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異世界旅はハンマーと共に  作者: 月輪林檎
異世界転生

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二人との別れ

 翌日。朝起きて歯磨きと洗顔をしてから祈りを捧げる朝のルーティンを終わらせる。今日はミナお姉さんの下には行けなかった。祈りを終えて立ち上がり振り返ると、レパはちょっと不満そうにしている気がした。


「どうしたの?」

「別に……ちょっと嫉妬しただけ」


 それは別にとは言わないのではと思ったけど、こうして正直に言ってくれる方が相手の気持ちを理解出来るのでありがたいかも。その嫉妬心もちょっと可愛さに見えてくるし。

 私は、レパに近づき正面から抱きつく。


「レパは可愛いね」

「ヒナの方が可愛いと思うけど?」


 レパは、私の頭を撫でながらそう言う。見た目の可愛いについて言ったわけじゃないのだけど、レパがそう受け取ったらしい。まぁ、見た目の可愛さもレパはかなりのものなので、私の方が可愛いというのは頷けないかな。

 一度レパから離れて、着替えをする。


「レパのマーキングは強いなぁ」

「うっ……ごめんね……」

「いいよ。何か嬉しい気もするし」


 取り敢えず、昨日の跡が隠れるような服を着る。まだ春くらいの気候だから、そういう服を着ていても違和感はない。メイリアさんが迎えに来て、いつも通り朝食を摂ってから、メイリアさんと戦闘訓練をする。レパ達は体力作りのために外を走っていた。

 そうして、朝、昼、夕と戦闘訓練をして、夜にレパと行為に耽るという生活で一週間程過ごしていると、リタとキティの親御さんが迎えに来た。


「リタ!」

「キティ!」


 それぞれのお母さんが二人を抱きしめていた。お父さん達も涙を流して喜んでいる。もう会えないかもしれないと思っていた娘と再会する事が出来たのだから当たり前だ。リタとキティも涙を流して喜んでいた。それを見て、私も少し嬉しい気持ちになった。

 メイリアさんが二人の両親と話している間に、二人が私達の元まで来た。


「ヒナ。レパ。ここでお別れね」

「寂しい」


 キティはぎゅっと私に抱きついてきた。なので、私を抱きしめ返す。キティの可愛らしい猫耳がピコピコと動く。喜んでいるのかな。同い年だけど、キティの方が私に甘える感じなるのは、私が転生者で十五年長く生きているような状態だからなのかな。


「私も寂しいよ。でも、もう二度と会えないわけじゃないんだから。キティの家の住所もリタの家の住所も教えてもらったから、私から手紙は出せるしね」

「出してね?」


 キティは甘えるような上目遣いでそう言う。猫耳も合わさって、キティの可愛らしさが前面に出ている。こんな最強のお願いポーズを仕込んだのは一体誰なのか。その答えは、キティの横にいるリタなのではないかと私は疑っていた。

 まぁ、こんなお願いされなくても答えは決まっている。


「うん。キティもリタも大切な友達だもん」

「それは嬉しいわね。こっちに来る事があったら、ちゃんと訪ねて来て。歓迎するわ」

「わ、私も!」

「うん。ありがとう」


 リタとキティは、同じ街に住んでいるらしいので、その街に行けば二人に会う事が出来る。それに二人は彼女彼女の関係だから、二人としても同じ街に住んでいて良かったって感じだ。次に会った時、目に見えてラブラブだったらどうしよう。


「それじゃあ、二人とも元気でね」


 レパが、リタとキティの頭を撫でながらそう言っていた。この中で一番のお姉さんだから、その姿が様になっていた。いつもはお姉さん風を吹かせているリタも、少し嬉しそうにしていた。


「ええ。レパもね。手紙忘れないでよ?」

「わ、私も送るからね!」

「うん。楽しみにしてるね。私も向こうの街に着いたら送るから」


 レパとも別れの挨拶と抱擁をした二人は、親に連れられて去って行った。私とレパは宿舎の入口で二人を見送った。二人も見えなくなるまで、何度も振り返って手を振ってくれた。


