様々な思い
それから一週間が経った。リルカさんやミモザさんとも交流をしながら、依頼も受けてお金を稼いでいく。お金は必要だから、依頼を受ける必要はある。
ただ、今日は何故かハヤトさんのパーティーが傍にいた。
「何か用ですか?」
「坑道に一切の異常がない事が確認出来てな。後はウォンバットの周辺に何かあるかの調査をする事にした。丁度良いところに、ヒナ達が依頼を受けるようだから、同行しようと思っただけだ」
「おぉ……でも、本当にただモンスター退治をするだけですよ?」
「ああ。もしかしたら、そこでヒナが何かに気付くかもしれないからな。そういうところも考えている」
「う~ん……あれから外は変わりないですし可能性は低いと思いますけど……この場合って、ギルドへの申請はどうするんですか?」
私は受付をしてくれているライデンさんに訊く。
「依頼を受ける時に申請すればパーティー扱いになるが、金に分け前にギルドは介入しない」
「つまり、依頼を受けたという証拠が残るだけとも言えるわけですね」
「そういう事だ。ここの証拠が残る事で、分け前を貰えていないという事で裁判を起こされることもある」
「なら、申請はしなくて良い。分け前が欲しい訳では無いからな」
「揉め事の素ですよ?」
「俺達が納得していれば問題ないだろう」
ハヤトさんがこう言うのなら仕方ないので、それを受け入れる。依頼の受注をして、ウォンバットの外に出る。
「普段はどのような狩りを?」
「基本は私が戦います。アリサは援護ですね。私のレベルを上げたいので。最近はレベルも上がりにくくなってますから、積極的に倒したいんです」
「なるほど」
そんな会話をしていると、【気配察知】でアーマースコーピオンを見つける。雷鎚ミョルニルを出して、アリサに目で合図を出してから突っ込む。雷を纏い身体能力を向上させて、両側面から来るアーマースコーピオンの鋏攻撃を避ける。真上から来る針攻撃を弾き飛ばして、アーマースコーピオンの顔に向かって雷鎚ミョルニルを叩き付ける。
アーマースコーピオンの鎧を砕いて頭を潰した事でアーマースコーピオンが倒れる。それをインベントリに仕舞えば戦闘終了だ。
「大体こんな感じです。アリサは、本当に危ない時に鋏や針を落としてくれます」
「前衛と後衛でしっかりと分担しているんだな」
「まぁ、アリサが前に出て殴るって事も少なくないですけどね。数が多くて私が捌ききれないと判断したら、アリサが自然に動いてくれます。ハヤトさん達はどうしてるんですか?」
一応参考までにハヤトさん達の戦い方を聞く。これからパーティーが増えるかもしれないから、その時用の参考だ。
「基本的には俺とジェーンが前に出て戦う。ミモザとユーリは援護だな。最近は、ユーリが獣人の強みを活かした動きをして囮になる事や遠距離から弓を使う事が多い」
「そうなんですね」
ちょっと意外なのでユーリさんの方を見ると、少し照れていた。勇者パーティーに入った事もあって、ちゃんと戦えるようにしたのかな。その横でジェーンが何か難しい顔をしている。特に興味はないので、スルーしておく。
「俺達も戦って良いか?」
「はい。なるべく鋏とか針を無傷で手に入れると、高く売れますよ」
「なるほどな。切断されていても問題はあるか?」
「特に無いです」
「なら、関節狙いだな。ジェーン行くぞ。ん? ジェーン?」
「ん? ああ、悪ぃ」
ジェーンも剣を抜いて、ハヤトさんと一緒に駆け出していった。
「大丈夫ですかね?」
さすがに、上の空にまでなっているとなると、私も心配してしまう。下手すれば、死んでしまうかもしれないし。そうなると、ハヤトさんのパーティーの戦力が削がれるので、それは防がないといけない。魔王と戦うための戦力なわけだから。
「問題はないと思います。ヒナちゃんがしっかりと強くなっているのを見て思うところがあるようですから」
「え? 私が原因なんですか?」
「下に見ていたヒナちゃんが、普通に強くなっている事がジェーンにとって予想外だったようです。自分の考えの間違いとヒナちゃんにしている無礼な言動に対して色々と考えているようですよ」
「へぇ~……そうなんですね」
ジェーンもジェーンなりに考えているという事みたい。人は急に変わる事は出来ないし、私もジェーンにさっさと変われとは期待していない。
旅を通して変わっているって話があったから、私の影響では無く十中八九ハヤトさんの影響だとは思う。
(本当に漫画やゲームの勇者みたいに、他人への影響が強いんだなぁ。まぁ、勇者だからというよりもハヤトさんだからって事が強いんだろうけど)
そういう人柄も勇者として選ばれた理由なのだと納得出来る。そんな話をしている間に、ハヤトさん達がアーマースコーピオンを倒した。鋏と針を落として、頭に聖剣エクスカリバーを突き立てて倒したみたい。
「何の話をしてたんだ?」
「モンスターに関する事ですね。それにしても、エクスカリバーの鋭さは凄いですね。普通の冒険者はウォンバットでモンスター退治をしようとしないらしいですよ」
「ああ、採掘が主な稼ぎらしいな。確かに、剣を使う奴等からすれば、ここのモンスターは相性が悪いな。俺はエクスカリバーがあるから、全く問題ないが、普通は武器が壊れる心配もあるしな」
ここら辺がアーティファクトの強みだ。ステータスの上昇値も高いので、ステータスで相手を上回れるしね。
「そういえば、ヒナは大丈夫なのか?」
「何がですか?」
何に対して大丈夫と訊いているのか全く分からなかったので聞き返す。すると、ハヤトさんは口を開いてから気まずそうな表情をしながら後頭部を掻き始めた。
「ああ……いや、これを聞くのは……」
ハヤトさんの態度とその言葉で何を聞きたいのか察した。ハヤトさんが聞きたいのは、私が捕まっていた坑道などがあっても大丈夫なのかという事だ。
「大丈夫ですよ。自分が怖いと思っている事をちゃんと認識しましたから。ただの鉱山や坑道にトラウマみたいなものは植え付けられていません」
「そうか。それなら良かった」
ハヤトさんだけで無く、ユーリさんやミモザさんも安堵したような表情をしていた。ずっと聞きたかったのか、ハヤトさんが言って気付いたのか分からないけど、私が鉱山などに恐怖していない事が分かったのが嬉しいみたい。
そこからローリングアルマジロとの戦闘もあったが、ハヤトさん達も何も問題なく倒していた。これらの討伐報酬は、しっかりと分けた。分け前的にはハヤトさん達が倒した分のお金を渡すという形だ。
ハヤトさんは全部貰って良いと言っていたけど、まだお金に困っている状態ではないので、互いに貸し借りを意識しないために貰って貰った。それで納得してくれたので、ハヤトさんも貸し借りの意識を残したくなかったのだと分かった。
まぁ、全体的に言えば、ハヤトさん達、特にミモザさんへの借りが大きいのだけどね。グリフォンの時に身体の治療をしてくれたりしたし。それに関しては文字通り身体で払っているような状態だけど。