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異世界旅はハンマーと共に  作者: 月輪林檎
異世界転生

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あてがわれた部屋

 皆の聴取が終わり、私達は騎士団の宿舎に案内された。空き部屋となっている大部屋にリリアンナさんと小さな子供達が入り、私とレパ、リタとキティは、それぞれ二人部屋を貰った。空いている部屋をあてがわれたから、四人部屋とかには出来なかった。


「う~ん……」


 レパと同じ部屋に入った私は、身体を伸ばしながら部屋の中を調べる。ベッドが二台と机と椅子がそれぞれ一つずつ。大きな丸いテーブルが一台と椅子が二脚。私達一人一人用にタンスもあるので、割と良い部屋だ。まぁ、その家具達で部屋の面積のほとんどが埋められているのだけど。

 土足厳禁のようで、玄関で靴を脱ぐようになっていた。ちょっと日本っぽい。よく見ると、床がフローリングっぽくなっている。外観は石っぽいから古い時代の家に見えるけど、内装は現代チックだ。

 しかも、灯りとなる蛍光灯のようなものまである。そのスイッチは、宝石のようなものだった。一応、それで灯りが点く事は覚えていた。元々の家にもあったし。


(う~ん……ちぐはぐな気もするけど、それは私が別の世界の人間だったからかな。こっちでは普通の事だろうし。外観を揃える事で街の景観を整える意味があるのかもしれないし)


 別の部屋にはお風呂とトイレが別々に設置されていた。洋式のトイレなのは幸いだった。和式のトイレはあまり使った事がないから。お風呂の前の脱衣所には洗面台が付いているので、脱衣所兼洗面所となっている。


「これって、ここを触ると出て来るんだっけ?」

「うん」


 蛇口の横に付いている青い石に触れると、水が出て来た。もう一度触れると止まる。水の出し方も、何となく覚えていた。でも、お風呂の使い方は全く覚えてなかった。こっちはレパに教えてもらう。


「ここを触ると、一定の水位までお湯が溜まるよ」

「ああ、そうなんだ。これってどういう仕組みなの?」

「えっと……魔法道具は、基本的に魔法陣を刻む事で作ってるの。水が出るのは、魔法を使っているからだね。出しっぱなしは駄目だから、こういう分かり易いところにスイッチを付けてるの。触る事が起動の条件になってるよ。定期的にMPを消費して力を貯める必要があるけどね」

「ふ~ん……どのくらい?」

「これだったら、一ヶ月に一回5くらいかな」


 何となく分かったような分からないような感じだ。でも、そういう道具と考えれば、納得は出来るかな。一ヶ月に一回MPを5だけ消費するだけで、この機能が毎日使えるのなら良い道具だと思う。