「後はレパちゃんだけね」


 諸々の手続きを終えたメイリアさんが戻って来てそう言った。その言葉を聞いて、私は他の子供達が全員帰ったという事を知る。


「他の子供達はもう帰っちゃったんですか?」

「ええ。この街の子もいたし、近くの街の子もいたから、こっちから送り届けたりしたわ。私達はこの街の騎士団だから、下手に遠くまで行けないのよね。

 騎士団を伝って送り届けても良かったのだけど、やっぱり色々と手続きとか、他の騎士団がちゃんと引き継いでくれるかが分からないから、迎えに来てもらうのが一番になるの。

 リタちゃん達やレパちゃんは、ちょっと離れた街だから、親御さんのお迎え待ちになったわけね。旅程を短縮するために大分無理をしたようだけど。そういう事だから、三人は最後の方までの残っちゃったのよ」

「そうなんですね……あの……皆がいなくなったら、冒険者ギルドに連れて行ってください。そろそろ私も活動したいので」

「う~ん……そうね。健康面と戦闘力的には問題ないだろうから、そうしましょうか」

「はい。お願いします」


 レパも帰る時がきたら、私も本格的に冒険者になって活動をしていく。いつまでも宿舎でお世話になるわけにもいかないから、自立出来るくらいにはならないとね。

 こうして、私はリタとキティと別れた。悲しい別れにならなかったのは、本当に良かったけど、やっぱり寂しいものは寂しい。四人で一緒にご飯を食べたり、色々な話をしたり、あそこから脱出して、もっと仲良くなったから、余計に寂しさが強まっていた。

 でも、また再会する事は出来る。私は旅をするからね。それに手紙でやり取りをするという事もあるから、一生の別れとはならない。同じ空の下にいるのだから、いつかはまた会える日がやってくる。

 そう信じて、今日もメイリアさんと戦闘訓練に勤しむ。午後は言語の勉強に充てて、冒険者になるための準備を進めていった。

 その日の夜。レパに可愛がって貰った後、レパの腕の中で微睡んでいると、レパが抱きしめてくれる力が強まった。一気に微睡みから覚醒する。


「レパ?」

「明日から二人がいないのは寂しいね」


 レパは、改めて寂しさを覚えているようだった。明日の朝食から二人はいない。いつも一緒にいた二人がいなくなるのに、寂しさを感じないわけがなかった。

 多分、私とレパで感じている寂しさに違いがある理由は、私が向こうの世界で別れを経験しているからだろう。小学校での友達の転校。卒業による別れ。死に別れではなく生きたまま別れるという経験は意外とある。だから、こういう別れには少し慣れがあるのかもしれない。

 でも、レパは、親しい友人と初めての別れとなる。生きるか死ぬかを共有した事もあり、深く繋がっていた二人との別れは、レパにとっても辛いものがあったのだろう。二人の前ではお姉さんとして強がっていただけだったみたいだ。

 私の前では曝け出しているのは、それだけ私がお姉さんとかの関係から離れている事を表している。もっと近しい仲という事だ。


「うん……でも、仕方ないよ。家族と一緒にいるのは大事だから。自立ならまだしも、無理矢理離れさせられたら、喪失感が強くなるしね」


 これは親の方の喪失感だ。その事を私はミナお姉さんを通じて知ってしまった。

 私の場合は、完全に失われてしまったけど、リタ達は違う。喪失感を埋めるのは、代理ではなく本人達になる。その分、親からの愛情と過保護が心配になるけど、しばらくは離したくないと思うのは仕方ない。


「後ね……メイリアさんが言うには、後二、三日でうちの両親も来るだろうって。ここまで迎えに来た親御さん達はかなり急いで来ていたみたいだから、うちの両親も同じだろうって」

「それは……良かったね。レパの事を心配してるよ」


 ここでそれ以外の言葉を選択する事はない。だって、親子の再会は、何よりも大事な事だから。こんな嬉しい関係になっても、そこは変わらない。


「でも……今から寂しいよ……」


 レパは、今から私と別れてしまう事が寂しいと言う。でも、それは私も同じ気持ちだった。こうして近しい関係になっているから、余計に寂しく感じるのだろう。こればかりはどうしようもない。


「じゃあ、それまでの間に、私にレパを刻みつけてよ。余計に寂しさを感じるようになるかもだけど、その分レパを感じるようにもなるでしょ?」

「…………分かった。じゃあ、ヒナも私に刻みつけてね。いつでもヒナが感じられるように」

「えっ!? う、うん……努力します……」


 私に出来るかが心配だったけど、数度の試行の結果、何とか小さく残す事は出来た。まぁ、すぐに跡は消えちゃうだろうけど、私がそこに刻みつけたという事実が重要なのだ。レパは毎日のようにやっているから慣れたものだった。

 私がレパに求めたからか、沢山の跡を残してくれたけど、これメイリアさんにバレたりしないよね……

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