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異世界旅はハンマーと共に  作者: 月輪林檎
異世界転生

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22/152

討伐依頼

 翌日。やっぱり寂しさを感じるベッドで目を覚ました私は歯磨き、洗顔、祈りのルーティンを終わらせる。


(今日も行けないか……これで何日だっけ。十日くらい経った気がする……早く行きたいな)


 レパもいなくなり、ミナお姉さんにも会えない。そんな寂しさを覚えながら、ギルドに行くための着替えを済ませてから部屋を出る。すると、丁度メイリアさんが迎えに来てくれたところだった。


「ヒナちゃん、おはよう」

「おはようございます」

「食堂に行こうか」

「はい」


 メイリアさんと食堂に向かって朝ご飯を食べていく。その中で、今日の予定の話になっていく。


「それじゃあ、今日もギルドね?」

「はい。奉仕系の仕事じゃなくて、外に出る仕事をしようかと」

「外か……まぁ、Fランク冒険者なら、それが良いかもね。でも、本当に気を付けるのよ?」


 メイリアさんはそう言いながら、紙ナプキンで私の口を拭ってくれる。ちょっとサラダのドレッシングが付いていたらしい。いっぱいに頬張らなければ良いだけなのだけど、昔からの癖なのかな。多分、元の世界での。


「はい」

「よし。それじゃあ、行きましょうか」

「はい!」


 朝ご飯を食べ終えた私はメイリアさんと一緒にギルドに行く。依頼書を取ってから、カウンターに行くと、すぐにビビアンさんが出て来た。昨日の人はどこにも見当たらない。


「ああ、昨日の馬鹿はクビになったから安心してください。問題行動が何度も続いたので」

「あっ……」


 本当にヤバい人だったらしい。問題行動が何度も続くって、注意されて直らないものなのかな。


「これお願いします」

「はい……えっと……もう討伐に行くのですか?」

「はい」


 ビビアンさんは、メイリアさんの方を確認する。メイリアさんが頷くので、少し心配そうにしながらも手続きをしてくれた。


「本当に気を付けてください」

「はい。行ってきます」

「いってらっしゃい」


 ビビアンさんは、私の頭を撫でて送り出してくれた。

 メイリアさんと手を繋いで、街の門に移動する。門番の人に冒険者証を見せて外に出た。


「依頼にあったホーンラビットは、この先の草原か森で出て来るわ。角が危ないから気を付けるのよ?」

「はい」

「解体はギルドでやってくれるわ。【アイテムボックス】があるから、荷物は大丈夫なのよね?」

「はい。大丈夫です」

「それじゃあ、ここで待っているから、なるべく早く帰ってくる事。森の奥には行かない事。良いわね?」

「はい! 行ってきます!」

「はい。いってらっしゃい」


 メイリアさんと手を振って別れて、草原に繰り出した。今回の依頼は、ホーンラビットと呼ばれる短い角が生えた兎型のモンスターの退治だった。どんどんと繁殖していくので、定期的に狩らないといけないらしい。そうじゃないと街道にも出て来て、商人とかを襲うようになってしまうから。実際そういう被害は少なくないみたい。

 小走りで走っていると、小さな気配を察知する。そっちを見ると、耳をぴくぴく動かしているホーンラビットが見えた。ホーンラビットは臆病な性格なわけではなく、どちらかと言えば、好戦的な性格をしているらしい。いや、それはモンスターに共通する特徴になるかな。

 その証拠に、思いっきり突っ込んで来た。なので、思いっきり蹴り飛ばした。放物線を描いて飛んで行ったホーンラビットは、草原に倒れると動かなくなった。

 そのホーンラビットは、インベントリに入れる事が出来た。


「おぉ……ちゃんと死体も入って良かった」


 今の私は、ただの蹴りでも倒せるくらいの力はあるらしい。

 兎を蹴っているというのに、私は一切躊躇しなかった。これは【精神耐性】があるからという訳でもなく、普通に躊躇いそのものがないからだ。何故なら、ゲームでこういったモンスターを相手にする事が何度もあったからだ。ゲームと現実では自分に返ってくる感覚に天と地くらいの差があったけど。

