メイリアさんと観光
メイリアさんと一緒に防具屋を見たのだけど、メイリアさんが納得出来る防具がなかったために購入は見送りになった。良さげな皮を使った鎧とかもあったけど、布が合っていると判断したみたいだから、そこを重視したいみたい。
そのまま宿舎に帰って、汗を流してからお昼を食べた。昼は色々な勉強の時間に充てて、そのまま夜まで過ごしていった。
翌日。翌々日もホーンラビットの討伐依頼を受けた。この街には、あまり初心者はいないみたいで、ホーンラビットの依頼は二日連続残っていた。
翌日は沢山の群れと遭遇したおかげで三万リルの稼ぎになり、翌々日は群れに遭遇出来ず、一万二千リルの稼ぎになった。基本的に似たような場所での狩りになっているから、
ホーンラビットは、私が百匹狩っても、翌日には二百匹は増えていると言われたので、狩り続けても問題ないらしい。そこら辺の管理もギルドがやっているので、依頼が出ている間は受け続けて良いとの事だった。初心者が少ないよりも繁殖力が強いが正しかった。
その翌日の朝。メイリアさんと朝ご飯を食べている時に、今日の予定の話をする。
「今日はどうするの?」
「依頼を受けようかなと」
「はい。それは駄目ね。冒険者の悪いところ。そんな調子で毎日依頼を受けていたら、身体が保たないわよ。今日は休みにしなさい」
「えっ、でも、まだ動けますよ?」
「その思考が駄目なのよ」
メイリアさんにデコピンをされてしまった。確かに動ける間は働くという思考は、この八年間のうちに植え付けられたものだ。でも、一日何もしない日を作るというのも中々に苦痛な気がする。修行でもしようかと思ったけど、ふとギルドに行くまでの道程を思い出していた。
「じゃあ、街を歩いても良いですか?」
「街? ああ、そういえば、街の案内とかもあまりしてないわね。なら、私も着替えてくるわ」
「え? メイリアさんも一緒に来るんですか?」
「当たり前じゃない。ヒナちゃんの世話係を任命されているのだからね。街の案内も仕事の内よ」
メイリアさんはそう言って、自分の私のトレイを持って行った。私も運動着から着替えた方が良さそう。部屋に戻って、適当なワンピースに着替える。
「姿見がないと、ちゃんと似合ってるか分からないなぁ……白い髪に白いワンピース……まぁ、大丈夫かな」
着替えてから宿舎の入口に行くと、ボーイッシュファッションのようなメイリアさんが立っていた。ちょっと格好いい系だ。
「お待たせしました!」
「ううん。今来たところよ。それじゃあ、行きましょうか」
メイリアさんが手を差し出してくれるので、その手を取って二人で歩き始める。何だかデートみたいになっちゃった。まぁ、良いか。
「この街……そういえば、街の名前って知っているかしら?」
「いいえ。知らないです」
「そこからね。この街の名前はイースタン。この周辺で一番大きな街よ。その分、他の街から離れているのよ」
「へぇ~、だから、あんなに歩いたんだ……」
「そうね。ヒナちゃんが捕まっていた場所からは、どの街も遠いけれど、ここが一番近かったから運が良かったわね」
「そうなんですね」
ガンクさんとかが決めていたけど、何か道を決める秘訣でもあったのかな。それとも本当にただの運か。運っぽいかな。
「大きな街と言っても住宅街が広がっているってだけで、観光名所が多くあるわけじゃないわ。取り敢えず、その中でも観光名所になっている場所に行く?」
「はい。街を把握したいので、そういう場所に行きたいです」
「了解」
メイリアさんと手を繋いで街を歩いて行く。すると、私がゴミ拾いをした川に着いた。その川を上流の方に向かって歩いていく。
「ここが観光名所の一つよ。街の東側を流れる大きな川で、冒険者達がゴミ拾いをしてくれるから、基本的に綺麗で澄んだ川なのよ」
「へぇ~」
