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異世界旅はハンマーと共に  作者: 月輪林檎
異世界転生

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依頼達成

 一通り川のゴミ拾いを終えて、川から上がる。ブーツに入り込んだ水を出してから、ギルドに向かおうとすると、知らないお婆ちゃんが近づいて来た。


「お疲れ様。はい。これ食べなさい」


 そう言って、ロールパンをくれた。しかもビニールに入っている。こういうのが川に捨てられているのだなという事が分かった。まぁそれはそれとして、頂いたものにはお礼を言わないと。


「ありがとうございます」

「良いのよ。こんな小さいのに良い子ね」

「依頼ですから。それじゃあ失礼します」

「はいはい。いってらっしゃい」


 お婆ちゃんに見送られて、ギルドへと向かって行く。その道で貰ったロールパンを食べていたら、中からジャムが出て来た。ロールパンはジャムパンだった。


「うま」


 食べ歩きをしてギルドに来ると、ハラハラとしているビビアンさんが入口にいた。ビビアンさんは私を見つけると、安堵と自責のような表情が綯い交ぜになった状態で近づいてきた。


「良かったです。帰りが遅いので、迎えに行こうか迷っていたところでした」

「入れ違いにならなくて良かったです。どのくらい拾えば良いか分からなかったので、いっぱいになるまで拾って来ました」


 パンパンになった袋を見せると、ビビアンさんは少し驚いたような表情をしていた。


「普通はそこまでいっぱい拾いませんよ。でも、街の方々はきちんと評価してくださったみたいですね」


 ビビアンさんはそう言って、私の口元を指で拭う。そこには、さっき食べたジャムパンのジャムが付いていた。ビビアンさんはそのままジャムを口に含み微笑む。ここまでジャムを付けたまま来ていた事に気付き、ちょっと恥ずかしい。


「それでは、手続きをしてしまいましょう。すぐにお風呂に入った方が良いでしょうから」

「はい!」


 ビビアンさんと一緒にカウンターに向かい、ゴミの入った布袋を提出する。ビビアンさんじゃない受付の人は、私が提出した布袋を見て目を丸くしてから、ビビアンさんを見た。それに対して、ビビアンさんが頷く。本当に拾って来たという事を伝えているのだろう。


「では、冒険者証を提出してください」

「はい」


 首に掛けている冒険者証を渡して、二分程待っていると、お金と一緒に冒険者証が返ってきた。


「六千リルです」


 千リルの紙幣が六枚置かれている。この辺りは元の世界と似たようなものだ。一、十、百、五百の硬貨と千、五千、一万の紙幣。冒険者証みたいな感じで特別な処理が施された紙で作られているとかで信用出来るようになっているのかな。感覚的には、日給六千円って感じだと思う。まぁ、初日にしては稼げた方な気がする。ただ依頼書には、四千リルと書かれていたのに、二千リル上乗せされていた。


「これ六千リルも貰って良いんですか?」

「はい。いっぱい拾って頂いたので、上乗せです」


 受付のお姉さんに笑顔でそう言う。ちらっとビビアンさんを確認したけど、頷いていたので間違ってはいないらしい。どうやら最低でも四千リルで、頑張り次第で上乗せが発生するようになっているらしい。

 そして、六千リルを受け取って初めて気付いた事があった。


「あっ! お財布がない……」

「では、初依頼完了お祝いに私が勝って差し上げます」

「え? い、良いんですか?」

「はい」


 ビビアンさんはそう言って、私の頭を撫でてくれた。子供扱いされているけど、実際まだギリギリ子供なので仕方ない。冒険者証を首に掛けて、お金を手に持ってから受付のお姉さんに頭を下げる。

 受付のお姉さんは、ニコニコ笑いながら手を振ってくれたので、手を振り返しつつもう一度頭を下げてから、ビビアンさんと一緒にギルドに併設されている雑貨屋のようなところに来た。

 そこにある財布売り場みたいなところで、ビビアンさんが止まる。


「毎回紙幣ばかりが手に入る訳でもありませんので、なるべく多く入るような形が良いと思います。一応、ギルドの銀行に預け入れ出来ますから、財布に入りきらないような状態になれば預ける事も出来ます」