 そこら辺の忌避感とかは【精神耐性】のおかげになるのかな。


「さてと、沢山いるみたいだし、どんどん倒していこっと!」


 【気配察知】で小さな気配が沢山あるのは把握しているので、周囲に多くいる事が分かる。数が多いって聞いていたけど、ちょっと予想外の多さだった。でも、その分稼げるし、ここで沢山倒しておけば、他の人達の安全が確保出来るのだから頑張るしかない。

 雷鎚トールを元に戻して、一気に駆け出す。飛び掛かってくるホーンラビットの身体に雷鎚トールを叩き付けて、他のホーンラビットに向かって飛ばした。ホーンラビットは弾かれたピンボールのように吹っ飛んでいって、二、三匹を巻き込んで倒れた。

 そんな姿を見ても、果敢に飛び掛かってくるホーンラビットを雷鎚トールで吹っ飛ばし、近づいていたホーンラビットを叩き潰す。

 そうして十二匹のホーンラビットを倒したところで、レベルが上がった。


『ヒナのレベルが上昇しました。10SPを獲得』

『職業『槌士』を獲得』


 新しく良さげな職業を手に入れたので、採掘者からそちらに入れ替える。これから採掘なんて全然しないだろうから。


────────────────────


ヒナ Lv6『雷鎚トール』

職業:槌士Lv1

MP:2522/2522 2431+41+100【MP超上昇】

筋力:1474(20)『2000』 1075+89+250【槌術】+60【剛腕】

耐久:2046(15)『1000』 1980+66

敏捷:584『500』 419+75+90(30【駿足】+60【疾駆】)

魔力:478『500』 454+24

器用:930 881+49

運:60 50+10

SP:60 50+10

スキル:【槌術Lv6】

【MP超上昇Lv34】【剛腕Lv21】【頑強Lv28】【疾駆Lv3】【至妙Lv16】

【採掘Lv58】

【MP回復力超上昇Lv24】【重撃Lv14】【暗視Lv68】【見切りLv7】【気配察知Lv9】

【雷耐性Lv2】【打撃耐性Lv10】【毒耐性Lv3】【痛覚耐性Lv10】【苦痛耐性Lv10】【精神耐性Lv10】

【高速再生Lv39】

【生命維持】【不死】【女神との謁見】

職業控え欄:旅人Lv1 平民Lv18 採掘者Lv48


────────────────────


 メイリアさんに受けた稽古で結構育っているのと、早く健康体になるために足りない栄養を【生命維持】で補っていた事もあり、全体的にスキルレベルが上がって、ステータスも伸びていた。


「ん? 筋力と敏捷はメイリアさんとの訓練の結果だと思うけど……耐久……え? もしかして……」


 身体が傷付けられるというような状況に若干心当たりがある気がしたけど、勘違いだろうという事にして考える事を放棄した。


「まぁ、順調に育ってはいるかな。後は、雷鎚トールの使い方かな」


 そう言いながら、金槌の大きさにした雷鎚トールに雷を纏わせてぶん投げた。ホーンラビットが密集しているところに着弾した瞬間に雷が爆ぜた。雷鎚トールを引き戻しながら、そこを見ると、黒焦げになったホーンラビットがいた。


「……うん。弱いモンスター相手にこれはやめておこう」


 一応回収しておくけど、これが提出しても大丈夫か分からないので、本当に一応だけど。

 それと雷を纏わせた状態で少しでも持っていると、手に火傷が広がる事が分かった。本当にすぐに投げたので、軽い火傷だけど。

 そこら辺を考えて雷鎚トールの力は使わないようにして、ホーンラビットを狩っていく。分類的には初心者用のモンスターになるのか、あまりレベルは上がらない。まぁ、ステータス上昇値を稼ぐには、この方が有り難いのかもしれない。

