冒険者になるために
運動するための服に着替えて腰にポーチを着けた私は、メイリアさんと並んで街を歩く。ここに来た時もそうだけど、やっぱり圧巻だ。何だかんだ、最初に来た時以外は街に降りていないので、キョロキョロと周囲を見てしまう。その結果、メイリアさんと手を繋いで歩く事になった。
メイリアさんが美人さんだからか、周囲の男性がチラチラと見ているのが分かる。中にはショックを受けているような男性もいた。
私がメイリアさんの子供に見えるからとかかな。年齢的には姉妹の方が合っているはずだけど、メイリアさんが割と長身である事と私が年齢のわりに低身長過ぎるという事もあり、そういう風に見られてもおかしくはないのかもしれない。不本意だけど。
そんな街の人達の中に露出の激しい女性が歩いていた。そちらも男性の注目を浴びている。夜のお仕事の人かと思ったけど、杖を持っているし、そういう雰囲気じゃない。
「痴女?」
「こら」
思わず呟いちゃったら、メイリアさんに小突かれた。確かに失礼な事を言ってしまったので反省する。
「本当の事だけど、そういうのは心の中で言いなさい」
メイリアさんもメイリアさんだと思う。でも、メイリアさんも同じように思っていたって事は、本当にそういう職業の人じゃないのだろう。
「どういう職業なんでしょうね」
「冒険者よ」
「え?」
自分の耳を疑う。まさか、あれで冒険者が務まるというのか。あの服装だと、そこら辺の枝で沢山の傷が残る気がする。実際に森を歩いて分かったけど、道なき道を歩くときは枝とかが危険となる。あの時はガンクさんが枝を切りながら歩いてくれたから普通に安全だったけど。
「あの人でしょう? 冒険者よ。この街では有名ではあるわね。若干悪い方向に」
「悪い方向?」
「他人に迷惑を掛けているって訳でもないのだけど、あの人が入る冒険者のパーティーが悉く解散するのよ。あの人を巡っての揉め事でね。三回くらい騎士団が仲裁に入っているから有名なのよ」
「そうなんですね……あの服装は、何かやむにやまれぬ事情があるんでしょうか?」
「趣味よ?」
「え?」
再び自分の耳を疑う。何か事情があれば納得出来たのだけど。
(趣味? 趣味……趣味なら仕方ない……のかな? 若干人に迷惑を掛けている気もしないでもないのだけど……)
騎士団が出て来て仲裁に入らないといけないくらいになっているのなら、それは人の迷惑に相当するのではと思ってしまう。
「私も何度か注意したのだけど、『人の趣味にとやかく言わないでくれる!?』とか『私は好きでこの服を着ているのよ! 何が悪いっていうの!?』って、人の話を聞かないのよね」
「わぁ……大変ですね」
「本当にね。あれでいて普通に何度か人に襲われているのよね」
「えっ!?」
襲われていても服装を変えないのは、本当に趣味に生きているからなのだろうか。普通はそうならないと思うのだけど。
「まぁ、襲われる事自体が目的という節も見受けられるのよね。騎士団が助けに入ったら、舌打ちをして去って行ったりする事も多いのよ。助けるのが遅いからとも受け取れるけれど、団員からの報告では楽しんでいるという風にも見えるってあって、色々と困っているのよ」
「もう騎士団に迷惑を掛けているって事になりませんか?」
「それで取り締まると職業柄そういう格好をしている人も取り締まり対象にされかねないのよね……そういう面でどう扱うか騎士団でも揉めているのよ」
「へぇ~……でも、それならそう言うお店に行くとかって出来ないんですか?」
襲われたいという衝動があるにしても、割と迷惑になりかねないので、普通にそういうお店で楽しめば良いと思う。
私の案に対して、メイリアさんは人差し指と親指をくっつけて、お金のマークを作り出す。つまり、お金が掛かるから無理という事かな。
「お金を稼げば良いのに」
「冒険者の中でも豪遊出来る程稼げるのは、一部だけよ。冒険者は、その日暮らしが多いわね」
「そうなんですか?」
「ええ。お酒代を節約すれば、貯金は出来るでしょうけど」
「そんなにお酒を飲むんですか?」
「ええ。見れば分かるわ。ここが冒険者ギルドよ」
メイリアさんはそう言って、大きな建物の前で止まった。これまで見た建物と違って、ちょっとしたお城なのではというような印象を受ける。
それくらい大きな建物だった。その中からは、何かのイベント中なのかというくらいにがやがやとした音が漏れてきている。ちょっと緊張するな。
メイリアさんと手を繋いでいる関係で、メイリアさんが中に入ると私も一緒に中に入る事になる。中に入るとより一層大きな音が響いてくる。音にびっくりしてビクッと肩が跳ねちゃったからか、メイリアさんが小さく笑っていた。
「ほら、あれがお酒を飲む理由よ」
メイリアさんが指を差す方を見ると、そこには酒場があった。つまり、冒険者ギルドには酒場が併設されているから、お疲れ様会みたいなもの毎日しているのかもしれない。
