防具の注文
三人で件の防具屋に向かった。本当に奥まったような場所にひっそりとある防具屋さんだった。看板も古ぼけている感じが強い。
中に入ると、カウンターには誰もいなかった。それでも構わず、メイリアさんとビビアンさんは防具の吟味を始める。
「子供用のものでも、少しは大きい方が良いけど……中々良さげなのはないかな」
「ヒナちゃんは、同年代の子と比べても成長が遅いから。う~ん……スカートタイプか……ズボンが良いのよね……」
「タイツを履くのは?」
「伝線するでしょう? 毎回買い直すのは出費が大きいから無し」
「まぁ……冒険者として活動するならそうね」
スカートは絶対に無しらしい。まぁ、私も思いっきり動くのならズボンとかの方が動きやすいだろうから、そっちの方が嬉しいかな。スカートにしたら、パンツを隠すために色々と注意しないといけないだろうし、メイリアさんの言う通り、タイツは伝線するから嫌だ。森を走ったら、即行で伝線する気がするし。
「ん? 客か?」
カウンターの奥から出て来たのは、筋骨隆々な男性だった。布系防具も売っているから、もう少し繊細な作業が得意そうな人かと思ったけど。イメージが先行しすぎた。
「店主。お邪魔しています」
ビビアンさんが挨拶をすると、店主さんはメイリアさんとビビアンさんに手を挙げた。
「おう。ギルドと騎士団で同時発注か?」
「いえ、今日はこの子の防具を見に来ました」
「ん?」
店主さんは私をジッと見てくる。上から下までジッと見てくるのだけど、顔が強面なので若干怖い。
「ちっせぇな。戦えんのか?」
「まぁ、普通の騎士と同じくらいの力はあるわね」
「ほぅ……なるほどな。噂の盗賊に捕まってたって奴等の一人か」
「ええ。盗賊を倒せるだけの力があるという事よ。冒険者になったから防具が欲しいのだけど、この子の戦闘スタイルが、速度を重視しつつ高威力の一撃で倒すというものだから、布系の防具が望ましいのよ。これ、この子の採寸ね」
メイリアさんがどこかから取り出した紙を店主が受け取る。店主さんが確認している間に、私も確認をしたい事を訊く。
「メイリアさんって、【アイテムボックス】持ちだったんですか?」
「ええ。一応ね」
メイリアさんは【アイテムボックス】持ちだった。あまり荷物を入れている姿を見なかったから、初めて知った。
そんな確認をしていると、店主さんが顔を上げた。
「こいつは厳しいな。子供用の防具でも少しでかいからな。これから普通の生活に移って正常に成長する事も考えると、オーダーメイドで作った方が良いだろうな。作るか?」
「まぁ、そうよね。それじゃあ、どのくらい掛かるかしら?」
「……この採寸より少し上なら、二十万ってところか」
「欲しい耐性は?」
「物理魔法全般」
メイリアさんが即答すると、店主さんの眉を寄せて本当に困ったような顔をした。
「いや、無理言うな。それだと子供用でも二百万は掛かるぞ」
「良いわよ」
「いや!? そんなお金ないですよ!?」
「だそうだぞ?」
「私が出すから大丈夫よ」
「メイリアさん!?」
私の防具代をメイリアさんが出すと言い出した。十歩譲って、防具を買ってくれるという事でも、さすがに二百万を買ってもらうのは、ちょっと申し訳なさが強い。
「必要経費よ。保護者としては当然ね」
「あ? 子供にしたのか?」
「似たようなものね」
保護者になっているから、似たようなものなのかな。それでも二百万って大学の学費級の出費な気がする。
「そんな出してもらうわけには……」
「保護者として、ここら辺の出費は私が出す事にしているのよ。気にするなとは言わないけど、私にもちゃんと保護者としての体面を保たせて欲しいわね」
メイリアさんはそう言いながら、私の頭を撫でる。私の保護者として名乗っている以上は、しっかりと保護者としての責任を果たしたいという事みたい。
「まぁ、そういう事なら、メイリアで良いな。物理魔法は無理だが、物理と何かしらの属性への耐性だけなら、そこそこ安く済む。欲しい属性はあるか?」