「なるほど」


 ビビアンさんの話を聞いて、お財布売り場を見回すと、可愛い熊のがま口財布が見えた。口が大きく入れられる量も多い。紙幣でも普通に入れられそうだ。

 ビビアンさんは、そのお財布を手に持って会計を済ませた。一連の流れに淀みがなく、私も口を開く事は出来なかった。


「はい。どうぞ」

「あ、ありがとうございます」


 出来る女性という印象が強くなった。折り目が付いている紙幣を半分に折りたたんでお財布に入れて、腰に付けているポーチに仕舞う。折り目の付き方が紙幣によって違うものもあったので、ちゃんとお金が回っているのだなと分かる。


「では、途中まで送ります」

「えっ? でも……」

「いえ、少しお話ししたい事もありますので」

「じゃ、じゃあ……」


 ビビアンさんと一緒に騎士団の宿舎に向かって歩き出すと、すぐにビビアンさんが話し始める。


「実はあのゴミ拾いは、初心者の方におすすめがないかと聞かれたら真っ先に出すようにしているのです。その理由は、その初心者がどれだけ依頼を真面目に受けるかを確かめるためです」

「真面目に?」

「はい。街や川のゴミ拾いは、拾う範囲を広げれば、それだけ多くのゴミを拾う事が出来ます。ですが、基本的には、ここら辺にないからもう終わりでいいや等と思う冒険者が多いのです」


 私みたいに、川を下りながら石に引っ掛かっているゴミなどを探すという事はあまりしないらしい。大分浅いから割と動きやすいし、川原にもゴミがあるから、歩き回ればいっぱいには出来るけど、そこまではしないという事みたいだ。道理で袋がいっぱいになるわけだ。


「それに、そもそもどう考えても面倒くさい依頼という風に思いませんでしたか?」

「確かに……」


 大事な仕事だと思ったのと同時に、ビビアンさんの言うとおり大変で面倒くさい仕事でもあるなとは思った。それでもそれを経験しておく事が後々に重要かもしれないという風に考えて、真面目に取り組んだ。その結果が報酬の上乗せだ。


「最初からこれは嫌だと断る冒険者も多い中で、ヒナさんは即決で選び、袋がいっぱいになるまで頑張ってくださりました。ヒナさんが真面目で頑張り屋だという事がよく分かる結果ですね」


 ビビアンさんはそう言って私を撫でる。小さい子供を褒める時は毎回やっているのかな。ちょっと嬉しくなる単純な私がいる。


「ですが、それと同時に川の中に入るという危険をあまり考えていないということもわかりました」

「…………確かに」


 言われてみれば、そこはあまり考慮していなかった。向こうの世界でも川で起こる事故は多い。私は遊びに行く訳では無く仕事だからと考えて、事故に遭う危険性を考えていなかった。どちらかと言うと、足で何か変なものを踏まないかという事ばかりを考えていた気がする。浅い川だと分かった事で、更にその思考から遠ざかっていた。


「こうして良いところと悪いところが浮き彫りになるのも、私がおすすめする理由になりますね。次からは、その辺りをしっかり考えてください」

「はい」


 ビビアンさんが入口でハラハラとしていた理由は、私が本当に事故に遭っていないかを心配していたからだったみたい。私自身が川の危険を考えて川原でゴミ拾いしていれば安心出来るだろうけど、ブーツが濡れた状態なので、どう考えても川に入ったとなる。

 だから、私を迎えた時に自責のような表情も交ざっていたのだ。


「街中での依頼でも、そのような危険が存在します。これが街の外になれば、危険度は更に跳ね上がります。モンスターの危険だけではなく、そういった自然に潜む危険にも注意を向けるようにしてください」

「はい」


 ビビアンさんは私の為になる注意をしてくれる。おかげで、自分が少し浮かれていた事に気付いた。ゲームや漫画、小説の中にだけある冒険者という職業になれたという事で、少しテンションが上がっていたみたいだ。ちゃんと反省しよう。