「まぁ、ヒナちゃんはあと三年経たないと飲めないから、あまり関係ないわね」
「成人が十八歳でしたっけ?」
「そうよ。間違っても飲まないようにね。まぁ、飲ませた大人が罰せられるだけなのだけど、ヒナちゃんは気にしちゃいそうだから」
「なるほど……」
向こうではお酒なんて呑んでいるはずもなく、お酒の美味しさとかも知らないから、特に問題は無い。そんな悪い大人の知り合いはいないし。
キョロキョロと見ていると、武器屋や防具屋みたいな場所もある。多分、初心者サポートのためかな。そこまで良いものって感じはしない。
そのままメイリアさんに連れられて受付的な場所に着く。
「すみませ~ん!」
メイリアさんが声を掛けると、裏からやる気のなさそうな男性が出て来た。制服を着崩しているだらしない人にしか見えなかった。
「はいはいはい。あ? 騎士団が何の用だよ」
滅茶苦茶態度の悪い受付だった。騎士団を目の敵にしているのか、メイリアさんを睨んでいる。
「この子が冒険者になるから、その手続きをお願い」
「あ? こんなガキがなれるわけねぇだろ。帰れ」
受付がそう言うと、メイリアさんが顔面を鷲掴みにした。頭からミシミシと音がしているような気がする。メイリアさんの表情から怒りを強く感じる。
「良いから仕事しろ」
「がっ……あっ……」
メイリアさんは、そのまま受付を奥の方に投げた。受付の人は顔を押えながらのたうち回っている。そこに長い茶髪の綺麗なお姉さんが来た。受付の男性とは違って、しっかりとしている。パンツタイプの制服みたいでスカートではなかった。ちょっと残念に思う自分がいる。
「あんた、また失礼な態度で接客していたんじゃないでしょうね!?」
「あ!? ガキが冒険者になるなんて馬鹿言うからだろうが!」
「それが務まるかどうか判断するための試験でしょうが!」
「ぶほっ……!?」
綺麗なお姉さんは、だらしない受付を蹴り飛ばしていた。綺麗な蹴りだった。あのまま蹴りを練習すればサッカー選手になれる気がする。
「次やったらクビって言ったわよね!? これは全部報告するから。さっさと荷物纏めて来い!!」
「ひっ! ひいいいいいいい!」
だらしない受付は走って逃げていった。そんなやり取りを見せられて、ぽかんとしてしまった。向こうではこんなやり取りを見た事なかったのもあるかな。
「大変申し訳ありません。ご不快な思いをさせてしまった事をお詫び申し上げます。先程のゴミ……失礼。失礼な受付は忘れてください。まずは、こちらの書類に記入をお願いします」
受付のお姉さんが紙を渡してくれた。ただ、カウンターの高さがギリギリなので、メイリアさんに持ち上げて貰って、紙に記入していく。自分の名前とかは書けるようになっているので、問題なく記入出来る。
「十五歳……」
私が年齢を記入したのを見て、受付のお姉さんが私をジッと見ていた。私の身長が低いからか、若干疑われているのかもしれない。
「年齢とかは保証するわ。ただ……」
メイリアさんが受付のお姉さんに手招きして顔を近づけさせる。そこで耳打ちをしていた。多分、私の事情を話しているのだと思う。
「なるほど……」
受付のお姉さんが悲痛そうな表情になって、私の頭を撫でてくれる。まぁ、事情を聞けば同情するよね。
「なら、年齢詐称はなしですね。それでは、筆記試験と戦闘試験を受けてもらいます。メイリアは最後まで付き添いを?」
「ええ。一応、この子の身元保証人になっているから」
「え? そうだったんですか?」
「ええ。他の子は親御さんがいたから必要ないけれど、ヒナちゃんはね。私が保護者になるのが一番丸かったから」
私の親はいないから騎士団のメイリアさんが保証してくれないと、不審者扱いされるかもしれない。そう考えれば必要なものだった。
「それでは、試験会場に移動しましょう。こちらへどうぞ」
受付のお姉さんに付いていって、小さな教室みたいな場所に着いた。そこの席に座ると、すぐに受付のお姉さんが試験用紙をくれる。
「制限時間は十分です。それでは始め」
試験時間はまさかの十分だった。でも、内容は簡単な読み書きと計算問題だった。四則演算くらいなので、私でも十分に理解出来る。五分くらいで全部埋められたので、一度見直しをしてから待つ事にした。
「もう終わりましたか?」
「はい」
「では、回収します」
私から用紙を受け取った受付のお姉さんは、すぐに採点していく。丸印を書く動きが続いていき、全部丸の百点を貰った。
「良く出来ました」
「えへへ……」
褒められながら頭を撫でられるので、思わず声が出ちゃった。お姉さんからこうして頭を撫でられる事なんてないから嬉しい。
「それじゃあ、次は戦闘試験ですね。試験官を呼んでくるから、メイリアに案内して貰ってください」
「あ、はい」
受付のお姉さんは試験官を呼びに去って行った。次の試験が冒険者試験の本番っぽいから頑張らないと。筆記試験は肩透かしだったし。




