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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
謎の集団 リリオウド編
92/304

島を前に問題ありき

 遠くの方に島が見えた、障害物の無い空では、目標物や地点の発見は面白いほど簡単だ。

 三人は慌てて洗面所に駆け込み口を濯ぐ。見えたということはすぐ辿り着いてしまうということ、準備をしなくてはならない。

 口を濯いでからはすぐに着替え格好を整える。食事を作る暇は無い、買っておいたパンを適当に口に放り込んだ。

 部屋に入り、リュックの中に必要な物、タオルや応急処置のための道具、あれば困らず、邪魔にもなりにくい物を詰め込んだ。


「イリエル! ミラ! 準備して!」


 サグは女子部屋の扉を乱暴に開けて、まだ眠っている二人にパンを咥えながら叫んだ。

 二人はベッドからのっそり起き上がり、眠い目をこすりながら重くのしかかり睡眠へと誘ってくる布団をどかす。


「何? もう着いたの?」

「違う! けど島が見えた!」

「わかった……わかったわ……」


 それだけ言って、イリエルは無気力に枕に倒れ込んだ。また寝る体制だ。呆れにサグは頭を引っ掻いてしまう。

 対照的にミラは頭がはっきりしているようで、サグと目を合わせて微笑むとベッドを飛び降り、


「ほら、イリエルお姉ちゃん、起きて」


 ミラが駆け寄り、布団ごとイリエルの体を揺らした。

 イリエルは呻き声を上げながら寝返りを打った、そしてミラと目が合う。


「!!」


 目が合った瞬間、イリエルは目を見開いて勢いよく起き上がった。見間違いか気のせいか、サグの目には、イリエルの顔に汗が浮かんでいるように見えた。

 ぼんやりしていたはずの頭はすっかり覚醒したようで、ぱっちり開いた目でキョロキョロ周りを見渡していた。

 情報を収集し終えると、イリエルはゆっくりベッドから降りた。


「寝坊したみたいね」

「それほどじゃ無いよ」


 普通の態度で返したが、サグは違和感と疑問を感じずには居られなかった。ミラを見た時の態度が、嫌に頭の中に残っていたのだ。


「着替えるから、ちょっと出てて」

「あっ! ごめん!」


 流石にそう言われては扉を閉める他無い。

 そしてサグは気づけなかった。イリエルが、偶然以外でミラを、見ようともしていなかったことに。




 追い出されたサグはすぐに甲板に出た。着替え終わっていてすることもなかった。

 甲板ではテリンとディオブがすでに準備を終えていた。


「エボットは?」


 単願鏡で遠い島を見つめているテリンに話しかける。


「操縦室行ったよ? 島との高低差に合わせる〜って」


 単願鏡から目を外さずテリンが答える。

 サグも島の様子が気になっていたので早く代わって欲しかったが、テリンの様子を見る限りしばらくは絶対に離すことはないだろう。

 とりあえずナイフとリュックの中身を確認しておく。逆にその程度しか時間を潰す手段が無かった。


「サグ、見て」


 テリンはサグに単願鏡を渡す、明らかに何かを見て欲しそうな表情をしていた。

 受け取ったそれを、慣れた手つきで覗き込んだ。

 ズームアップされた先に見えるのは自然豊かな島、エストリテほどではないが、青々とした自然に覆われた美しい島だった。人間が住んでいるらしい場所はある程度切り開かれて、わかりやすく植物が減って見える。

 サグからすれば故郷を思い出す理想的な島だ。


「サグ、今木の根っこで寝たいって思ったでしょ」


 テリンがニヤリと笑っていたずらっ子のような口調で言った。

 まるで、というかそのまま心を見透かされた言葉に、サグの心臓はドキリと鳴った。


「今のは俺でもわかった、めちゃくちゃ楽しそうだったからな」


 ディオブが腕を組みながら、うんうんと頷く動作をして言った。

 顔が赤くなってきたのよく分かった、エストリテで同じことがあったが、今度はディオブにまで見透かされていた。

 風を異様に冷たく感じた時、扉がギィ〜と軋む音を立てて開いた。そこにいたのはイリエルとミラの二人だった。


「二人とも、準備はいいの?」


 普通の態度、という仮面を被って話しかける。上手くできた方、サグは自分でそう思っていたが、案外顔は正直だったらしい。


「サグ? 何でそんなに顔赤いのよ」


 イリエルが首を傾げながら言った。

 その瞬間、サグはもっと顔が赤くなったのが分かった。さすがに指摘されるのは恥ずかしかった。


「何でもないよ」


 視界の端っこでクスクス笑う二人を無視し、小さく笑って誤魔化す。

 不思議そうな顔をする二人だったが、目の前に見えるどんどん大きくなってくる島に興味が移ったらしい。

 イリエルは自分のリュックから双眼鏡を取り出して覗き始める。


「う〜ん、見る限り船は無いわね」

「ああ、裏側なのかもしれないが」


 現状の情報の少なさに年長二人は警戒心を高めているらしい。当然だが。

 ミラの様子は見るからに緊張しているようだ。

 変わり果てたであろう故郷を前に、幼い少女は何を思うのか。サグには想像もつかなかったが、不安で揺れる瞳を、サグは見逃さなかった。

 それは、また違う意味でも、イリエルは見逃していなかった。


(みんな……気づいていない……ミラには話していない部分がある……)

(ミラ……仮にあなたがただ逃げただけなのなら……なぜボリジウスに食べられていたの? そして、なぜボリジウスは死んでいたの?)

(そこがある限り、私はあなたを疑うわ……)


 イリエルは誰にも気づかれず、疑いの視線を向け続けていた。

 そして島が、目の前に迫っていた。

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