 そんな風に部屋の確認をしていると、扉がノックされた。


「は~い」


 扉を開けると、そこにはさっきの女性騎士が立っていた。手には手提げ鞄が握られている。その中身はパンパンに詰められていた。


「取り敢えずの部屋着ね。靴とか外着は、明日身体測定をした後で用意するから。お風呂とかの使い方は分かる?」

「はい。レパがいるので、大丈夫です」

「それは良かった。夜の間は、鍵を掛けておいて。進入するような人はいないと思うけど、念のためね。私達騎士はノックした後に名乗るから。私はメイリア。よろしくね」

「はい。よろしくお願いします」

「それじゃあ、後でご飯を持ってくるから」

「ありがとうございます」


 メイリアさんから鞄を受け取ると、メイリアさんは手を振って去って行った。なので、扉を閉めて鍵を掛ける。


「レパ、服貰った。部屋着にしてだって」

「それは嬉しいね」

「後でご飯も持ってきてくれるって」

「至れり尽くせりだね。それじゃあ、先にお風呂に入ろう。ミモザさんに綺麗にして貰ったけど、ちゃんとお風呂には入った方が良いだろうから」


 レパの言う通りだ。身体は綺麗になっていても、ちゃんと自分で洗った方が気持ち良いだろうし、気分転換にもなる。ただ、一つ問題があった。


「うん。悪いんだけど、一緒に入ってくれる? まだちょっと心配で……」


 お風呂の使い方は理解出来ているはずだけど、まだ不安がある。八年も入っていないわけだし。だから、レパに一緒に入ってもらうのが一番だと考えた。


「うん。良いよ」


 レパは微笑みながら頷いてくれる。

 一緒にお風呂に入って風呂椅子に座ると、レパがシャンプーなどをしてくれる。一応、こっちの世界にも石鹸やシャンプーは存在する。転生者や転移者によるものなのか、こっちの世界で独自に開発されたのかは分からないけど、有るのだから気にしないで良いかな。


「ヒナも髪を切らなきゃだね」


 髪がかなり伸びてきたからかレパがそう言った。確かに、私も邪魔だと思っていたので、切るのには賛成だった。


「うん。石のナイフで伸びすぎたところを雑に切ってただけだしね。このボサボサも直るかな?」

「ちゃんとしたのを使えば、直ると思うよ」


 そう言いながら、レパは丁寧に頭皮を洗ってくれる。リリアンナさんに『洗浄』してもらったはずだから、盗賊のアジトにいた時よりは綺麗なはずだけど、汚れていた期間が期間だから、しっかりと洗って貰った方が良いもかも。

 シャンプーを洗い流して、軽く水気を取ると、トリートメントも付けてくれる。髪が長いので、そのまま纏めて、風呂椅子をレパに譲り身体を洗う。全部レパの指示だ。

 身体の細かいところ……特に足をよく洗っていく。ミモザさんに綺麗に治して貰ったけど、自分でもケアはしないとね。

 トリートメントを落として、レパが張ってくれていた湯船に向かい合って浸かる。


「ふぅ~……ようやく落ち着けたって感じ……」

「そうだねぇ……」


 二人で湯船に溶け込んでいた。髪はお風呂に浸からないようにレパがタオルで纏めてくれた。自分でも出来たけど、ここは素直に甘えておいた。


「レパって髪切れる?」

「軽く整えるくらいなら出来ると思うけど、髪を切る鋏が必要だね」

「そっか……まぁ、お金はないから散髪屋に行く選択肢はないし、適当な鋏をメイリアさんから借りようかな」

「う~ん……適当な鋏はやめておいた方が良いと思うけど。それより、本当に冒険者として生きていくの?」


 レパが真剣な顔で訊いてくる。多分、レパからしたらずっと聞きたかった事だと思う。私の事をずっと心配してくれているから。


「うん。両親も家もない私が生活するには、それが一番だから。孤児院に入るっていうのもあるけど、私は世界を見て回りたいからね。後、出来れば故郷を見つけたいかな。まぁ、記憶が曖昧だから、辿り着けるか分からないんだけど。名前すら知らないし」


 拉致された七歳の時から前の幼少期の記憶は、かなりぼんやりとしている。故郷がどんな場所かは、本当にほんのりと覚えているくらいだった。だから、本当に故郷に来たところで、故郷だと分かる自信はない。でも、自分が育った場所はもう一度見てみたい。両親との思い出の場所ではあるし。


「そっか……でも、もう少し大きくなってからでも良いんじゃない? 両親を説得したら、一緒に暮らせるかもしれないし」

「駄目だよ」


 私は食い気味にそう言う。これは早く否定しておかないといけない。


「子供を一人育てるのにも、かなりのお金が掛かるんだよ? そこに見ず知らずの子供が一人増えるっていうのは、お金の負担も心的負担も増える事になる。私の事情を聞けば、それに同情して頷かざるを得なくなる可能性もある。自分で言うのもなんだけど、そのくらいの事情はあるから。だからって、そう簡単に頼んで良い内容じゃないよ」

