティは、私と同じ十二歳だ。状況を完全に理解出来なくてもおかしくはなかったけど、しっかりと分かってくれているのは有り難い。説明が早くて済むから。
「うん。もう逃げるしかないから。二人には悪いのだけど、一回だけ盗賊を殺して欲しいの」
「レベルね?」
「うん」
リタは、本当に話が早い。でも、話が早いのと覚悟が出来ているのは全く違う。リタもキティも顔が強張っている。
「分かったわ。盗賊から身を守るのに必要だものね」
「リタちゃん……」
「キティ。ヒナが守れるとは限らないの。だから、最低でも私達も自衛出来る力が必要になるわ。それにはレベルアップしておく必要がある。それがあるのとないのでは、大きく異なるから。大丈夫。私もいるわ」
リタは、キティと手を絡めて額同士を付けながらそう言う。すると、キティも覚悟が決まったように頷いた。
二人もツルハシを持って、準備をする。
「ヒナの嬢ちゃん。行けるか?」
「うん。最初はリタね。私かガンクさんが、盗賊を弱らせる。そうしたら、頭を狙ってツルハシを振り下ろして」
「ええ」
リタは、強張った表情で頷いた。それを見てから、私達は移動を再開する。