「えっと……雷……」
「雷? また珍しいもんだな。落雷を引き寄せる体質か?」
店主さんは、片眉を上げながらそう言った。雷の耐性を付ける防具というのは珍しいものらしい。雷に打たれるという事自体が珍しい事だからかな。
「いえ、私のアーティファクトが雷を纏うものなので、私への反動を抑える目的でも欲しいかなって……」
「ふむ。なるほどな。使い道に困っていた雷獣の皮が使えるか。反動っていうのは、どんな感じだ?」
「あ、えっと……」
私はメイリアさんとビビアンさんを見る。二人は頭に疑問符を浮かべている。私が言わない理由が分からないからだと思う。
(えっと……正直に言うと心配を……いや、そうも言っていられないかな。先に言っておいた方が色々と楽になると思うし)
私は雷鎚トールの雷を使うデメリットを話す事に決めた。
「ハンマーに雷を纏わせて放つものなんですが、雷を纏うと、私の手にも雷が伸びてきて、火傷を負っちゃうんです。そのせいで【雷耐性】のスキルは持っているんですけど、それでも火傷を負っちゃって。下手すると、袖とかも焼けるかなって」
「ほう? 自分にも返ってくる……いや、武器全体が雷を纏うが故に起こるデメリットか。それなら服よりも手袋の方が良いかもしれないな。取り敢えず、防具は承った。異臭間は掛かるだろうがなるべく早く仕上げてやる。それまでは危険な場所にいかないようにしておけ」
「あ、はい」
メイリアさんは、前金でお金を出していた。本当にメイリアさんがお金を出してくれる事になってしまった。ちゃんと何かで返せるように頑張らないと。
防具屋を後にした私達は、街の広場にあるベンチに座っていた。ビビアンさんが買ってくれたクリームパンを食べている。
「ほら、また口に付けているわよ」
「うぇっ!?」
気を付けていたつもりが、またクリームが付いてしまっていたらしい。メイリアさんにまた拭われる。もう付けずに食べるのは、本当に無理かもしれない。諦めるか。
「防具を新調するときは、今の防具を渡して仕立て直して貰う事も出来るから、防具屋の人と相談してみて。買い取りとかいう話が出たら、まずは警戒する事」
「詐欺とかあるんですか?」
「本当に困った事にありますね。そこまで頻繁にある訳では無いのですが」
「なるほど……気を付けます」
どこの世界にも詐欺を働く人はいるものみたい。犯罪者が全くいない世界とかもどこかにあるのかな。
「ヒナさんは、明日から依頼を再開するつもりですか?」
「はい。三日やって一日休むという感じでいこうかと思っています」
「まぁ、それが良いかもしれないわね。ただ、それは低ランクの間だけ出来る事ね」
「そうなんですか?」
ギルド職員であるビビアンさんに確認してみる。騎士団との認識の違いとかありそうだし。
「概ねその通りです。大体Cランクが境界というところでしょうか。Cランクの討伐依頼の一部は、一日で済ませる事が出来ない依頼や遠くに行く依頼も多くあります。モンスターの数や分布で変わります。その分、依頼の報酬額は、今のヒナさんが三日で稼ぐ額の倍以上はありますね」
「わぁ……そうなんですね。私も頑張ろう」
「そうね。まずは、クリームを口の端に付けないところからね」
再び指摘された私は顔を赤くする。それを見て、メイリアさんとビビアンさんは小さく笑っていた。
この日はこれで解散となった。途中でビビアンさんが加わるという事もあったけど、結果的に楽しくなったから良かったかな。まぁ、私の印象が犬という何とも言いがたい事実も知ってしまったけど。
部屋に戻って来た私は、お風呂に入って軽く疲れを癒す。部屋着に着替えたところで、メイリアさんに買って貰ったレパっぽいぬいぐるみを出す。ぬいぐるみをレパが使っていたベッドに寝かせる。
それをジッと見ていたら、一緒にベッドに入りたくなったので、ぬいぐるみを抱きながらベッドに入る。すると、一気に眠気が来て、そのまま眠ってしまった。




