初めての依頼
メイリアさんに案内されて試験会場へと向かう。
「メイリアさんと受付のお姉さんは知り合いなんですか?」
移動時間は暇になるので、メイリアさんに訊いてみた。何だか知り合いのような会話の仕方や呼び方だったし。
「ええ。騎士団として表に出る機会が多いから、受付リーダーのビビアンとは色々と話す事が多いのよ」
「へぇ~、ビビアンさんって言うんですね。しかも受付のリーダー……だから、クビとかって判断が出来るんですね」
「直接クビにする権限はないけれど、報告した時の信頼度とかが段違いね」
「そうなんですね」
「だから、あまり怒らせないようにようにね」
「はい」
あの感じを見るに、そこまで怖い人じゃないと思うから、私は仲良くやれると思う。多分!
「ここが試験会場よ」
話ながら進んでいたら、もう試験会場に着いた。メイリアさんが平然と中に入るので、私も後に続く。そこは地面が土になっている中庭みたいな場所だった。色々な武器が入った箱があるので、覗きこむ。一応、木のハンマーはあった。
「素振りをしておいて大丈夫よ」
「そうなんですか?」
「ええ。何も問題ないわ」
「じゃあ」
木のハンマーを取り出して、素振りをしていると、ビビアンさんがやって来た。ビビアンさんの後ろからがたいの良い男性も付いてきていた。
「ハンマーで戦うのですか?」
ビビアンさんが確認してくる。
「はい」
「了解しました。では、早速試験を始めましょう。こちらの武器は片手剣です。今回の戦闘内容により試験の合否を決めます。頑張りましょう」
「はい! あっ! メ、メイリアさん、これ……」
メイリアさんに、雷鎚トールの腕輪を見せる。アーティファクトを装備したまま戦っても大丈夫なのか確認するためだ。
「大丈夫よ。この子アーティファクト持ちだから、気を付けて」
「なるほど。では、なるべく寸止めでお願いします」
「はい」
一応、このまま戦って良い許可を得た。試験官の男性は脂汗を掻いているけど。まぁ、頑張ろう。
試験官と対面になるように少し距離を開いて立つ。メイリアさんとビビアンさんは、少し離れたところにいる。
「それでは始め!」
ビビアンさんの開始の合図と共に地を蹴って、試験官に迫る。試験官は予想外の速さだったのか、慌てて片手剣を振ってきた。軽く木のハンマーを振って、その片手剣を弾き飛ばして、その頭に木のハンマーを当てる直前で止める。
「ま、参った……」
試験官は両手を上げてそう言った。やっぱりメイリアさんは、かなり強い人だったと考えた方が良いかな。メイリアさんなら、今の弾き飛ばしを受け流して攻撃に繋げてくるだろうし。
ただ、これで終わりなのか分からないので、ビビアンさんの方を見ると、ビビアンさんも驚いていた。でも、すぐに我に返り手を上げた。
「そこまで! 試験は終了です。結果は文句なしの満点ですね。アーティファクト持ちという事を加味しても問題は無いでしょう。冒険者証を発行しますので、入口でお待ちください」
「はい」
メイリアさんに連れられて、ギルドの入口付近にあるベンチに座る。そこで冒険者についての冊子みたいなものを渡されたので、それを読んでいた。
冒険者の階級は、S~Gの段階で分かれる。Sランクは特別枠みたいで、かなり少ないらしい。階級で分かれる理由は、身の丈に合った仕事を受けろという事らしい。
依頼に関しては、基本的に採取、討伐、奉仕の三種類がある。採取と討伐は、名前通りで、奉仕は街のためになる仕事になるらしい。掃除とか諸々の雑用の仕事があるみたい。戦闘が不向きな人は奉仕を基本的にやる感じになっている。他にも特別な依頼があるみたいだけど、それに関しては匂わせるくらいで、詳しい事は一切書かれていなかった。
「なるほど。割と普通な職業ですね」
「その分危険は多いけれどね。おっ、来たわよ」
メイリアさんと手を繋いで、ビビアンさんが受付をしているカウンターまで移動する。本当は呼び出しがあるらしいけど、今回はメイリアさんがいるから、呼び出しがなくてもカウンターに来られた。
「それでは、こちらが冒険者証です」
ビビアンさんが出したのは、白いドッグタグみたいなものだった。真っ白過ぎて何も書いてないように思えるから、本当に冒険者としての身分を表すだけのものなのかな。
「ここに血を一滴垂らして貰います。こちらの針をお使い下さい」
ビビアンさんは先端を炙った針を差し出すので、それを受け取って人差し指を刺す。血がぷくっと出る。それを冒険者証に垂らす。すると、血が冒険者証に吸い込まれていった。
「これで登録完了です」
「何も書かれてないですけど、大丈夫ですか?」
「はい。魔力を通してみてください」
「魔力を通す?」
よく分からないので念じる事にした。雷鎚トールは、それで動くし。そうしてみると、冒険者証にFという文字と私の名前が浮き出てきた。