「丁度お迎えも来ましたね」


 ビビアンさんがそう言って前を向くと、道の先からメイリアさんが駆け寄って来ているのが見えた。


「ビビアン、ありがとう。ヒナちゃんも頑張ったみたいだね。街で少し話題になっていたわ」


 メイリアさんは私と目線を合わせるために地面に膝を付けて頭を撫でてきた。

 褒められて嬉しい気持ちと同時に聞き捨てならない言葉もあった事に気付いた。それは街で話題になっていたという事だ。


「話題ですか?」

「ええ。川でゴミ拾いを頑張る新人冒険者がいたって。しかも、本当に広い範囲を歩いて、袋がパンパンになるまでゴミ拾いをしていたってね。特徴がヒナちゃんに似ていたから、ヒナちゃんだってすぐに気付いたわ。後、ジャムを口に付けて堂々と歩いていたって。そこで確定したわね」

「それは忘れてください……」


 やっぱり街の人達にも見られていた。仕事をやり遂げた達成感のせいで、堂々と歩いていたらしいし、本当に恥ずかしい。


「それじゃあ、宿舎に帰るわよ」


 メイリアさんが手を出すので、迷わず手を繋ぐ。街を把握しきれていないので、この方が安心だからだ。ただ、ビビアンさんへの感謝は忘れない。


「ビビアンさん、ありがとうございました。これからよろしくお願いします」

「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」


 ビビアンさんも私と目線を合わせてから頭を撫でた。そして、手を振りながらギルドの方へと戻っていった。私も手を振って見送る。

 ビビアンさんの姿が雑踏に消えてから、メイリアさんと一緒に宿舎へと向かていった。


「ビビアンと仲良くなったみたいね」

「はい。お財布も買って貰っちゃいました」

「お財布? あっ! すっかり失念していたわ……ごめんね」

「いえ、私もお金を貰うまで、全然気付きもしなかったので」


 インベントリを活用しているから失念していたというのなら、まだ言い訳が出来るけど、まだインベントリを最大限活用出来ている訳でも無いので、本当に財布という存在そのものを忘れていただけだった。


「他に何か必要なものがあったら言うのよ? 特に日用品とかで」

「はい。でも、今のところ大丈夫だとは思います」

「そう。あっ、そうだ。今日から一人で部屋を使う事になるけど、そっちは大丈夫?」

「あっ……」


 メイリアさんに言われて、今日から一人で夜を過ごす事になる事を思い出した。レパがいる生活が当たり前になっていたから、本当に一人ぼっちというのは、三年ぶりくらいだ。記憶の中だけで言えば、向こうの世界の死ぬ二日前くらいには、両親と一緒にいたけど、向こうの一人ぼっちとこっちの一人ぼっちは質が違いすぎる。

 私の中で少し不安が渦巻くけど、これを乗り越えないと、これから先の生活にも影響するので頑張らないといけない。


「……大丈夫です」

「そう? もし何かあればすぐに言うのよ?」

「はい。ありがとうございます」


 宿舎に戻ってきた私は、ブーツをメイリアさんに預けて部屋に入る。ブーツは乾燥してくれるらしい。そのままの流れでお風呂に入り、自分で身体を洗っていく。そして、一人で広い湯船に浸かった。水の滴る音などがよく聞こえる。

 これまで気付かなかったような音がどんどんと聞こえてくる。それもこれもレパが一緒にいないからだ。ずっとレパと会話していたから、それ以外の音は気にならなかったから。

 レパのいないお風呂で長風呂する気分にもなれず、十分程で上がり、身体を拭いて普段着に着替える。

 そこで部屋がノックされた。ノックの主がメイリアさんだという事は分かっていたので、中に迎えると、新しいブーツを置いてくれる。乾かしている間の代わりというよりは、普通にもう一足との事だ。替えがないと困るのは事実なので受け取るしかなかった。

 そのままメイリアさんと一緒に夕食を食べてから、再び部屋に戻ってくる。レパがいないだけで広く感じる部屋。他愛のない会話をする事も出来ない。

 軽く柔軟などをしてから、特にする事もないので、インベントリ内の本を閲覧しながら眠気がくるのを待つ。段々と眠くなってきたところで、レパのいないベッドに入った。


「レパ……」


 小さく呟いても尻尾はない。物寂しさを感じながら、私は眠りに就いた。

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