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異世界旅はハンマーと共に  作者: 月輪林檎
異世界転生

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お父さんとお母さん

 その翌日もメイリアさんに鍛えて貰う事になった。レパ達も見学に来ていたけど、私とメイリアさんの戦いに圧倒されていた。訓練場全体を使うように走り回っていたという事もあるのかな。私が訓練場全体を使い始めたところで、メイリアさんも楽しそうに笑うようになった。メイリアさんからしたら、使えるものを全部使えという風に思っていたのかな。

 因みに、その日もミナお姉さんの下には行けなかった。さすがに確率が低すぎる気がする気がする。二日に一回は行けるようになって欲しい。そろそろミナお姉さん成分が足りないから。

 そんな事を思いながらレパの尻尾を抱いて寝た翌日。歯磨きと洗顔を終えた後、祈りを捧げていると、身体が浮き上がるような感覚がして、意識がミナお姉さんの下に飛んでいった。

 相変わらず真っ黒な空間に小柳姫奈の身体で来ると、驚くべき事があった。それは真っ黒な空間の中にソファが置かれているという事だった。

 ミナお姉さんは、私に背を向けながら、そのソファを見ながら何かを考えていた。なので、その背中に突撃する。


「ミナお姉さん!」


 後ろから抱きついて手を前に回す。下から持ち上げるように幸せの重さを感じ取る。唐突に抱きついたのに、ミナお姉さんに驚いたという感じはなかった。


「姫奈様。今度はお早いですね」


 ミナお姉さんは、私の手を撫でながらそう言う。


 (早いという事は、本当はもう少し確率が低いのかな。あれ以上待つとなると、他の何かで代用しないと精神がやられるかもしれない。【精神耐性】があっても耐えられるかどうか……)


 こんなところで絶望を感じる事になるとは思わなかった。これなら二時間フルに堪能しないといけないね。


「姫奈様。こちらのソファは如何でしょうか? 姫奈様がもう少し居心地の良いようにしてみたのですが」

「良いと思いますけど……ソファだけですか?」

「他に必要なものがあるのですか?」


 ミナお姉さんと私との間には、居心地の良さという点で隔たりがあるらしい。いや、ミナお姉さんからしたら、この空間が当たり前になっているのかな。それだと居心地の良さは分からないのかもしれない。


「う~ん……テーブルとか椅子とかベッドとか普通の部屋みたいな感じなっていると居心地は良いかもです」

「なるほど……参考にしてみます」


 ミナお姉さんはそう言いながら、私の方に振り返る。手から幸せは逃げていき、顔に押し付けられる形になった。これはこれで幸せ。

 そんな幸せな私をミナお姉さんはお姫様抱っこしてくれる。そして、そのままソファに座り、私の頭を膝に乗せる。つまり、ミナお姉さんの膝枕だ。ミナお姉さんの綺麗な顔は見えないし、視界の八割が埋まるけど、それはそれで良い。ミナお姉さんが前屈みになると、軽く圧迫されて幸せだった。

 でも、そこで私は聞きたい事がある事を思い出した。それはヒナでは無く、小柳姫奈にとって重要な事だった。


「ミナお姉さん、私の元の世界にいる両親は、元気にしていますか?」


 そう。元の世界にいる両親達のその後が知りたいと思っていた。今の世界の両親の事を思い出して、元の世界の両親の事が頭を過ぎった。

 今の世界の両親が亡くなっているからこそ、向こうは元気にしているか気になり、ミナお姉さんなら分かるのではと思ったのだ。割と家に居ない時が多かったけど、それでも一緒にいる時は楽しい時間ばかりだった。私が死んで、どうしているのだろうか。

 ミナお姉さんは、五秒程黙り込んだ後に答えてくれた。


「姫奈様の死後、一ヶ月程は悲しみに暮れていました。抜け殻のような生活を続けていましたが、そのままではいけないと少しずつ思うようになったようです。その後は少しずつ元に戻っていましたが、ぽっかりと空いた穴は中々埋まらなかったようです。姫奈様ともっと一緒に居れば良かった。その想いが強かったようです。その結果、犬を飼うようになったようです」

「い、犬!?」


 何故犬なのか。その疑問だけが頭の中でぐるぐると回っていく。確かに動物好きではあったけど、家にいる時間が少ないから、私に世話を押し付ける形になりそうという事で飼わなかったはず。私としてもフルダイブ型ゲームをやっていたので、ちゃんと構ってあげられるか不安だったから反対していた。まぁ、飼ったら飼ったで、ゲームよりも優先して溺愛した可能性はあるけど。


「はい。姫奈様によく似た子犬を見つけになられたそうで、即決のようですね」

「私に似た……犬……そりゃ昔は走り回っていたけど……」


 小さい頃に、『姫奈はわんちゃんみたいね』とお母さんに言われた事がある。大きな公園で芝生を走り回っていたせいだ。あの時は走るのが楽しくてしょうがなかったという記憶がある。今思っても、何故楽しかったのかという疑問が浮かぶけど。

