現れた犯人
雷鎚ミョルニルと炎剣レーヴァテインを構えた私達の元に黒いローブを被った人が近づいて来ていた。
「おや? てっきり勇者が来ているかと思いましたが、ドラゴンと化物ですか」
唐突に人の事を化物呼ばわりしてきた。
「お前がここの管理人なら、お前の方が化物だと思うけど?」
「おやおや、身体が千切れるような重傷を負っても生きている人間が言える事でしょうか?」
そう言われて、黒ローブが、私が怪我をしたところを見ていた事が分かる。
「オーガもミノタウロスもお前の仕業?」
「その前からですよ」
「……グリフォン」
「ええ! その通り!」
黒ローブは急にテンションを上げていた。私がグリフォンに至った事が嬉しいらしい。
「私が監視していると、必ずと言っても良い程あなたが妨害する。あなたがあそこで足止めしていなければ、あなた達がミノタウロスを全滅させなければ、我々の計画通りに進められたはずだというのに……」
そう言いながら、黒ローブが私を睨んでくる。直接的に壊滅させたのは、私じゃなくてアリサだったりメイリアさんだったりするけど、そうなるための時間稼ぎなど、街に被害が出ないようにしていたのは、私という風に考えられてしまっている。
私が居なければ、少なくとも街に被害を出せる段階までは行けたと思われているからだ。その後殲滅されたとしても街に被害を出せば良いという計画だったのかな。
「魔王復活に備えて、国力を削ごうって事?」
戦力と言わなかったのは、街への被害が軍事力ではなく生産力など色々な面に影響する事を考えたからだ。
「その通り! この世界を変える存在である魔王! いずれは魔王が世界を征服する! なら、魔王に媚びを売るのは自明の理!」
「毎回勇者に負けているみたいだけど?」
「勇者のみで魔王を倒し続けているとでも? 結局は世界が協力した結果。なら!! 協力を阻害すれば良い! 少しでも被害が出れば、そこからまた食い破る事が出来る。治っていない傷なら、また破れば良い。それだけの話です」
確かに勇者だけで魔王を倒せるとは限らない。勇者に皆が協力する事で、勇者が魔王を戦いやすい状況を作る。それが結果的に討伐に繋がった。そう言われてしまえば、納得出来てしまう。
そして、街の壁の一部でも崩して被害を出してしまえば、その穴にモンスターを投入していれば、簡単に被害を出す事が出来る。これも間違ってはいない。
「普通の魔王を倒す方向で考える方が、楽だと思うけど」
人全体で協力して魔王を倒した方が、現実的である気がする。それでも魔王が勝つと考えているこいつには、何かしらの理由があると考えられる。
「あなたは人類に絶望した事はありませんか?」
「絶望?」
「ええ。毎日生きていて、人類とはいかに愚かなのか。そう考えた事はありませんか? 特権階級が全てを支配する世の中。何も持っていない私達はただ搾取されるのみ。それを理解した時、私は人に絶望しました。そして気付いたのです! これは変えなくてはいけないと!」
テンションが上がり過ぎて、ただのヤバいやつという感じが強い。
「手始めに考えたのは、魔王を利用する事。考えたのですよ。何故、魔王が定期的に復活するのか。勇者が魔王を完全に滅ぼす事が何故出来ないのか。私が至った答えはこうです。魔王とは言わば免疫機能の一種。この星が増えすぎた人という異物を排除するための存在。それが魔王なのだとね」
「じゃあ、お前も死ぬじゃん」
「言ったでしょう? 媚びを売ると。魔王が現れ、この世界を正す。我々は魔王に協力した言わば仲間。我々は魔王のシステムに取り込まれた存在。人類の断罪者になるのです! ははははははっはははははははっははははははは!」
滅茶苦茶大声で笑い始めた。それだけ興に乗っているという事が分かる。
この中で分かった情報は、相手が単独犯ではなかったという事。そして、オーガやミノタウロスだけではなく、グリフォンの件もこいつらの計画だったという事だ。
「それでミノタウロス達を洗脳して、街まで誘導したと?」
この中で確定していない情報は、モンスター達を誘導した手段。これを確定させられれば、情報としては十分だろう。
「そこにまで至たりましたか……いや、それは勇者達が至った答えですかな。どちらでも良いでしょう。統率されたモンスターは、統率者を洗脳してしまえば全体を洗脳したもの同然。効率良くモンスターを動かすには丁度良かったですよ」
べらべらと話してくれた。つまり話しても問題ないと思っているという事だ。精神的に化物というのは、こうした意味の分からない事を言い出していたからという事だろう。
「おっと、要らない事を話してしまいましたね。ですが、丁度良いです。そちらのドラゴンを頂きましょう」
そう言った瞬間に黒ローブの目が怪しく光った。私にはそれしか分からないけど、アリサも首を傾げていた。なので、黒ローブは狼狽していた。
「なな、なっ、何故だ!? モンスターなら洗脳出来るというのに!?」
「いや、アリサは人だから」
「なっ……ば、化物が!」
黒ローブがそう言うのと同時に私は雷鎚ミョルニルで身体強化して突っ込む。狼狽している黒ローブは一瞬反応が遅れていたけど、後ろに向かって跳んだ。同時に黒ローブの後ろからジェネラルタウロスが出て来る。
ジェネラルタウロスの腕で雷鎚ミョルニルが弾かれる。
「アリサ!」
「うん!」
私に攻撃しようとしているジェネラルタウロスにアリサが接近して叩き斬る。それを見ること無く、私は黒ローブを追う。黒ローブから黒い弾が飛んでくる。アリサも使っている闇魔法だ。
狭い通路だけど、上手く壁を使って避けて黒ローブに追いつく。
「クソッ!」
そのまま雷鎚ミョルニルで殺そうとしたら、唐突に目の前に光が満ちる。光で目を焼かれた私は、反射的に目を閉じて雷鎚ミョルニルを振う。感覚的に外したという事が分かる。それと同時に身体に衝撃と熱が生じた。理由は簡単だ。
鳩尾に刃物を突き立てられた。刃物は背中まで貫通している。
闇魔法を囮にして、焦った振りをしながら視界を奪ってからの不意打ち。戦い方が上手い。
でも、それならこっちにもやり方がある。血が込み上げてくるのを我慢しながら叫ぶ。
「アリサ! 下がって!」
そう言ってすぐに、雷鎚ミョルニルから全力で雷撃を放った。私の身体を焼く程の雷撃が通路を満たしていく。これでも気配は消えていない。つまり、まだ生きているという事だ。
「はぁ……はぁ……恐ろしい技だ……閉鎖空間では脅威度が上がる……ようですね……」
相手も相当消耗している。ここで決めればと思って、刺さっている刃物を抜こうとしたら身体に力が入らない事に気付いた。
「ようやく……効きましたか……」
これで毒を塗られていたという事が分かった。
「ヒナ!」
私の身体から刃物が抜かれる感覚がした直後にアリサに抱きしめられる感覚がした。でも、アリサと触れている感覚も遠ざかっているのを感じる。耳も良く聞こえない。怖い。
そんな感覚と同時に、身体を何か強い感覚が撫でるのと大きな振動を感じた。直後に大きな音が聞こえる。この状態でも聞こえる程の何かが起きたという事だ。
雷鎚ミョルニルで身体を回復させているけど、解毒が間に合わずに、そのまま意識を失った。