みうへ
完成する日が来るのか、頭の中にあった草案をじわじわと書いてみようと思う。
とても寒い日々だった。
大寒波が押し寄せたようで、私が今まで経験したことないほどの雪が降った。雪というのは毎日私を困らせる。戸を開けるとそこら中一面に広がっており、家を出るのも一苦労である。何をするにもどかしたり移動させたりしながら過ごさなくてはならない。手のかかるもの。私の癪の種である。
そんな雪も気づけばパタリと止んで、そこに存在していたものは、私を困らせて、憤慨させた雪は跡形もなく消えゆくのである。あんなにそこに存在していたのに、毎日毎日それを見て、毎日考えていたのに今はもうなくなったのである。
現在では暖かな風が吹いて、桜は今は今かと春を待っている。本当は嬉しいはずなのに、存在自体が私の前からなくなって、なかったもののようで、今は苦しさのみが残る。
文才のあるかどうかもわからない私が小説を書く。君が書いてほしいと言ったからだ。私の人生なんぞ大したものではないし、別に語るほどでもない。
でも君はそんな私の話を楽しそうに聞いてくれる。それにもっと聞きたいと思ってくれている。それだけでどうしようもない人生が昇華されるんだ。どうしようもない僕の人生に意義を与えてくれる。それは僕にとってとても嬉しい事だし、君に覚えてもらえる、気にかけてもらえる事はとても重要な事なんだ。僕にとって記憶っていうものはとっても特別な意味を持つんだ。記憶があるから自分が存在していた証拠を残せるんだ。これがもし忘れたり無くなったりしたら僕はそれをしていないに等しいんだよ。だって誰も覚えてなくて、自分すら忘れたら本当にないも同じだろう。だから君に僕の人生を覚えてもらっているっていうのは重要なの。
どこかの学者が「シュレディンガーの猫」というものを提唱していた。それは観測していないのであれば猫が生きてようと死んでようと同じだというのだ。その猫の気持ちが私にはよくわかる。
私の人生、生き様を君が見ててくれる、観測していてくれるから私という存在が存在し得るのだ。君が私を見ていてくれないなら私の生きてきた人生はないも等しいものになってしまうのだろう。
そんなくだらないことを考えて私は君のいう通りに小説を書いているのだ。書いて残したいわけではない。君にこの小説を読んでもらったという時間がとてつもなく重要で必要なものなのだ。
だから君が望むなら書くしかないんだ。もしこれを君に見せたら、君はきっと喜んでくれるだろうし、もっと知ってくれるだろう。君の記憶に残っていることこそが、僕の幸せなんだ。
卑屈で偏屈な人間が書いています。