夜闇の戦い
「いやあ良かった良かった、俺の勘と推理は外れてなかったようだ」
「なんのことでしょうか……神軍様……」
「いやいや少年、隠すなよ、目が言ってる、お前を知ってるってな」
嘘で誤魔化そうとしても無駄らしい、目には自信と確信が満ちていた。
「君たちがいない間に船内を探索させてもらったよ、いや、すごいな」
レイゴスが三人に背を向けて、船室の外壁に触れた。そして、何度か木材をさすり、確かめるように指を擦り合わせる。
「この船……型といい素材といい相当古いものだ……だというのにいざという時、すぐに旅ができるように一定の状態に保ち、物品も常に管理されていたようだ……あの島の人間は歪な形ながら、オリアークのなにかを継承していたらしい」
「まあこれはくだらない雑談なんだがね……」
手をプランと、力無く床に向けた。剣を握る手に少しだけ力を込める。その瞬間、ゾッとするほどの殺気が、三人の肌を突いた。一度味わったことのある感覚だった。
「オリアークの資料は……誰が持っている?」
レイゴスの目が鋭く尖った。三人は一切の言葉なく駆け出した、素早く船の縁を登って島の森へと戻る。
「なんだ、結構身体能力高いじゃないか」
より一層、楽しそうな表情をしながら、レイゴスも森へと入る。
「くそっ!なんだってんだあいつっ!暗いのに見えてるみたいに追ってくる!」
「文句言うなら走って!」
「ダメだ!服と闇が混ざってどこにいるのか分からない!」
三人はひたすら森を走っていた。真っ直ぐ行って次は曲がって、複雑な地形を生かして複雑に、複雑に逃げてみせる。しかし複雑で薄暗い森の中、相手もどうやっているのかはわからないが、さっきからこちらを見つけては、後ろや前から切りかかってくる。それも、相手の服が黒いせいで余計に見えにくく、目の前にいきなり現れた銀色が振りかぶってくる感覚になっている。
「! テリン!前!」
「えっ」
またテリンの前に、いきなり刃が現れた。それを中心にして、薄暗い中にいる黒に、一瞬にして輪郭がついていく。レイゴスが大きくテリンの首を狙って振りかぶっている姿が、はっきりと見えた。
「テリン!」
エボットがテリンの服を全力で掴んで、思いっきり後ろ側に引っ張った。グン!と体が後ろに持っていかれ、くの字に曲がる。結果犠牲になったのは、テリンの前髪数本数ミリ程度だった。
「クアッ!」
サグが途中で拾った大きめの石を投げつける、バランスの崩れた汚い投球フォームだったが、それなりに力が入っていた。それをレイゴスはまた、なんでもないことのように腕の鎧で受ける。
石で生まれた一瞬の隙を逃さず、体制をレイゴスと反対向きに変える。
「こっち!」
また、三人は複雑に曲がって巻こうとする。そんな三人の様子にレイゴスは大きなため息を吐いた。
「学ばねぇなぁ」
だんだん苛立って口調が荒くなっていく、目からはさっきまでの喜びの感情は消え、負の感情によって、鋭さが増しつつあった。苛立ちのまま、剣を横なぎに振るう。すると、一本の木が大きな音を立てて倒れてしまった。
「めんどくせぇ、出てこいよガキども……」
剣を担いでゆっくりと闇を進んだ。
木が倒れた音は離れた場所にいた三人の耳にもよく聞こえていた。うまく逃げれてはいたが、三人の体力はかなり消耗されてしまっている。これ以上続こうものなら、さっきのようにうまく逃げることはできない。いずれ対応に失敗するか体力が切れるかして、首をあの髪の毛のようにすっぱりと落とされる。
だが、なぜかサグは今、恐ろしいほどに冷静だった。頭が生きるために、何をすればいいのか、必死に思考を巡らしているのだ。
「どうするよ?……ハァ……このままだとっ……確実に……」
「わかってる……けど……ゲホッ」
二人が焦っている、そのおかげで自分の脳は逆に冷えたのかもしれない。
サグは命の危機の中、呑気にそう思った。そして思いついた、ゼロかもしれない可能性の中、あいつを倒す、おそらく最良の策。
「……二人とも……」
サグの方を向いた、しかし視線はすぐにサグから別のものに移った。サグがリュックから取り出したオリアークのノートたちだ。
「作戦がある」