にわとりが先か、たまごが先か
学校の授業に全く関係のない話が出てくるのはよくあることで。
授業中の居眠りを防止したいのか、はたまた生徒の自主的な学ぶ姿勢に期待しているのかは生徒の知るところではないが、その日もまた無関係な話題が一つ提供された。
『鶏が先か、卵が先か』
一度は耳にしたことがある言葉が、教壇に立つ教師の口から転がり出て、さも何でもないかのように授業に戻る。
そうして授業が終わると、先ほどの教師から齎された話題にちらほらと生徒たちは答えを口にし、からかいからかわれては別の話題へと変わっていく。
一人の生徒は後ろの席の生徒に話を振った。
「なぁ。卵だよな」
「何が?」
「さっきの授業」
「あぁ…。鶏か卵かって?」
「そお」
ポンポンと弾む会話が少しだけ止まって、後ろの生徒は考えるような素振りの後、どうでもよさそうに言った。
「まあ、卵で良いんじゃない?」
うん?と生徒は首を傾げた。卵で良い、とはどういうことなのかと少し引っかかったのである。
「えっなんか違うの?」
「いや、違っては無いと思うよ?」
会話のために中断されていた教科書の入れ替えが放置され、少しだけ話題に熱が点る。
「そもそもどっちが先かって、鶏の定義によるじゃん」
「鶏の定義」
「どこまでが鶏っていえるん?って。進化の過程で「あ、これは鶏だ」って思えたのはどの姿の時?っていう」
「ふーん…?」
「そうだなぁ……」
後ろの生徒が視線を上に泳がせ、自分の考えを口にする。
「じゃあ鶏の先祖が卵を産むでしょ」
「あぁ、うん」
「卵から孵った時は鶏じゃなくて先祖の雛の姿でさ、」
「うん」
「でも成体、大人になったら見た目は鶏そっくりなんだよ」
「なにその突然変異」
「突然変異だよ。で、その鶏そっくりの成体が卵を産むわけ。生まれたのはヒヨコ。成長したら鶏。親も子どもも見分けがつかないくらいどっちも鶏の見た目してるね」
「えぇ…?」
「はい、どっちが先?」
「あ、あー…。あーえぇー? わからんわからん」
「うん。だからここからは人によって分かれるんじゃないかなって」
中身まで完璧に鶏が良いなら卵が先で良いし、成体の見た目だけでも鶏って判断するなら鶏が先って言っても良いと思うんだよねぇ。
後ろの生徒はそう言って、放置されていた教科書を机の下に入れて別の教科書を取り出す。
予鈴に急かされて慌ただしくなる教室に、自身も遅れまいと教科書を入れ替える。
次の授業が迫っている。
先ほどの会話は、二人の頭からはとうに消えていた。