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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
謎の集団 リリオウド編
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観察

 現れた連中は、そのあたりに転がっている瓦礫を蹴ったり、植物を腕でどかしてその位置を確認する。明らかに何かを探す行動だ。

 テリンから受け取った単願鏡で、ガラス越しに集団の様子を調べる。

 神軍と違い統一性の無い格好に武器、パーカーの男は日本刀を持ち、ジャケットの男は腰に棘付きのグローブをぶら下げていた。

 声は聞こえないが、男たちは笑って話をしながら周囲を調べている。


「何探してんのかな……」

「さあなぁ、落とし物……って感じじゃねえよな」


 サグと違いエボットは肉眼だったが、代わりに全体を見渡せる。全体を見ているエボットからしても落とし物には見えないらしい。

 パーカーの男が何かを言ったらしい。それに反応し、笑いが周囲に伝播したようだ。やはり声は聞こえていなかったが、全員が大口を開けて、膝や手を叩いて笑っている。

 もう少し接近できたら、そんなもどかしさがサグの胸の中に小さく生まれた。

 危険は十分以上に分かっているが、会話が聞こえるメリットも危険以上に大きいことも分かっていた。


『どうだ、様子は見えてるか?』


 通信機からディオブの声がした。

 サグたちの覗く窓から、ディオブ達の潜んでいる家は見えなかったが、ちゃんと連中を観察できているらしい。


「聞こえるよ、そっちは?」

『こっちも大丈夫だ、だがやっぱり声が聞こえないのはキツイな』

「だね、あいつら爆笑してるけどなんでかわかんないし」


 会話が聞きたいのはディオブも同意見のようで、声にもどかしさが滲んでいた。

 集団は移動を開始した。またどこか別の場所を探すつもりらしい。

 室内の二人も反対側の窓に移った。

 場所が変わっても、集団は同じように瓦礫をどかし、雑に物影を覗き込み何かを探している。


「連中……探すにしてもてきとうすぎないか?」

「やっぱ……そう思う?」


 思わずサグは苦笑いをしてしまった。

 集団は態度、格好、人相からして、一言で説明する適切な言葉はチンピラだった。だがイリエルの空賊団という話を聞く限りの印象は、一言で現すなら極悪人たちだった。

 あまりにかけ離れたイメージと現実に、二人は緊張感に似合わない苦笑いを、消すことができなかった。


『ある意味イメージ通りよ?』


 通信機から今度はイリエルの声がした。


「というと?」

『空賊団を平たく言うと、”数で調子に乗った元小悪党の集団”、ノアガリの幹部クラスは元々の極悪人もいるけど、大部分は例に漏れないわ』

「なるほど納得」


 イリエルの説明で大体のことは予想がついた。

 組織が大きくなれば、末端の人間と幹部の人間のクオリティの差は大きくなる。いかに名の通った犯罪組織でも、そこは変わらないということだろう。


『イリエル、敵戦力はどれくらいだ?』

『強いようには感じないわね……ただ魔力を主軸にせず、武器格闘メインの可能性もあるわ』

『わかった』

「? 二人とも何するつもり?」


 二人の会話についていけず、サグとエボットは思わず相手の顔を見てしまった。


『まず俺が飛び出し注意を引く、出た瞬間にサグは魔法狙撃、エボットとイリエルは奇襲であの集団を制圧する』


 ディオブの提案した行動は非常に大胆なものだったが、サグとエボットには”できなくもない”と感じさせる作戦だった。

 目の前で荒れた街をさらに荒らす集団が、あの神軍のレイゴスやヘリオよりも強いとは思えない。あの二人との死闘に比べればなんでも無いと感じる相手、それほどに二人は成長していたのだ。


『四人全員捕まえて、船に連れてって尋問する、殺さない、これが次のミッションだ』

「ディオブ、俺の魔法じゃ殺しちゃうかも」


 サグは誰が聞いてもわかるほど、自信が無さそうに言った。

 サグの今唯一完成している魔法、プラズマライフルは高威力で貫通に特化した魔法。故に相手を傷つけるのではなく、”仕留める”結果になってしまう。今回のミッションには不適切だ。


『大丈夫だ、今のお前なら威力の調整くらいできる、ぶっつけだが自信をもってやれ』


 ディオブは笑い混じりに言った。

 あまりにいつも通りすぎる口調が、それがディオブの本音であると言わずとも教えてくれた。

 魔法を教えてくれたディオブからの、自信を持てという言葉。何か熱い物が湧き上がってきた。


『俺が通信機を持って出る、相手の攻撃、俺の合図、どちらかで作戦開始だ』


 その言葉の後すぐに移動に伴ってガタガタという音が聞こえてきた。

 二人は窓に密着するほどに顔を寄せた。

 すぐにディオブが集団の前に顔を出した。


『あ? なんだテメェ』


 通信機の向こうから聞きなれない声がした。様子からしてパーカー男の声だ。

 緊張に汗が頬を伝った。


『お前らこそ、そんなよくわからん格好ばかりで、この集落になんのようだ?』


 ディオブの態度は軽い、煽りさえ含んだような口調だ。


『うるせぇ! いいからこっちの質問に答えやがれ!』


 さっきと同じ知らない声が聞こえた。

 イリエルの言う通りだった。あの集団は末端のチンピラに過ぎないようだった。

 ディオブは一歩前に出た。態度と言葉から、相手の実力を見抜いたらしい。


『……悪いが、知ってること全部吐いてもらうぞ?』


 ディオブの声に苛立ちが混じり始めた。

 作戦の時が近いと察したサグは、魔力を両手に集中させ始めた。

 コートを着た男が腰の銃を抜いた。


『今!』


 ディオブの声とほぼ同時に、事態が動き始めた。

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