情報提供
宿に戻る事が難しいという事で、ユーリさんを私達の家に連れて行く。アリサがお茶を入れてくれる間に、ユーリさんと話をする。
「ユーリさん達はミノタウロスについて調べていたんですよね?」
「う、うん。本当はもう少し離れた街にいたんだけど、モンスターの分布が変になっているってギルドや騎士団から報告を受けて勇者様が調査に乗り出しました。元々私達も同じような状況に遭遇していましたから」
どうやらハヤトさん達もモンスターの大移動に遭遇したらしい。そこで戦った事とギルド、騎士団からの報告があって、今回の調査に乗り出したらしい。順番に調査して、ここに来たって感じなのかな。タイミングが良かったと考えよう。
「ミ、ミノタウロスがいなくなった調査をしていたら、ウォンバットの方に大移動している事が分かって、その後を追って来たら、同じように調査をしている騎士団に遭遇してウォンバットに案内して貰いました。今は坑道での採掘も再開しているみたいですけど、ここら辺にミノタウロスが移動してきた理由があるかもしれないので調査する感じです。ちょっと邪魔になるかもしれませんが」
「なるほど……ミノタウロスがいた時に調査をしていた生き残りが、私達と一パーティーだけだから、私達を探していた訳ですね」
「う、うん。もう一つのパーティーにはジェーンさんとミモザ様がお話を聞きに行っています。勇者様は外に出ると……その……」
「人だかりで動けないですもんね」
言いにくい部分を私が言ったので、ユーリさんが頷く。ハヤトさんも動きたいだろうけど、来たばかりだから少し時間をおいた方が良いと判断してユーリさん達が出ているのだろう。ミモザさんも動いているのは、ミモザさんはまだマシだからとかかな。
勇者は別世界の住人だけど、聖女はこの世界の住人だから珍しさが違うとかが要因にありそう。
「でも、ジェーンさんが出て大丈夫なんですか?」
「あはは……多分大丈夫かと。旅を経て、少しずつ変わっていますから」
「そうなんですか」
そこまで話したところで、アリサがお茶を持って来てくれる。
「あ、ありがとうございます。アリサちゃんはお身体の方は……?」
「大丈夫です。あれから何も問題はありません」
「よ、良かったね。それでアリサちゃんも合わせてお話を聞きたいかな」
「はい」
私とアリサは、坑道内で行った戦闘とモンスターの数と種類を伝えていく。ユーリさんは、その内容を丁寧にメモしていた。
「ギルドの報告と同じですね。ジェネラルタウロス。確かに、大量のミノタウロスを引き連れていくのなら、それなりの格を持っているはず。ジェネラルタウロスなら納得です。でも、尚更ウォンバットに来た理由が分かりませんね。ジェネラルタウロスを誘導するにしても、お話を聞く限りジェネラルタウロスは消耗も何もしていない」
「でも、人間を食べていましたよ?」
「うん。行軍の疲れはあると思いますが、激しい戦闘に負けた後のような消耗がなかったと思います」
「確かに……軽い疲労はあったかもしれないけど、私の攻撃を捌くくらいには消耗は少なかったと思います」
実際に戦闘をしたアリサが答える。
「でも、それってレーヴァテインがあったからじゃないの?」
「レーヴァテインがあるにしても、武器として扱えるくらいに体力が残っていなかったら最初の防御から崩せたと思う。だから、ユーリさんの考えは当たっている気がする」
「そうなんだ。でも、縄張りを追われたわけじゃないなら、縄張りに付いていたって跡は何なんですか?」
「そこが分からないんです。情報を繋げて考えると、縄張りでの戦闘は確かにありました。それも比較的新しめの跡です。ただ沢山殺されたような跡ではありませんでした。なので、縄張りに侵入した際に軽い戦闘になりましたが、その後にミノタウロス達を誘導するように……違いますね。恐らくは洗脳でしょうか。縄張りの認識変える。これが移動した理由になるかもしれません。
問題は、この戦闘などが私達に感知出来ていないという事です。証拠がない。だから、洗脳以外の理由を探しながら洗脳の痕跡を探しています」
思ったよりも大きな話を聞けている。この話はグレイズさんに共有した方が良いのかと思ったけど、それくらいならハヤトさんが騎士団全域に広まるように伝えるはずだから大丈夫だろう、問題は洗脳の可能性がどのくらいあるのか。
「ユーリさんは、どのくらいの可能性があると思いますか?」
「七割方洗脳によるものと思ってます。そうでなくては、モンスター達の動きに説明がつきません。人間と少し争ったくらいで縄張りを変えるモンスターは少ないです。その中にミノタウロスはいません。好戦的であれば有るほど、縄張りへの執着心は強いですから。ですが、洗脳の痕跡が見つからない以上、その可能性は低くされてしまいます」
「だから、他の可能性を探して、そっちも無い事を確認するという事ですか?」
「はい。遠回りですが、他の理由が見つからなくなれば洗脳の可能性を、再び浮上させる事が出来ると思うんです」
確かに遠回りだ。洗脳の証拠がないから、その可能性を持ち上げるために他の可能性を排除するために動く。本当に遠回りだ。だって、そうなっても結局証拠がない洗脳が必ず浮上させられるとは限らないから。
結局、洗脳の証拠が一番必要になるという事だ。
「それなら私達の方でも洗脳の証拠を集めてみようと思います。まだウォンバットに滞在するつもりではあるので、他にも何か困った事があったら言って下さい。出来る限り協力します」
「ありがとうございます、ヒナちゃん。アリサちゃんは何か気付いた事とかありませんか?」
ユーリさんは直接戦っていたアリサからも詳しい話を聞く事にしたみたい。
「動き自体に変なところはなかったです。意識を持っていかれているような様子は一切」
「認識の書き換えだけなら意識が朦朧とする事はないはずです。必死さは感じませんでしたか?」
「確かに必死な感じはありましたが、死なないための抵抗と言われれば納得してしまうくらいのものです」
「直接結びつけるには弱いですね。目はどうでしたか?」
「ギラギラしていました」
「やっぱり結びつけられませんね。ですが、重要な情報ではあります。提供して貰ってありがとうございます。私は勇者様のところに戻りますね」
「はい。お役に立てたなら幸いです」
ある程度情報を得たユーリさんが宿に帰るので玄関まで見送る。すると、ユーリさんは何かを思い出したかのように私を見た。
「ここの事はミモザ様にお伝えしても大丈夫ですか? ミモザ様はヒナちゃんに会いたがっていましたので」
「あ、はい。大丈夫です」
「分かりました。では、改めて失礼します。また何かあればこちらに来ますね」
「はい。では、また」
ユーリさんを送り出す。ハヤトさんと直接話すのは明日か明後日以降になるかな。