表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/10

第8話:月光のワルツ、魂の共鳴、そして心の迷宮(ラビリンス)

 城の大広間に、優雅なワルツの調べが流れていた。アシュレイとリリアーナは、銀色の月明かりに照らされながら、静かに舞っていた。リリアーナのドレスの裾が、まるで水面の波紋のように、優美に揺れている。


「1、2、3……そう、その調子だ」


 アシュレイの低く柔らかな声が、リリアーナの耳元でささやくように響く。その声に導かれ、彼女は少しずつ自信を持って動き始めた。


 最初はぎこちなかった彼女の動きも、今では優雅さを増している。その姿は、まるで蕾から花開く薔薇のようだった。アシュレイは、その変化に目を細める。


「リリアーナ、君の上達ぶりには目を見張るものがある」


 アシュレイの称賛に、リリアーナは頬を赤らめた。その顔が月光に照らされ、まるで真珠のような輝きを放っている。


「ありがとうございます。アシュレイ様のおかげです」


 彼女の声には、感謝と同時に、何か切ない響きが混じっていた。二人の距離が近づくにつれ、リリアーナの心臓は激しく鼓動を打ち始める。アシュレイの強い腕に抱かれ、彼の胸の鼓動を感じる。それは生きているものの鼓動とは少し違う、不思議なリズムだった。


(こんなに近くにいるのに……どうして距離を感じるのかしら)


 リリアーナの心の中で、複雑な感情が渦巻いていた。アシュレイへの恋心は日に日に強くなっていく。しかし同時に、彼の過去への想いと、自分たちの関係の行く末への不安も大きくなっていった。彼女の瞳に、儚い想いが浮かぶ。


「リリアーナ、どうかしたのか?」


 アシュレイの声に、リリアーナは我に返った。彼の深い青の瞳が、彼女を見つめている。その眼差しに、リリアーナは心を震わせる。


「あ、いえ……何でもありません」


 彼女は取り繕おうとしたが、アシュレイの鋭い直感は、彼女の心の動揺を見逃さなかった。彼の表情に、僅かな懸念の色が浮かぶ。


「本当に何でもないのか?」


 アシュレイの問いかけに、リリアーナは踊りを止めた。彼女は深呼吸をし、勇気を振り絞って話し始めた。月の光が、彼女の決意を後押しするかのように、一層強く差し込む。


「アシュレイ様……私、あなたのことが……」


 その時、突然大きな物音が聞こえ、二人は驚いて振り向いた。城の入り口から、エルドリッジが慌てた様子で飛び込んできた。その表情には、普段の余裕は微塵も感じられない。


「アシュレイ! 大変だ! 村が襲われている!」


 アシュレイの表情が一変する。その瞳に、怒りと焦りの色が浮かぶ。


「何者だ?」


「他の吸血鬼の集団だ。おそらく、人間の生き血を求めて……」


 リリアーナは息を呑んだ。彼女の胸に、故郷への懸念と、言い出せなかった告白への後悔が入り混じる。


「私の村が……! お願いします、どうか……!」


 リリアーナの声には、悲痛な響きが込められていた。アシュレイは一瞬躊躇したが、すぐに決意を固めた表情になる。彼の瞳に、強い意志の光が宿る。


「わかった。行こう」


 三人は急いで城を出た。月明かりの下、村への道を駆けていく。リリアーナの胸の中では、村人たちへの心配と、言い出せなかった告白への後悔が入り混じっていた。風が彼女の髪を乱す中、彼女の心は激しく揺れていた。


(どうか、間に合いますように……)


 リリアーナの祈りは、静かな夜空に吸い込まれていく。月が雲に隠れ、暗闇が三人を包み込む。それは、これから始まる過酷な戦いの前触れのようだった。


 アシュレイは、走りながらもリリアーナの様子を気にかけていた。彼の心の中で、彼女を守りたいという強い衝動と、吸血鬼としての宿命が激しくぶつかり合う。


(私には、彼女を守る資格があるのだろうか……)


 アシュレイの心に、かつてのエリザベスとの悲劇が蘇る。しかし同時に、リリアーナとの新たな絆も彼の心を強く揺さぶる。月が再び姿を現し、その光が三人の行く手を照らす。


 それは、未来への希望の光なのか、それとも新たな悲劇の幕開けを告げるものなのか。アシュレイとリリアーナの心が、月明かりの下で静かに交差する。二人の運命は、今まさに大きく動き出そうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