新たな技
エボットが窓から飛び出すのと同時に、少し離れた場所からガラスが割れる音がした。イリエルも飛び出したようだ。
だがサグは音を認識するだけで一切気にせず、全力の集中で、舞い落ちるガラスの隙間に見えるコートの男を狙った。
使う魔力は最低限、痺れさせることさえできれば成功だ。
両手を合致させ、指先に集める魔力を全力で調整する。すると絞り込まれた魔力が細く、そして鋭くなる。
「プラズマスティング」
現状の最速出すためのフォームに纏められた魔力は、まるで槍のような鋭さで発射された。
空気を切り裂くような魔力が、コートの男の脇腹あたりに命中した。弾丸のように貫いたのではなく、ただ脇腹あたりに刺さったのだ。
一瞬の隙もおかず、魔力は当たった位置を起点に全身に流れた。スタンガンなど可愛い領域では無い、確実に意識を失うほどの圧倒的な電力が、コートの男の全身を駆け巡った。
「ぐわばあああああ!!!」
何事か理解する暇も無く、コートの男は大量の電流を味わった。
そのまま意識を失い、引き金に指を掛けたまま前のめりに倒れ込んだ。
相手に訪れる動揺、その隙を逃すほど、仲間達は甘くなかった。
ディオブとイリエルが、それぞれ上裸の男とジャケットを着た男の後頭部を殴り仕留める。
「すご……」
サグの口から思わず言葉が漏れた。それほど一瞬で、鮮やかな光景だったのだ。
一瞬で仲間を三人も失神させられたパーカーの男は、焦りながら日本刀を抜いた。チンピラには不似合いなほど綺麗な刀だ。
「舐めんじゃねえ!」
パーカーの男は日本刀を握り、唯一まだ何もしていないエボットを狙う。太陽に照らされ、刃がキラリと光った。
だがエボットは怯まない。どころか不敵な笑みを浮かべ、腕に魔力を集中させた。
両腕を広げ腰を落とす。完全に受け止める気だ。
自分よりも圧倒的に若く、武器も持たないエボットにそんなことをされてはムカつかないわけがない。
「ふざけんじゃねえぇぇ!!」
パーカーの男は怒り狂い、日本刀を握りしめ走り出した。ディオブとイリエルはそれを見ていたが動かない。
男は剣を思いっきり振り上げた。それに対しエボットは右腕を額の上あたりに出した。
切ってくれと言わんばかりのポーズに、男は怒りのまま剣を振り下ろす。
「死ねぇ!」
硬い物同士がぶつかった、ガギンという音が響く。
振り下ろされた剣は貫通する事なく、エボットの腕に受け止められていた。
もちろんただ受け止めた訳ではない。エボットの腕を厚く氷が覆っていたのだ。
「なっ!?」
「氷の腕鎧さ、不格好だがな」
語りながらもう片方の拳を引く。
弓の様に狙いすまされたそれは、体制が低いおかげで鳩尾を狙えていた。
「らあ!!」
エボットの全力の拳が、パーカーの男の鳩尾を貫いてしまいそうな速さで炸裂した。
パーカーの男は少量の血を吐いて民家の壁に叩きつけられた。
エボットの全力を知っているサグは、男の様子を見てゾッとしていた。そして誰にも気づかれず、エボットと喧嘩する時は回避に集中すると決めた。
一行は森の中を戻っていた。あのまま集落に居るのは危険と、ディオブとイリエルが判断したのだ。
アルトを含んだ七人以外に、気絶させた四人も居た。未だ全員気絶したまま、村にあったロープで縛っている。
上裸の男だけはイリエルが浮かせていたが、残りは全員襟首を掴んで引っ張られていた。
隠れていたテリン達と合流した時、三人はやけに興奮気味だった。森から一部始終を見ていて、あまりに一瞬で全てを終わらせた四人に驚きながらも賞賛の言葉を送ってきたのだ。
自分の実力をよく理解しているディオブとイリエルはともかく、まさかここまで褒められるとは思ってなかったサグとエボットは年少組のキラキラした目に照れたしまった。終わらない照れは、テリンの二人の成長に悔しがる言葉に助けられた。
「二人とも、新しい魔法使ってた?」
「うん」
「おう」
テリンの問いに、二人はニッと笑って答える。
自信満々の二人に、テリンは余計に悔しくなったが、エストリテの朝に特訓を目撃した日ほどではない。
自分自身もちゃんと成長している、テリンはそれをよく自覚していた、だから大丈夫だった。
森を抜け、船にたどり着いた。
ディオブとイリエルが気絶している男たちを雑に甲板に放り投げた。ドンッと大きな音を立てて落下したが、全員起きる様子はない。
「とりあえず甲板で尋問するか」
ディオブが気だるげにそう言った。




