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みうへ  作者: A氏
6/22

アルコールが腐らしたもの

 私のコンサートが終わり、祖父母の家に行った。豪華な夕食を食べた。母は父とは別でコンサートを観には来ていたが、会食に参加することはない。もう別れたのだから。

 そして父の状態が少しマシになったから私たちの家に帰そうと思うということを告げられた。久しぶりに帰ってくる。やり直せるのだと思った。昔より暇ができる。ずっと父と話したりどっかに行ったりはしていなかったから楽しみであった。

 父は治っていなかった。直す努力もしていなかった。

 「隠れて祖父母の家でも酒を飲んでいたんだよね。隠すのも大変でさ。」

 そう言いながら、酒を飲み始めた。ついに私があげた酒をも、飲む酒が家にないからと飲み始めた。私が初めて沖縄旅行に行った時、買って帰ってきた酒だ。

 「飲まないの。」

 「せっかく買ってくれたんだから、もったいないじゃん。特別な事が会った時に飲もうと思うよ。」

 そんな会話をしていた。それがただの飲む酒がないから飲むに代わってしまっていた。それも悲しかった。でもあげたものなのだから仕方ない。祖父に金の管理もされるようになって簡単に酒を買えないようになったのだから仕方ない。クレジットカードの限度額を全てで迎えてしまったのだから仕方ない。アル中なのだから仕方ない。

 私は次の実技試験が待っていたので、ピアノの練習に忙しかった。この頃は毎日12時間くらいはピアノの前で座っていられるほどであった。前回の試験で2位の成績だったから今回は一位を取るんだと意気込んでいた。

 練習していると後ろに視線を感じた。

 「ん、どうしたん。」

 「いや、ピアノ上手いね。こんなに弾けるんだね。」

 「いやまだ練習中だからまだまだだよ。え、ずっといるん。」

 「気にしないで。」

 私は最初は今期の課題曲を練習していた。本当に下手な状態だった。せっかく父が見ているのにみっともない。だから私は前期の課題曲を弾いた。なんと言っても2位になった曲である。下手なわけはない。むしろ試験の時より完璧に弾ける自信すらあった。もっと認められると思っていた。褒めてもらえると思った。だが、曲が終わる前に父は姿を消してしまった。玄関の扉の音が聞こえた。

 「なんでいなくなるんだろ、せっかく弾いたのに...」

 私はなんとなく、自分の鞄が目に入り、財布がなくなっていることもなぜかすぐ気づいた。急いで、玄関の外へ向かってみた。もちろんのこと予想通り、外では父が私の財布を持っており、尚且つ迅速に隠していた。でも財布は見えないように隠したが、中に入っていた紙幣はしっかりと見える位置にあった。

 「どうしたの、その金。」

 「え、あった。」

 「そうなんだ。で、どこいくの。」

 「ちょっと買い物に行く。」

 そんなわかりきった答えを聞きたくて少し会話をして、言ってもくれないから、反対の手に隠している私の財布を奪い返し、金も奪い返した。私は今までに経験したことないほど腹が立ち、殴り蹴飛ばし、倒れた父をさらに蹴飛ばしていた。それが聞こえていたのか引っ越しの準備をしていた母が外に出てきて、止めに入った。そこまで怒ることもきっとなかった。でも私の喜んだ時間を返してほしかったのだと思う。

 そしてもう父と会話をすることはなかった。私はアル中の父がいるから、実家に帰ってきていたが、別に一人暮らしをすでに始めていたから家に帰る必要も本来なかった。私は父を見捨てた。もう関わりたくもなかったし、かなしみたくもなかった。

 母は準備ができて、私がいなくなってまもなく家を出ていった。残るは父だけであった。それでも祖父母が週に一回程度訪ねにきていたから、父が本当に困ることはないのだと思う。

 アルコールによって父との関係は腐った。そして祖父母とも関係は悪くなりつつあった。母は家を出ていき、私を少々頼っていたが、大学生に親が頼るとは何事か、一旦は母も自分の実家に帰ることとなった。

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