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異世界旅はハンマーと共に  作者: 月輪林檎
嫌な思い出
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不穏

 それから一週間が経った。ハヤトさん達は、私の依頼に同行しながらウォンバット周辺を調べている。その調べる内容は、何かしらの異変がないかどうか。曖昧だけど、ウォンバットに向かってきた証拠を見つけられれば、洗脳の可能性を否定する材料になる。

 それが無ければ、洗脳の可能性を考えられる。まぁ、細かい事だけど調べないと大事な事を見逃すかもしれないからという感じだ。

 後一週間でウォンバットを離れるという事もあり、依頼を受ける頻度を少し上げる事にした。なので、今日もギルドに来ていた。


「嬢ちゃん!」


 ライデンさんが私を呼ぶので、依頼を取らずに受付の方に向かって行く。


「どうかしたんですか?」

「嬢ちゃんに頼みがあってな。もう一度坑道内を調査してくれないか?」

「あれ? もう終わったんじゃ?」


 坑道内に何もない事が分かったから、色々と周辺の調査をしている途中だったはず。なので、ライデンさんのこの頼みには少し違和感を覚えた。


「ああ。実際調査結果的には何もないって事になっている。だが、採掘をしている奴等から何か変な音が聞こえるという風に報告を受けてな。それも一つや二つじゃない。いくつも届いている」

「でも、そういう事ならもっと前に気付いていそうですけど……」

「俺も違和感はある。だが、これによって何か分かるかもしれない。坑道内を安全に調査出来る人材が限られていてな。嬢ちゃん達が一番確実だ。勇者様のパーティーは山の裏側の調査に向かっていて頼めそうにないからな」


 それは初耳だ。ウォンバットの周辺として山の向こうも入れて考えた感じなのかな。

 ミモザさんが何も言っていなかったから、急遽決まった的な感じなのかな。今日はミモザさんとじゃなくてリルカさんとアリサが相手になる予定だったから、特に問題はない。


「分かりました。採掘師の皆さんは避難している感じですか?」

「ああ。嬢ちゃん達の調査が終わるまではな」

「なるほど。なら、早く調査を終わらせないといけませんね。その分の報酬は出ますよね?」

「ああ」

「じゃあ、引き受けます」


 アリサと冒険者証を渡して依頼を受けてから坑道へと向かって行く。


「坑道で変な音って何だろうね? 風が抜ける音とかかな?」

「でも、それだったら採掘師の人達も慣れていると思うよ?」

「それもそっか。取り敢えず、アリサの耳が頼りだね」

「うん」


 鉱山の前で冒険者証を見せてから、坑道の中に入っていく。すると、アリサが周囲をキョロキョロと見回し始めた。


「聞こえたの?」

「変な音というより……風が入る音?」

「えっ? 本当に風の音だったの?」


 それで変な音がするからという風に言うのは、さっきのアリサとの話でおかしいということになっている。そのくらいは慣れているはずだから。この前のミノタウロスの件で敏感になっているという訳でもない気がする。風の音とミノタウロスの咆哮は全然違うから。


「何か違和感がある。隙間から風が入るみたいな感じ」

「隙間風?」

「うん」


 扉を付けたからという訳では無いと思う。それならもっと前から報告が来ているはずだし、ライデンさんももっと前に調査を依頼すると思う。採掘をしていくにつれてどこかの通路に繋がっているのかな。


「取り敢えず、その風の場所に向かおう」

「うん」


 アリサと一緒に坑道を駆けていく。その中で一つ気になる事があった。


(仮に通路が繋がったとしたら、それで怖いと感じる? 坑道の中をよく知っている採掘師達もいるはず。その人達なら通路が繋がってしまったって気付くんじゃ……ミノタウロスの件で恐怖に敏感になっているにしても、やっぱりそのくらいの違いくらいは分かる気がする。じゃあ、真に恐怖していたのは音じゃない)


 その正体について考えようとしたら、正面から大きな蜘蛛がこっちに向かってきた。ケイブスパイダーと呼ばれる洞窟に生息するモンスターだ。

 私は雷鎚ミョルニルで身体能力を強化してから、一気にケイブスパイダーに向かって突っ込んだ。その頭を叩き潰して倒す。もう少し頑丈かと思ったけど、雷鎚ミョルニルの頑丈さが上回った。所詮は蜘蛛。ハンマーには勝てない。

 死体をそのままにはしておけないので、インベントリに回収しておく。


「ローリングアルマジロやアーマースコーピオンと比べたら柔らかい。糸を出される前に倒す事を心掛けよう」

「うん」


 蜘蛛型のモンスターの厄介なところは、糸を使った拘束だ。相手が動き回るタイプだからと言って、糸を使わないとは限らない。そこら辺の警戒はしておく。


「あそこ。あそこに風が入り込んで音が微かに音が出てる」


 アリサが指差した方を見ると、そこにあるのはただの岩壁にしか見えない。ただ、その他に気付く点もあった。


「ここバリケードの近く?」

「うん。一つ横の通路がバリケードだったと思う」


 アリサも記憶を頼りにそう答えた。


「でも、それが何か関係あるの?」

「バリケードの近くを積極的に掘る事はないと思うから。新しい道が開通する事になるし、新しくバリケードを作る事になるかもしれないでしょ?」

「管理の問題?」

「後は侵入経路が増える。だから、ここら辺の採掘は制限してるはず。鉱山の注意事項にそんなことが書いてあった気がする。ちゃんと読んでたわけじゃないからうろ覚えだけど」


 この前のミノタウロスが侵入した際に注意事項の文があって、遠目に軽く読んだ時そんな事が書いてあったような気がする。

 会話をしている内に壁に着いたので、音が聞こえてくるところを探して見つける。確かに小さく隙間がある。その向こうは暗いから何も見えない。


「じゃあ、この向こうは外?」

「ううん。今は昼間だから、それはあり得ない。それがこんな暗いわけない。つまり、別の通路に繋がってるって事。山の形だって綺麗に円形だったりするわけじゃない。バリケードの場所がこの真横だとしても、こっちの壁の向こうはまだ山の中って可能性は低くないよ」


 そう言いながら隙間から改めて隙間を覗く。やっぱり真っ暗闇だ。だからなのか、身の毛がよだつような感覚がしてくる。


「ヒナ」

「ん?」


 アリサに呼ばれて、手を伸ばしてきていた恐怖心が引っ込んでいく。


「大丈夫?」

「分からない。でも、この先にあるものが恐怖を抱かせるものっていうのは間違いないかも」

「帰る?」

「ううん。行こう。中途半端な調査が一番迷惑になるよ」


 私はそう言って深呼吸をする。何に対する恐怖なのか分からないけど、この先を調べない事には、報告する内容がなさ過ぎる。私は雷鎚ミョルニルを思いっきり振って壁を壊した。

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