 計五十匹くらい倒したところで、街に戻る事にした。

 駈け足で戻っていくと、メイリアさんが門の横で待っていた。本当にずっと待っていてくれたみたい。


「お待たせしました!」

「思ったよりも早かったわね。ちゃんと狩れた?」

「五十匹くらいです」

「良い感じで狩れたわね。それじゃあ、帰りましょうか」


 メイリアさんが手を差し出してくれるので、その手を取る。そして、門番の人に冒険者証を見せて中に入った。ギルドに入ると、ビビアンさんが気付いてカウンター裏からこっちにやって来た。


「無事……ですね。はぁ……良かったです」


 ビビアンさんは、私と目線を合わせながら身体を見ていって怪我がない事を確認すると、安堵の溜息をついた。


(戻ってくるまでに火傷が治って良かった……)


 雷鎚トールを投げた時の火傷は、【高速再生】によりちゃんと治っていた。そのためビビアンさんに火傷を負っていた事はバレなかった。


「ホーンラビットは……もしかして【アイテムボックス】ですか?」


 ビビアンさんは耳打ちで訊いてくる。それに頷く事で答えた。それを見たビビアンさんは、私をメイリアさんと一緒に個室に案内した。


「こんな場所で良いんですか?」

「はい。他の冒険者に絡まれないようにという事で個室に案内する事はあるので。特に【アイテムボックス】持ちの方は、通常の冒険者の方々よりも多くのモンスターを狩る事が出来ますので。こちらは報告用の個室という風にお考え下さい。ホーンラビット等の比較的小さなモンスターであれば、こちらを利用します。それよりも大きなモンスターに関しては、直接解体場に向かいます」

「なるほど」


 ここのテーブルは大きいので、ホーンラビットくらいならいっぱい載っても問題なさそうだ。カウンターで報告を受けてモンスターの死体を沢山出されても困るからこその対応だと思う。

 私は、インベントリからテーブルにホーンラビット五十匹を出していった。ビビアンさんは、次々に出されるホーンラビットの数を数えていた。


「五十匹ですね。なるべくなら頭は残して貰えると助かります。こちらの角が一番の高値になりますので。頭を潰されると、価値が下がってしまいます」

「なるほど」


 打撃攻撃をする私は、ちゃんと注意しないといけない部分だった。ほとんど頭を潰しちゃって角が折れたりしているから。


「こちらの黒焦げになっているものは……?」

「アーティファクトの力で倒すとどうなるかを確認してみたら、黒焦げになっちゃいました……売れないですよね……?」

「う~ん……そう……ですね。こちらは角が残っているので、多少は値段が付きますが、毛皮がこの状態では価値は下がりますね」


 ビビアンさんは、ホーンラビット五十匹の査定を終えると、紙に査定結果を書いていった。そしてベルを鳴らすと他の職員が二人来て、ホーンラビット達を受け取っていった。


「今回は全ての素材を買い取りで……査定額と依頼の報酬を合せて、二万八千リルです」

「えっと、報酬が四千リルだから……査定額の方が二万四千リルですか?」

「はい。五十匹も狩って頂いたので、Fランク依頼にしては高額の報酬となります。素材が良質であれば、四万までは出せました。現在のホーンラビットの価値から算出すると、そこが最高額です」

「あぅ……」


 ちゃんと素材を考えて狩れば、もっと稼げていたらしい。今回は群れに出会しているから、いっぱい狩る事が出来たけど、通常はもう少し少ないと考える方が良いかな。


「前のと合わせて……三万……三万リルがあったら、宿で暮らせますか?」


 私がそう訊くと、ビビアンさんは目を丸くして、メイリアさんから呆れたような表情をされた。


「何でそう早く自立しようとするのかしらねぇ」


 メイリアさんがそう言いながら私の頬を摘まんでくる。メイリアさんからしたら、まだ早いという事らしい。


「でも、私は騎士じゃないので、いつまでも騎士団の宿舎の部屋を埋めている訳にはいかないじゃないですか。ある程度稼げたら旅に出る予定ですが、それがどのくらい掛かるか分からないですし……」

