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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
謎の集団 リリオウド編
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ディオブの質問

 船は青空であればあるほど、まっすぐに空を進み続ける。

 だから、離れた場所にあったはずのリリオウドにたどり着くのも早かった。

 空はもちろん景色では変わり映えしない、だからイリエルの知識を総動員した。生息する動物たちで場所を絞り込んだのだ。

 作戦は上手くハマり、大雑把ではあったものの自分たちがいる場所を把握できた。

 位置の把握、この安心感は大きい。

 この大空で目印になる物と言ったらやはり島しかない。だが変わり映えのしない空の中では、今自分がどこにいるのか見失いがちになってしまう。だからこそイリエルの持つ知識は重宝したのだ。


「えっと……生息地域と気候からして……明日の朝にはリリオウドが見えるわ」


 とイリエルが告げたのが昨日。

 つまり明日の朝とは、今この瞬間だった。

 ぼんやりする頭の端っこでサグは昨日の言葉を思い出していた。

 まだ空気が冷えている時間帯に甲板に出て歯磨きをする。船に乗っている時のサグのルーティーンとも呼ぶべきものだった。

 だが今日に限ってはルーティーンとしている時間よりも不思議と早く起きてしまった。

 それはサグだけでは無い、隣では早く起きたテリンとエボットが歯を磨いている。

 理由はわかっている。緊張だ。

 リリオウドには恐らく、オリアークの残した”果て”へのヒントが、もしくはそれに関連するものがあるはず。そしてそれを狙うまた別の敵も。緊張するなという方が無茶だ。

 朝の冷気は始まりと同時に消えていく物だが、浴びすぎると不安が押し上げられるようだ。ただの寒気だと分かっていても、恐怖と同じ寒気と勘違いしてしまう。

 何度か戦ってきた程度じゃ到底なれない恐怖に、似ている寒気と勘違いしてしまうのだ。


「おっ、珍しいなこんな時間に」


 後ろから声がした。聞き慣れた声だ。

 振り返ると、そこには大量に濡れた服の入った洗濯カゴを三つも抱えたディオブが居た。器用にカゴを腕で抱えながら足でドアを開けたのだ。


「大丈夫?」


 テリンが口から歯ブラシを外しながら言った。流石に驚くほどの量に口元がひくついている。


「大丈夫大丈夫、この程度なら余裕だ」


 そんなことを言いながら、ディオブは足でもカゴを支えながら器用に扉を閉めた。まるで曲芸かと思うほどディオブの動きは器用だった。

 そしてカゴを物干し竿の前にドサッと音を立てておいた。やはり見た目通りなかなかの重さをしているようだった。


「緊張か?」


 サグの心臓が強く体に響いた。多分テリンとエボットもそうだ。

 ディオブは経験のおかげか、時々心を読んでいるかのように発言する時がある。そしてその度、リアクションを見てニヤニヤするものだから少しだけ腹が立ってしまう。


「まっ、わかるぜ、今回も危険がい〜っぱいって感じだからな」


 ディオブはニヤリと笑いながら服を何度か振った、そしてハンガーにかけ始める。


「今日は島に上陸する日だからな、先にこれやっとかねえと」

「……ディオブは緊張しないの?」


 テリンが不安そうに言った。

 サグも不安には同意する。オリアーク、または”果て”への情報が欲しくてリリオウドへの上陸を決めたが、ミラの話を聞く限り、危険な相手が待ち受けていることは間違いなかった。

 イリエルの猛反対した時の顔が脳裏に浮かぶ。改めてイリエルは正しかったのだと、誰が言うわけでもなく理解していた。


「……お前ら、ミラは好きか?」


 ハンガーをかける手を止めて、ディオブは唐突にそんなことを言ってきた。

 今まさに船室に戻り口を濯ごうとしていた三人は、服のタグのあたりを思いっきり掴まれて引っ張られたように止まってしまう。そして小っ恥ずかしくて、なんと答えていいのかも分かりにくい質問に混乱しながらも、とりあえずディオブに向き直った。


「好き……だけど? いい子だし」


 サグが代表して、照れに言葉が詰まりながらも答えた。テリンとエボットも頭を振って肯定する。

 ディオブは笑った。今度はさっきと違い、優しげに緩く口角の上がった笑顔だった。だがその笑顔も、すぐに消えてしまう。


「じゃあ、イリエルはどうだ?」


 ディオブの表情が嫌に真剣で、三人に真面目な回答以外は許さないと告げてくる。

 三人は一度顔を見合わせて、アイコンタクトで言うまでもない答えを擦り合わせた。


「「「好きだよ」」」


 さっきとは違い自信に溢れているのは、これが二回目の質問だからだ。慣れてしまえば簡単だ。

 ディオブはまた満足そうに、柔らかく口角を上げて笑った。


「そうか」


 ただそれだけの優しい雰囲気を持った一言に、どれだけの意味があるのか、三人には全くわからなかった。少なくとも今は。

 また誰も、甲板の陰にいる少女に、気づいていなかったのだが。

 空を見つめていたエボットが少しだけ表情を変えた。


「ひまま」

「は?」


 歯ブラシのせいで言葉と言えない言葉だった。

 エボットは歯ブラシを口から外し、その歯ブラシで向こう側を指した。


「島だ!」


 遠くを見ると、そこには小さな点、離れた島が見えていた。

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