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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
謎の集団 リリオウド編
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調査

 森の中は木漏れ日が綺麗に入り込み、写真の中に閉じ込めれば誰もが見惚れる光景が広がっていた。いつものサグやイリエルならば、根っこを枕に転がったり、辺りの生物研究に没頭したりしていただろう。だが今はそうもいかない。

 全員がそれぞれのやり方、向きで警戒を強めていた。

 正直なところ状況としては非常に悪い。森に居るせいで視界があまり開けていないし、逃げるにしてもアクロバティックに逃げることになる。

 サグ、テリン、エボットはだいぶ前に、暗い中でそれを経験しているが、あれは火事場の馬鹿力と呼ぶべきものもあった。あまりいきなりやりたくは無い。

 サグがナイフで枝を切った。ただ切り落としたいわけじゃ無い、がさがさ音を立てたり、かわして動きにくいよりは良いと判断したのだ。


「ミラ、どれくらいで着くかな」

「このリリオウドってそこまで広く無いよ……僕が全力で走って一周三時間くらい」

「へぇ……それならすぐ中心につきそうだな」


 エボットが真剣な表情に似合わず、口調だけは茶化すように言った。エボットもなかなか緊張しているらしい。

 木に遮られて見にくいが、三十メートルほど先に家らしきものが見えた。

 サグは手で「何か見える!」と伝える。ハンドサインなど一切決めてないし習っても無いが、そこはテンション任せだ。

 「何かある」とだけ察知したディオブが、テリンから単願鏡を貰って前に出る。素早く比較的高い木に登り、葉っぱに隠れながら単願鏡の先端を出した。

 見える限り普通の民家ばかりの集落だった。ただ異様だったのは、人の気配を感じないことと、民家の一部が破壊されていることだった。

 屋根や壁に穴が空き、塀の一部は崩れて転がっている。一部地面には明らかにおかしな赤色がこびりついていた。民家の側にある畑は踏み荒らされ、植えられていた野菜や整えられていたであろう土は踏み荒らされている。

 

「ディオブ、どうだった?」


 サグはできるだけ声を絞ってディオブを呼ぶ。

 だがディオブにはそんな声全く耳に入らなかった、汗が一滴耳の側を伝う。

 ディオブは異常なほどの腕力と握力を上手に使い、木をまるで滑るように降りた。

 降りてきたディオブの顔を見た瞬間、全員が気を引き締める。なぜならばディオブの表情は焦りに満ち、明らかな異常事態を訴えていた。


「何があったのよ」

「多分ノアガリってのの襲撃だ、いくつかの民家が襲われてる」


 事態の説明は最低限以下、だが必要な情報は揃っている。

 全員に電流のような緊張感が走った。それぞれ武器に手が伸びた。


「ミラ、あの集落はお前が住んでたとこか?」

「ううん、リリオウドは自然の空いている場所に集落を転々と作ったの、私が居た一番大きな集落はもっと遠いし」

「わかった、とりあえず調査だ、俺と……サグ、テリン一緒に来い、イリエルとエボット、ミラは隠れつつ待機で、俺たちの周囲を警戒するんだ」


 反論する理由もない。全員がうなづいた。


「ディオブ、私の通信機持っといて」

「ああ」


 ディオブがイリエルから通信機を受け取った。

 イリエルの持っている通信機は一セットだけ、つまり受け取ったディオブか持っているイリエルが無くせば、その時点で別れたメンバーの通信は不可能になる。気をつけなくてはならない。


「連携を忘れるなよ」


 ディオブを先頭に、サグとテリンが続く。

 軽く説明された作戦は、”仮に襲撃された場合、頑丈なディオブがまず受ける。そして攻撃してきた相手をサグとテリンが迎撃する”というものだ。

 理には叶っているものの、三人それぞれ、特にディオブにかかる負担が大きすぎる。

 サグとテリンは、肩に何かずっしりとのしかかる感覚がした。

 ゆっくりとディオブが森から出た、数歩分開けてサグとテリンも森から出る。

 そこでサグとテリンは、初めて集落の様子を目にした。視界から入る情報を理解する度顔が歪むのが分かった。理解したくもない事実だ。

 テリンがスンスンと鼻を鳴らした。


「何か……臭くない?」


 言われてサグも匂いを嗅いだ。確かに焦げ臭いような、あまり嗅ぎ慣れない不快な匂いがしていた。


「これは火薬の匂いのようだな、見ろ、いくつか弾痕がある」


 ディオブの指先に従い地面を見る。あったのは小さな穴、指先がギリギリ入りそうな程度の大きさに、暗くて奥が見えない程度の深さを持っていた。

 テリンが小さくうなづいた。銃を使うテリンから言わせても、あの穴は弾痕だったらしい。


「一旦。俺とお前らで別れて調査だ、敵戦力が未知数な以上無理に突っ走るなよ?」


 指示を受け、サグはテリンと共に調査を開始した。

 最初に気になったのは民家の中だ。外からは人の気配はしなかったが、もしかしたら中に一人二人いるかもしれない。そんな雑な希望に従い、サグはドアノブに手をかけた。


「行くよ?」

「うん」


 テリンが扉の開く側に立ち、中をすぐ狙撃できるように構える。

 サグがゆっくりドアノブを回し、一気にドアを開いた。サグはその瞬間魔力を集中し、テリンの射線を邪魔しないように前に出た。

 見る限り室内には誰もいない。家具や食器が散乱し、昼時に襲撃されたのか、食べ物があたりに散乱して汁物の乾き跡が至る所に残っていた。

 だが赤色はどこにも無い。不気味なほど、その場にあったものだけが荒れている。


「これ……明らかに揉み合った跡よね……」


 テリンは床に落ちている割れた皿を拾った。側のテーブルが倒れている事から、明らかに高所から落ちて割れている。


「確かに……けど血はどこにもない……」


 ただ家の中を調べる間も警戒と魔力コントロールを忘れない。

 ただならぬ緊張感の中で、滞り無く魔力を操れているというのは、ある意味最もわかりやすい成長の証なのだが、今の二人にそれを理解する余裕は無い。

 ガタリと小さく音がした。小さい音だったが、明らかに人間の起こした音だ。

 二人は驚きに体を震わせてしまったが、顔を見合わせすぐに冷静を取り戻す。

 サグが先頭に立ち、音の発信源、床にある蓋のような場所に手をかけた。もちろんテリンは銃口を向け続ける。


「準備OK」

「了解」


 サグが、指先に力を込めた。

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