酒は崇高な愚蒙を作り出す
父が捕まって帰ってきた後、家族会議が行われた。と言ってもただ母が喚き散らかす。祖父母が呼ばれ目の前にいる中、ひたすらに無言を突き通す父がいるだけの空間だった。処罰はなく、電柱の費用を車の費用を払うだけの自損事故扱いとなった。
そしてその事件が終わって、また束の間の平穏が訪れた。母の車は修理しなくてもとりあえず乗れることは乗れたようで、外装を少し修理しただけで終わった。母はこれでは乗りづらいと愚痴をこぼしていた。きっと何か重要な部品が曲がってハンドルに影響を与えていたのだろう。
それでも父は問題なく仕事を続けていたし、なに不自由ない大学生に戻った。
その数ヶ月後であった。警察署から連絡があった。なにがあったかと思えば、父が捕まった。酒気帯び運転だそうだ。父は高速道路で蛇行運転をしていた。不審がった通行人が通報し、警察が追尾し、声をかけたそうだ。アルコールが検出されたため、そのまま高速機動隊に連れられて、詰所まで連れてかれていた。そこで事情聴取が行わた。私たちが迎えにきた時には終わったようですぐに身柄は引き渡された。終始酔っているのかなんなのか、舐めた態度を取り謝るのもヘラヘラと笑いながらであった。
聞けば今日は会社の送別会だそうだ。父は移動が決まっていた。その当事者が来れなくなったというのだ。会社に対してもヘラヘラした謝り方で大層腹が立った。帰りの道中でもあまり謝る様子はなく、雑談をして楽しそうにしていた。何もかも吹っ切れたようだった。
そこから少しは仕事をしていたが、なんせ免許取り消しになることが確定していた。そのため、今のうちは働けるがカーディーラーとして免許がないというのはやっていけないようだった。祖父は父に免許がなくてもできる役職がないか考えてもらえと言っていたが、父は面子が立たないのか辞表を提出してきたのだ。
「仕事辞めてきた。」
「は。なに言ってんの。これからどうすんのよ。」
「とりあえず失業保険とか退職金の積み立てとかあるから...」
「そんなこと言ってんじゃないの。辞めなくてもいいのに辞めてきて、車も直ってないしさ、なんなの、なんで酒飲んでんの、ふざけんなよ。」
そんな会話をひたすらしていた。特に辞めていた後の人間に何かやれることはなくて、喚くのも無駄である。せめても落ち着いて責めてほしいものである。その日から酒飲みの道楽は道楽だけでは収まらず、もはやそれが本職なのではないかと思えるほどであった。
無職の日々が始まった。ハローワークに通い、対してやる気もない転職活動が始まった。毎日酒を飲む量は増えていった。
そりゃそうだ。無職になり次の日も休みなのだから心置きなく酒が飲めるのだ。そして昼間から始めて飲み明かすことができるのだ。