「この川の良さは浅い事ね。割と遊びやすい場所になっているのよ。夏場は子供達が遊んでいる事が多いわ」
「今の時期は冷たいですからね」
「そうね。後は、涼しい風も吹くから、夏にデートで歩く人達もいるわね。まぁ、夜は虫が出て困るのだけど」
「あぁ……」
何だか良い雰囲気の事を言っていたと思ったら、最後で現実に引き戻された。夜の虫は、本当に嫌だな。まぁ、昼間も出て来るだろうけど。
歩きながら、上流の方に向かっていると、いくつか橋が見えた。
「あの橋も観光名所の一つよ。あの橋で告白すると成功すると言われているわ」
「何でなんですか?」
「さぁ? 何か言われているだけね。私は理由までは知らないわ。でも、成功する事もあれば、失敗する事もあるから、そう言われているだけなのよ。偶にフラれて飛び降りるとかがあるわね」
「えっ!?」
「まぁ、川までが近いから、骨を折って終わる事が多いわ。後は、普通に耐久の値が高くて無傷で済んでいる事もあるわ……」
「あぁ……」
メイリアさんは本当に面倒くさいというような表情で言っているから、それの対処なども騎士団の仕事なのだと思う。そう思うと騎士団って、本当に大変な仕事なのだという事が分かる。
「次は向こうね」
メイリアさんと一緒に橋を渡っていると、カップルらしき人達が本当に多かった。いや、これからカップルになるかもしれない人達かな。身投げしないと良いけど。
橋を渡ってから少し歩くと、階段が見えてきた。
「あそこを上るのだけど、大丈夫?」
「はい」
そう返事をしたのは良いのだけど、神社の階段かというくらい段数が多くて驚いた。見た感じもう少し少ないと思ったけど、全然そんな事はなあった。
「ふぅ……」
「意外と大変でしょう?」
「ちょっと驚きました。見た目だと平気かなと思ったんですけど」
「意外と奥に長いから。ほら、後ろを見て」
メイリアさんにそう言われて背後を振り返ると、イースタンの街が一望出来るようになっていた。
「わぁ……大きい……」
「本当に警備が大変で仕方ないわ……」
私は街の広さに驚いていたけど、メイリアさんはイースタンの警備の大変さを思い出してげんなりとしていた。
私としては異世界で初めて街を一望出来たので、ちょっと感動していた。こういう感動もそのうち無くなるのかな。感動的には、ちょっと薄い感じもするし。まぁ、こっちで七年暮らしていたわけだし、
「警備は騎士団が全部やってるんですか?」
「そうよ。定期的に街を見て回るのも仕事の内なの。そんな四六時中外で問題が起こっている訳でもないから」
「へぇ~、大変なんですね」
「本当にね。この先に噴水があるのだけど、そこも告白スポットよ」
「告白スポットばかり紹介してません?」
「観光名所がそのまま告白スポットなのよねぇ……基本的に何もない街だから」
観光名所で告白するのが流行っているのかな。まぁ、良い雰囲気の場所であるから、告白するのには良いのかな。
「メイリアさんは、告白とかしたんですか?」
「してないわね。正直、これまで好きになった人は一人もいないわね……告白される事はあっても、そもそも相手に興味ないから全部断るのよね」
「へぇ~、試しに付き合ってみようとかはなかったんですか?」
「ないわね。どうせ、身体目当てだろうから」
「あぁ……」
メイリアさんの恋愛は難易度が高そうだ。こんな状態のメイリアさんの心を射止める相手は出て来るのだろうか。若干心配である。
「さっ、次に行くわよ。観光名所は終わったから、良さげな雑貨屋にでも行きましょうか」
「はい」
そうして、次の場所に向かっている中で、メイリアさんは色々な人達に声を掛けられていた。何か用事があるというよりもただの挨拶だけで、メイリアさんも返事をしながら手を挙げるだけで、話し込むという事はしなかった。