「余っているから構わないわよ。騎士団の皆も受け入れているし」

「それに子供の宿暮らしは、割と危ないです。宿の人間が味方とも限りませんから」


 宿の人が犯罪者という可能性もあるらしい。確かに、マスターキーを持っていたら襲い放題ではあるかもしれない。向こうの世界だと、そういう事はあまり考えない。ただそういう事件はあったかもしれない。ちゃんとは覚えていないから無かったかもしれないけど。


「取り敢えず、最低でも後一ヶ月は宿舎を使う事。うちの団員も心配するから」

「えっと……分かりました」


 メイリアさんは、一応私の保護者になっているから、保護者としての義務が存在するのかもしれない。そうなると、あまり無理は言えないかな。でも、さすがにお世話になりすぎるのはと思ってしまうので、メイリアさんの言う通り、一ヶ月は宿舎を借りることにする。


「因みに宿暮らしで生活するなら、一日二万から五万リル稼げると安定します」

「最低二万ですか……」


 今の稼ぎが二万四千なので、この状態で自立するには、ちょっとギリギリかもしれない。でも、そんなにお金が必要になるって事は、結構物価が高いのかな。


「まず食費が外食と仮定し、朝夜の二食で三千から五千。宿も一泊五千から七千。セキュリティ面等を考えれば、一万。これで大体一万前後ですね。宿に関しては、基本的に安宿で女の子は泊まらない方が良いから、一万が基本だと考えると、一万越えは確実です。残り一万弱はその他の費用と貯金となります。武器や防具の修繕費等も、この貯金から出す事になりますね」


 三食食べるとなると、更にお金を出さないといけない。そう考えると、最低でも四万くらい稼げるようにならないといけないかもしれない。四万の言うと、ついさっき出て来たホーンラビット五十匹の理論的最大査定額だ。早めにランクを上げて、報酬を上げないといけない。


「冒険者のランクが上がれば、それだけ良い武具を使うようになるから修繕費は、さらに多くなってくるわ。そういうところもしっかりと考えないといけないわね」

「なるほど……私はこれがあるので、防具だけを考えれば良さそうですね」

「そうね。アーティファクトはほとんど壊れる事はないから、そうなるわね。封印が解けていけば、武器の更新も必要なくなるわ」

「封印……アーティファクトって、全部封印されているんですか?」


 ハヤトさんとは確認出来ない事だ。その理由は、ハヤトさんはこの世界で生きてきた訳では無いから。私も十五年ここで生きているけど、その内半分は坑道に閉じ込められたままだった。

 だから、この世界で普通に生きる人達からの話は貴重だと思う。


「そうね。基本的に封印されていて、全てを解放する事が出来たのは、勇者のみって言われているわ」

「勇者……エクスカリバーですか。私も頑張ればいけるかな……?」

「そこはヒナちゃんとアーティファクトの相性次第ね」


 勇者は基本的に聖剣エクスカリバーを完全解放出来る人が選ばれるみたいなのがあるのかな。


「武器は良いけれど、防具も用意しないといけないわね。ヒナちゃんの戦闘スタイルから考えれば、布系防具が良いわよね。何か良い素材とか手に入ってない?」


 ビビアンさんに対してそう言うメイリアさんに、ビビアンさんは苦笑いする。


「手に入っていたとしても、ヒナちゃんに優先させるとかは出来ないから。職権乱用になるでしょ。因みに、今は良い素材は入って来てない」

「それもそうね。防具屋も覗いてから帰りましょうか。何か良いものがあるかもしれないから」

「はい」


 お金を受け取ったので、私とメイリアさんは、ビビアンさんに見送られて部屋を出た。

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