「…………」


 レパは、私の意見を聞いて、少し唖然としていた。まぁ、こんな事を言うとは思わなかっただろうから、当たり前かな。

 向こうの世界では学費とかがあった。こっちでも学校自体はあるから、そこに通わされる事になれば、その学費まで負担になる。それを抜きにしても、食費等全ての出費を考えれば、育ち盛りの子供が一人増える負担は大きすぎる。

 レパは善意から言ってくれているし、私の事を心配してくれている事も分かる。それくらいの感情を持つくらいには、濃い時間を過ごしている。だからこそ、ここで差し伸べられる手を振りほどかないといけない。

 その手は私の事だけしか考えられていないものだから。その事にレパが気付いてくれると良いけど。

 レパは、少し思い詰めたような表情になった後に、少し目を開いた。気付いてくれたかな。


「そうだね……ごめん。ヒナもそんな状態でいたら苦しいよね……」


 それは思い付かなかった。確かに、相手に負担を掛けているという自覚は、私自身も苦しめる事に繋がる。まぁ、厚かましい子供でいれば良いのだろうけど、そこまで厚かましくなれない気がする。


「じゃあ、ヒナとはここでお別れなんだね」


 レパが小さな声でそう言う。視線が下に向いて、軽く下唇を噛んでいた。そして何よりも私の足首にレパの尻尾が巻き付いている。こっちは、多分無意識かな。


「まぁ、どっかでまた会えるよ。レパの住んでる場所にも行くかもしれないしね」

「え?」


 暗い顔から一転、レパの顔色が少し明るくなる。


「永遠に会えないわけじゃないよ。私も旅をするから、どこかで会える可能性はあるし。私の居場所が安定しないから、手紙のやり取りは出来ないけど、一方的に送りつける事は出来るかな。まぁ、それもレパが引っ越さない前提だけど」


 この世界に携帯とかがあれば良いけど、まだそういうのはないみたいだし、手紙でのやり取りが現実的だ。ただし、私が旅をする以上、レパの実家に手紙を送るという形になる。レパが自立して引っ越せば、その手紙をレパの両親がレパに送るという二度手間が発生する事になる問題がある。


「それなら、ヒナが向かう街の冒険者ギルドに手紙を送るよ。それなら受け取れるでしょ?」

「そんなこと出来るの?」

「うん。冒険者に手紙を送る時によく使う方法だよ。私はヒナとの縁を切りたくないから」


 私の足首を絞めるレパの尻尾の力が強くなる。本当に私と離れたくないと思っているみたい。アジトで互いに支え合っていた時間が、レパにとってどれだけ大きな事だったかが分かる。


「うん。私もレパとは繋がっていたいかな」


 レパの頬が紅潮する。ある意味愛の告白的なものになってしまったのかな。男女だと肉体関係を望んでいるような感じに聞こえるかもしれないから、告白でも間違ってはいないのかな。

 でも、レパの言葉に対する返事的なものだから、告白ではないのだけどね。

 そんなレパが口を開こうとしたので、ひとまず口に指を当てた。


「駄目だよ。レパは帰らないと。心配してる両親達を安心させてあげないと」


 レパの考えている事が即座に分かった。自分も冒険者になって、私と一緒に旅をすると言おうとしたのだ。

 それを証明するように、レパが口を閉じて俯く。私の言いたい事は理解してくれたのだと思う。盗賊に誘拐されて、両親が心配しないはずがない。既に命がないとすら思っていた可能性もある。それだけの時は流れている。

 そんな娘の無事が判明して生きてまた会えると分かったのに、また家を離れて旅をすると言えば、両親は悲しむだろう。それを考えればレパは家に帰った方が良い。


「でも、お父さん達から許可が出たら……」

「出たらね」


 私がそう言うと、レパは私の事を抱きしめてきた。足首を絞めていた尻尾も解けて、身体を密着させるように背中に回ってきた。


「もし許可が出なくても手紙は頂戴ね。良い?」

「うん」


 それから一時間近く、レパに抱きしめられながら入浴していった。レパは意外と長風呂のようだ。温かいのが好きだという事がよく分かる。

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