承認欲求の強い子供
翌日はアリサとミモザさんと一緒に依頼を受けて、軽く運動をしながらお金を稼いだ。体力が少し落ちたくらいな感じで、特に大きな問題はなかった。久しぶりに思いっきり雷鎚ミョルニルを振るえたので、気分が良かった。そのおかげで気付いたのは、鈍器を振るう事が好きだという事だ。
楽しみながらモンスターを倒したていたら、アリサとミモザさんが少し呆れていたけど、前の世界でも楽しんでいた事なので仕方ない。
そして、さらに六日後。前日に色々と運動したので、今日は休日にして疲れを癒す時間にしようと思ったら、お昼前にお客さんが二人も来た。そのお客さんはリルカさんとユーリさんだった。
二人とも知り合いみたいで、私の家で鉢合わせたのを驚いていた。二人とも情報をくれるために来てくれたらしい。ミモザさんがお茶を用意してテーブルに置いていってくれる。
「今回は調査の結果を持って来ました。リルカさんも同じですよね?」
「はい。ギルドでの調査結果です。ヒナ様は当事者ですので、結果を報告した方が良いという事になりまして、私が代表して持って来ました」
そう言ってリルカさんが紙束を出して、私に渡してくれる。当事者とはいえ、ここまでの事をしてくれるとは思わなかった。でも、有り難い。
紙束を受け取って、アリサと一緒に読んでいく。
「こんなに早く家捜しを終えられたんですか?」
「馬を利用していますので。向こうで見つけられたものから、黒ローブの男は長年魔王に傾倒していたらしいです。家の中に計画書の一部が見つかりました。こちらは勇者様達が見つけられた資料とはまた違うものになります。ですが、こちらは大まかな計画だけで、細かい内容はなかったそうです。後は個人的な計画書のようなものが多くあったそうです。あまり情報に繋がりそうなものではないそうですが、危険思想の持ち主として周囲からも有名だったそうです。
ここから友人関係を調べている最中ですが、どうにも友人は少なかったという話です」
リルカさんが説明してくれる内容は紙に書いてあった。友人の数は片手で足りるらしい。友達の少ない人だったみたいだ。まぁ、あの感じじゃ当たり前と言わざるを得ない。
リルカさんの報告が終わると、今度はユーリさんが報告を始める。
「こっちでは洗脳の手段が分かりました」
「あれ? スキルじゃないんですか?」
「スキルではあります。ですが、とある特殊な方法も用いていました」
「目ですか?」
「はい。摘出した目を調べさせて貰った結果、目に特殊な魔法陣を刻み込む事によって洗脳の力を上昇させているようです。その結果、ジェネラルタウロスなどのモンスターでも洗脳を可能にしているようです」
「そもそも洗脳でモンスターを操るのは珍しい事なんですか?」
私の質問にユーリさんは頷いた。
「元々洗脳の確率は低いはずです。ですが、ここで目を使う事に加えて対象をモンスターに限定するというデメリットを抱える事も加えて、更に確率を引き上げたのだと思います。その分、この処置を受けた人は死に近くなるはずですが」
縛りを受ける事で、スキルの効果を引き上げる事が出来るらしい。その分のメリットがなければやらないだろうけど、黒ローブにはその分のメリットがあったらしい。それだけ計画が大事だったと考えるべきかな。
「それだけ計画にのめり込んでいたという事でしょう。そして、計画の柱になる事が出来る事を誇りに思っていた。それならば、この施術を受けた理由にもなります。あの男が持っていた資料から組織の全体像は分かりませんでしたが、計画への傾倒具合は分かりましたので、これは確実です」
「そんな資料が多くあったんですか?」
「うん。自分なりにどう解釈したのかなどを細かく書いていました。狂信者。その言葉がぴったりと当てはまるような人物です」
「こちらでも同じ考えです。黒ローブが個人的に考えていた計画も結局は組織のためになるような計画を考えていたようです。規模感が個人ものから大掛かりなものまであったそうなので」
「狂信者……確かに、私が会話した印象もそれに近しいです。魔王に拘っていたというよりも人間の行いそのものに絶望していると言ってましたし……特権階級だとか搾取されるだとか」
「二人が教えてくれた内容にもありましたね」
ユーリさんはそう言って少し考え込み始める。その三十秒後にミモザさんがぽつりと零す。
「承認欲求の強い子供みたいですね」
「それです。事前に操りやすい対象を選んでいた。それは孤立していて、常に何かしらの妄想をしているような人物。自分は悪くない。周りが悪い。他責を基本としている。大胆な事を考えるけど、結局実行する勇気がない。だって、責任を負うのが嫌だから。妄想の中では、自分は選ばれた者と考える。そうする事で、自尊心を保つ」
「そこに本当に選ばれたという事実ですか?」
勇者のような選ばれし者という感じではないけど、少なくとも洗脳役という特別な存在に選ばれた。つまり選ばれし者という括りには入るという事だ。
「はい。選ばれたという事実が増長を招き、自分は特別な存在であるという認識を確かなものにします。だからこそ、ここまでの行動をするに至った。何人死んでもそれが大義だからです」
「つまり、ここの組織の下っ端には、そういう人達が多いって事ですか?」
「はい。私はそう思います。リルカさん」
「ギルドでも情報は共有しておきます。ですが、騎士団の方が見つけやすいかと」
「はい。ですが、もしもの時のためにルートは多い方が良いですから。私はすぐに騎士団へと向かいますので、これで失礼します。ミモザ様、勇者様が一週間後に出立するとおっしゃっていました」
「分かりました」
ユーリさんは、全員に一礼をするとすぐに家を出て行った。伝えるべき情報がいくつかあるからだ。
「では、私もギルドに戻って情報を伝えてきます。冒険者の中にもそういう人物がいる可能性がありますので」
「はい。態々教えてくれてありがとうございます」
「いえ、ではまた今度」
リルカさんもギルドに戻っていった。こういうとき複数人で考えるという行為はとても役に立つ。だって、自分では思い付かない例えなどから新しい答えを見つけ出す事が出来るから。