「はい。ちゃんと出来ていますね。ヒナさんの戦闘力を考えて、最初からFランクとしました。Fランクからは、討伐の依頼も受けられますが、気を付けてお選びください」
「はい!」
返事をすると、ビビアンさんが頭を撫でてくれる。
「基本的には首から掛けておいてください。少し嫌な話になりますが、亡くなった際の身分証明になりますから」
「なるほど。分かりました」
冒険者証を首から掛けて、服の中に入れておく。本当にドッグタグ的な役割を持っているものだった。
「依頼を受ける時は、あの掲示板にある依頼書と一緒に冒険者証を出してください」
「はい」
「それじゃあ、早速依頼を受けてくる?」
「はい。早く慣れたいので」
「了解。それじゃあ、夕方に迎えに来るわ。ビビアン、気に掛けておいて」
「ええ。任せて」
メイリアさんは私の頭を撫でると、ギルドを去って行った。メイリアさんにも仕事があるから仕方ない。私の自立も兼ねているだろうから、ここで頑張らないと。レパにも笑われちゃうかもだし。
ビビアンさんは、カウンターを流れるように乗り越えて私の隣に来た。足が長いから衝立が邪魔そうだったけど。カウンターを乗り越えるのはやって良い事だったのかという疑問はあるけど、誰も咎めないし問題はないのだと思う。
「それでは、依頼を選んでいきましょう」
「はい」
ビビアンさんと一緒に掲示板に向かう。掲示板は滅茶苦茶でかいので、沢山の依頼書が貼られていた。依頼書には、大きく階級のハンコが捺されているので、間違える事はほぼないと思う。
「基本的には自分のランクの一つ下まで受けられます。例外として、奉仕依頼に関しては、誰でも受ける事が出来まし、パーティーを組んでいればパーティー内のランク帯の中から好きな依頼を受ける事が出来ます。あまりにランク差があれば、その限りではありませんが」
「なるほど……じゃあ、パーティーを組んでいない私はFとGを受けられる訳ですね」
「はい。その通りです。最初は奉仕依頼から奨めるのですが、ヒナさんなら採取依頼からでも受けられそうですね」
「じゃあ、奉仕依頼から受けてみます。ビビアンさんのおすすめってありますか?」
そう訊くと、ビビアンさんは依頼板をサッと見回して、迷わず一枚の依頼書を取ってきた。
「こちらは如何でしょうか?」
ビビアンさんが出してくれたのは、川のゴミ拾いというものだった。
「ゴミ拾い?」
「はい。この街を流れる川に捨てられたゴミを拾い奉仕依頼になります。少々水が冷たいですが、これが一番疲れる奉仕依頼になりますね」
「なるほど。まずは厳しさを実感出来るようにという事ですね。やります」
私がそう言うと、ビビアンさんは少し驚いたように目を開いた。
「本当に宜しいのですか?」
「はい」
ビビアンさんは少し申し訳なさそうにしながら、依頼書を持ってカウンターに向かっていく。私もカウンターに行って、冒険者証を出す。冒険者証を受け取ったビビアンさんは裏で何か作業をして、冒険者証だけを持ってくる。
「こちらに魔力を通してみて下さい」
「はい」
言われた通りに魔力を通すと、半透明のウィンドウみたいなものが出て、今回の依頼内容を見る事が出来た。
「こうして確認が出来ますので、活用してください。こちらがゴミを入れる袋になります。こちらにゴミを入れて、こちらに提出してください」
「はい」
ゴミを入れる袋は大きな布製のものだった。頑丈さを重視したものなのかな。
「それじゃあ、行ってきます!」
「あっ! ちょっと待って! 川の場所教えるから!」
早速行こうと歩き出したら、慌てたビビアンさんに止められた。確かに川の場所が分からないので、ちゃんと聞いた方が良い。地図を見せられて、場所の確認を受けたところで、改めて川に向かって走っていった。
川は土手のようになっている場所に有り、周囲に芝生みたいなものが広がっていた。ブーツのまま入ってみると、靴の中に染みこんでくる。ただ川の中に何があるか分からないので、ブーツのままの方が良いと判断した。
「う~ん……冷たい」
この時期の川は、やっぱり冷たい。でも、中に入らないとゴミを拾えないので仕方ない。
「ゴミ……ゴミ……ゴミ……」
そこまで沢山のゴミは見当たらないけど、瓶や布とかがところどころで見つかる。それを回収していって、布の袋の中に入れていく。その中で、異質なものがあった。
「ビニール?」
どこをどう見てもプラゴミのものがあった。
「石油製品があるって事かな……どうやって作ってるんだろう? 錬金術?」
異世界でも科学技術はしっかりとしているらしい。まぁ、宿舎のあの内装を見たら普通に納得ではあるけど。
「取り敢えず、袋がいっぱいになるまで拾えば良いのかな?」
ゴミの量がそこまで沢山という訳でもないので、夕方近くまで川を歩いていく事になった。それでもしっかりと川を綺麗に出来たと思う。