 だからと言って、私と重なる程ぴったりな子犬がいるのかって言いたくなる。


「名前はヒメです。姫奈様の字から貰ったようです」

「えぇ……まぁ、それで立ち直れるのなら良いのかな……若干複雑……」

「はい。姫奈様に与えられなかった分の愛を注いでいるようです。今度こそ、後悔のないように」

「なるほど……ありがとうございます。二人が元気になっているのなら良かったです」


 私が原因で離婚したとかにならなくて本当に良かった。私に似ている犬という点だけが絶妙に納得いかないけど。それが二人の心を癒しているのなら受け入れるしかない。

 私が死んだせいで、二人の心に穴を空けてしまったのだから。


(お父さんとお母さんに愛されていた。その事実だけで、割と満足している自分が単純に思えてくるけど、やっぱり嬉しいものは嬉しいな)


 そんな事を思っていると、ミナお姉さんが頭を撫でてくれる。こんな事でも嬉しいと思ってしまうのは、やっぱり自分が単純だからだろうか。まぁ、単純な方が幸せを感じやすくて良いか。


「そういえば、私が転生者だって事は、向こうの世界の人達には話さない方が良いですか?」

「話しても良いですが、信じて貰えるかどうかは分かりません。下手すれば、頭のおかしな子と思われるかもしれません」

「ああ……」


 中二病みたいなものだろう。ミナお姉さんの危惧している事は理解出来る。元の世界にも一定数はいたから。転移者は勇者とかの実例が身近にあるけど、転生者となると話は別になる感じかな。転生者の見た目は異世界の人と同じような感じだから。


「分かりました。話す時はよく考えてからにします」

「はい。それが良いかと」


 これならレパ達には話す事が出来るだろう。友達だからこそ、ちゃんと話しておきたい。多分レパ達も私の様子が少し変わっている事には気付いていると思うから。


「そうだ。早速転移者に会いました」

「はい。見ていました」

「あっ、そうなんですね……ん? 見ていた?」

「はい。尻尾を抱かないと寝られないというのは可愛らしいと思います」


 まさかのレパと一緒に寝ている事まで見られていた。さすがに、ちょっと恥ずかしい気持ちになる。


「わわわわわ!! 見ないで下さい!」

「ですが、姫奈様を見守りするのも仕事の一環ですので」

「うっ……そう言われると弱い……」


 神様としての仕事の一環と言われてしまうとやらないで欲しいとかは言えない。ミナお姉さんが困ってしまう事になるし。ミナお姉さんを困らせたい訳ではないから。


「その代わり、私の身体は自由にして構いません」

「じゃあ、お言葉に甘えて」


 身体を起こしてソファの前に膝立ちになり、ミナお姉さんの足の間に入って抱きつく。こうすると、顔が幸せの感触に満たされる。

 どう考えてもミナお姉さんの仕事の一環である監視に対して、こうしてお返しを貰う事自体がおかしい気がするから、何も無しに受け取る事はしない。


「ミナお姉さんも、何かしたい事があったら言って下さいね」

「したい……事……?」


 ミナお姉さんは、首を傾げていた。まるで、私が何を言っているのか分からないみたいに。


「お仕事以外にも私にしたい事があったら言って下さいって事です。ミナお姉さんのお願いなら、私も応えますから」

「姫奈様に……したい事……」


 これまでこういう事を言われた事がないのかな。まだ戸惑っているみたいだ。そもそもミナお姉さんに会いに行けるようになりたいというお願い自体が珍しいはず。あの時ミナお姉さんも戸惑っていたし。


「じゃあ、お願いしたい事が出来たら言って下さいね」

「はい。次回までに考えてみます」


 ミナお姉さんはそう言って、私の頭を撫でてくれる。


「はい! またすぐに来ますね!」

「そうですね。楽しみにしています」


 それから全身でミナお姉さんを堪能しつつ、ここに来られるまでにあった出来事を話していく。ミナお姉さんも見ているので意味がないかもと思ったけど、私が感じた事も合わせて話しているからか、少し楽しそうにしてくれていた。

 そうして二時間の幸せな時間が過ぎ去っていった。元の世界のお父さんとお母さん。二人がどうしているのかを聞けたのは、本当に良かった。おかげで、私も安心出来たから。これから定期的に聞いてみようかとも思ったけど、これ以上は聞かない事にする。

 私は向こうの世界に行くことは出来ないから、未練を増やしていっても、私が辛いだけだ。別々の道を歩く事になってしまった以上、私はこっちの道に集中する。お父さんとお母さんが幸せに過ごせる事を願おう。

 まぁ、ミナお姉さんの胸に顔を突っ込みながら願うような事じゃない気がするけど。私が幸せなら、お父さんとお母さんも納得してくれるよね。

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