メイリアさんが、イースタンで慕われているという事が良く分かる。騎士団の人達は、皆こんな感じで慕われているのかもしれない。街を守って、治安を維持している訳だし。
「ここよ」
そう言われて入ったのは、少し大きめの雑貨屋だった。おもちゃの指輪みたいなものやぬいぐるみなど色々と並んでいる。実用品ではないけど、コレクションしたいと思わされるようなものが多い気がする。元の世界の大きなおもちゃ屋さんみたいな感じだ。
その中でメイリアさんは、石がたくさん入った箱を覗きこんでいた。
「石が好きなんですか?」
「ん? そうでもないわよ。ただ、偶に宝石が入っているから、今日はどうかと思っただけ」
「へぇ~、宝石もこの値段なんですか?」
「店主が気付かなかったらね」
黙ったまま購入するって事を割とよくやっているのかな。何だかメイリアさんのイメージと違うけど、小さい頃からやっている事で、習慣的なものになっているのかもしれない。
雑貨屋では特に何も買わずに、今度はぬいぐるみ屋的な場所に来た。さっきのおもちゃ屋さんにもぬいぐるみはあったけど、ここはぬいぐるみに特化したお店みたい。色々な種類があって、様々な需要に応えられるようになっている。
そして、そこにはビビアンさんがいた。ビビアンさんは、少し大きめの犬のぬいぐるみを見て何かを考えている様子だった。
私とメイリアさんがジッと見ていると、ビビアンさんは視線に気付いたようにこっちを見て固まった。
「え?」
「こんにちは。ビビアンさん。非番ですか?」
「あ、はい。そうですが……」
ビビアンさんは頷きながらそう答えた後、私と犬のぬいぐるみを見比べてから、何かに気付いたように犬のぬいぐるみを元の場所に戻した。
「ぬいぐるみが好きなんですか?」
「は、はい。あまり人には言っていませんが……」
ビビアンさんはそう言って、私の隣にいるメイリアさんを見る。私も釣られるようにメイリアさんを見たら、必死に笑いを押し殺しているメイリアさんがいた。
「何か可笑しい?」
「ぷはははは! だって、今のぬいぐるみをヒナちゃんに見立てようにしていたでしょう? 反応で丸わかりよ」
メイリアさんがそう言うので、ビビアンさんの方を見ると、ビビアンさんは頬を少し赤くしてそっぽを向いていた。メイリアさんの言う通りみたい。私はこっちでも犬という認識なのだろうか。こっちでは、そこまで犬っぽい行動は取っていない気がするけど。
「あ~、可笑しい。普段そんな分かり易く反応しないくせにね。それだけヒナちゃんを気に入ったって事ね」
「うるさい。全く……」
ビビアンさんは顔を真っ赤にしていた。本当に私を気に入ったみたい。可愛がる対象として見てくれているという事かな。ギルドでは、ビビアンさんを頼っているので、ちょっと嬉しい。
「まぁ、私もその犬のぬいぐるみには賛成ね。ヒナちゃんらしさが詰まっているわ」
「えっ!?」
「やっぱりそう思う? 遠くから駆け寄ってくる感じが犬っぽいかなと思っていたから、一目見てヒナちゃんみたいって思ったの」
「えっ!?」
気付かない間に犬のような行動を取っていたらしい。確かに、遠くから飼い主を見て駆け寄ってくるのは、犬っぽいのかもしれない。その場合、メイリアさんやビビアンさんが飼い主という事になってしまうけど。
結局ビビアンさんは、犬のぬいぐるみを手に取って買いに行った。メイリアさんは、ぬいぐるみ達の中から、少し大きめの緑色の蜥蜴のぬいぐるみを手に取って購入する。
「はい。プレゼント」
「あ、ありがとうございます」
緑色の蜥蜴で、どことなくレパのような感じがするぬいぐるみだ。レパ本人の代わりにはならないけど、少し安心感を覚える。もしかしたら、そういうのを狙ってここに来たのかな。私がレパと離れて寂しがっていると思っただろうから。
蜥蜴のぬいぐるみは、インベントリに仕舞う。
それからビビアンさんも一緒にお昼を食べに向かった。




