夢のたね
初めての短編。
確認はしておりますが、文章に一部不自然な箇所などがあるかもしれません…
「君、夢はある?」
自分を見失って、自分らしさがわからなくなって、なんとなくやってきたある放課後の河川敷で、堤防に腰かけて黄昏ていたところ、突然通りかかった少女にそんな風に声を掛けられた。身を包む制服を見るに、橋を渡って向かいの街にある、晴雲館高校の生徒だろう。頭のいい進学校で、部活動も強い。俺が中学の時に付き合っていた元カノは、確か晴雲館の中でもトップクラスに頭のいい、国際コースに行ったっけ。
俺はと言えばどうだ?特にやりたいことも無く、ただひたすらに惰性を煮詰めたような日々を送り続け、家から一番近い高校を選び、遂には高校3年生にもなって、進学するか、就職するかすらまだ決まっていない。
俺は未だ白紙のままの進路調査票を眺めながら、少女の問いに答える。
「夢、ねぇ…逆に聞くんだが、夢ってなんだ?」
俺はそんなネガティブな思考を持ちつつ、少女の問いに答える。
すると少女は呆れたように言った。
「えぇ…夢が無いなんて、なんてつまらない人生を送ってきたの?」
「別につまらないなんて事は無い!初対面の人間に、随分な物言いだな」
まったく失礼なやつだ。まさか、初対面の人間に、自分の人生を馬鹿にされる日が来るなんて思っても無かった。
俺はそれなりに強めの口調で言い返したつもりだったが、少女は怖気づく様子も反省する様子もなかった。
「でも夢が無いなら、それなら、なんの為に頑張って、なんの為に学校に行って、なんの為に生きているの?ゲームとかアニメで、その日限りの楽しみばっかり追っていて、何が成せるの?」
「それでいいんだよ、俺は。別に何かを成すために生まれてきた訳じゃない。だから良いだろ別に。と言うか、なんで俺がゲームとかアニメが好きって分かったんだよ?」
「だって君の鞄に付いてるその缶バッチ、ワガママクリエイティブのキャラだよね?この前アニメやってたゲーム原作の」
「あんな頭の良い高校に通ってる人間でも、アニメとか見たりするんだな。しかもこんな、
マイナー寄りのやつ」
俺はあんなに頭が良くて部活も強い、文武両道の高校に通う生徒が、こんなノベルゲーム原作のマイナーな作品を知っている事実に驚いた。俺は、晴雲館の生徒は皆、勉強と部活ばっかりしてるんだと思っていたのだ。
「まあ、そんなに多数派ではないけどね」
少女は簡潔に答えた。そして彼女は続けて言う。
「ねぇ、私、夢があるの。それもとびっきりに大きいやつ!」
「…どんな夢なんだ?」
俺は少女から放たれる強い「聞いて来なさい」オーラを素早く感知し、仕方なくそう聞いた。
すると少女は、待ってましたと言わんばかりにパッと目を輝かせ、食い気味で答える。
「それは…とびっきり面白い物語を書いて、読者の心を鷲掴みにする事!!」
俺の横で立ち上がり、そう堂々と宣言する少女の横顔は、夢や希望をそのまま擬人化したかと思う程輝いて見えた。
「そうだ!」
少女は何か閃いたようで、こちらを向いて、「ねぇ」と声をかけてきた。
「君、やりたい事とか夢とか無いんでしょう?だったら、私のイラストレーターになってよ!小説って面白いだけじゃ売れないと思うの。やっぱり表紙で目を惹かないと!!」
「それはまあ、俺もそう思うけど…だったらなんで俺なんだよ。絵なんて小学生以来描いて無いぞ?」
俺がそう答えると、少女は胸を張って、自信満々といった様子で答える。
「ふふふ…あまり私を舐めないでいただきたい。私にはわかっちゃうんだよねえ…”オーラ”ってやつが」
「オーラかなんか知らないが、たぶん気のせいだと思うぞ」
「気のせいじゃないよ!私には確かに見えてる…君が持つ、イラストレーターとしての魂が」
「はあ。まあ、もしかしたらそんなのがあるのかもしれないな」
「じゃあ今日から!今日から毎日イラストの練習をして、私に毎日欠かさず進捗報告してくる事!いい?わかった?」
少女の自信満々な様子は、俺がどう答えても変わりそうになかったので、俺があきらめて少女の主張を肯定すると、少女はその自信満々の様子のままでそう言うと、俺に1枚の紙きれを渡してきた。
「それ、私の連絡先だから!ちゃんと進捗報告忘れるなよ~?」
少女は一方的に告げると、「じゃあ」と言って、俺の返事を待たずに去って行ってしまった。
それからしばらく、俺はそのまま目の前を流れる川面に反射する夕日を眺めていた。
手に持った進路調査票は、今もまだ白紙のままだ。
でも、川面に反射する夕日は、ここへ来た時よりも少し明るく見えた。
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