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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
果てへの導き編
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船の新装備センサー

 目的地が決まった船は早い。リリオウドを目指して青い空をぐんぐん進む。といってもそんなに気持ちの良いものでも無い。

 今飛んでいる地帯は小さな岩が多く浮いているので、エボットが自分で操縦している。回避と方角を考え続けなくてはならないので、本人からすればまあまあのストレスだろう。

 流石に両方をこなすのはしんどいので、操縦室でサグが設置してある方位磁石と地図を確認しエボットをサポートしている。

 隣ではセンサーとやらをテリンが実験中だった。ミラの不安そうな視線を横に受け、必死にマニュアルと睨めっこしている。


「えっと……このパネルに魔力を送り込む……弾丸に送り込むのと同じ要領でいいのかな」


 テリンが手に魔力を集中させ炎を纏う。しかし熱くも何とも無い、ただ魔力の適性が現れているだけの状態だ。

 そのまま新しく操縦室に設置されたパネルに触れる。


「うわっ!」


 触れた瞬間にテリンが驚きに満ちた声をあげた。

 急だったのでサグも肩を跳ねさせてしまう。


「どした?」


 平静を保っていたエボットが問いかける。


「魔力を吸われた」

「えっ? ほんと?」


 言われてサグも魔力を集中させた、そして同じようにパネルに触れる。するとテリンの言っていたことがわかった。自分の中にある何か大切なもの、それがいきなり引き出された今までに無い感覚。確かにこれは驚くだろう。

 驚きと違和感に手を摩っていると、パネルが何度か点滅した。知らない光景に、サグとテリンはパネルを覗き込んだ。

 そしてパネルが光り出した、目に痛く無い光だ。

 だがパネルが光っていることはわかっても真っ黒だった。ただ黒いパネルが光っているだけで、何の情報も無い。


「……ど〜なってんのこれ」

「いやぁ……」


 テリンとサグが微妙な顔をしてパネルの上で向かい合う。何かある思っていたが、まさかパネルが黒く光るだけでは無いだろう。

 流石にもっと何かあるだろうと、テリンは片手に持っていたマニュアルのページをペラペラ捲った。


「あった!」

「何て書いてある?」

「えっと……”センサーは一定魔力を送り込むことで起動される、センサーを停止させるにはもう一度一定魔力を送り込むこと”」


 最初の情報から整理するに、テリンの送り込んだ魔力はその”一定魔力”とやらに満たっていなかったらしい。だからサグの魔力も吸収して初めて起動したのだ。だが。


「それ関係ないじゃん」

「だね、え〜……”センサーは起動中、魔力を送り込んだ相手、多くの場合は船に対して敵意を向ける相手に反応し、パネルに光の点を表示する、光の点が大きいほど高低差は無く、光が強ければ強いほどその点の対象も強い”わっすごい、点の大きさの例まで載ってる!」

「便利なもんだなぁ〜それ」


 エボットが驚きに操縦しながらも声を上げた。

 説明を簡単にまとめると、これがあればこちらに敵意を向けている相手の近さ、強さが簡単にわかると言うことだ。

 追われる側である自分たちからすれば便利以外に言葉は無い。


「”センサーの探知範囲の倍率は、魔力を集中させた状態で触れることで調節可能”」

「親方、ずいぶん良いものくれたね」


 今の真っ黒い画面では実験のしようもないが、その機能も便利であることは察しがついた。

 だが好奇心旺盛なサグには、やはり気になってしまう部分がある。


「これってどういうメカニズム? 魔力云々なのはわかるけど……」

「ちょっと待って……目次目次…………あった! ”このセンサーについて究極のところ正体は不明である” えっ!?」

「「はあ!?」」


 流石に全員驚きを隠せない。便利なものだと感心していたのだが、最悪命を左右するかもしれないものの正体は不明だと言っている。

 これで不安にならない方がどうかしている。

 流石にサグも頭を抱えてしまった。


「ちょっと待って続き、”不明というのは、センサーに使用されている石の正体である、このセンサーは特殊な鉱石に魔力を送り込み、その鉱石から発信される信号をパネルに映し出しているだけに過ぎない、敵意の感知も位置の特定も、全ては鉱石の特性に由来する”」


 ここでテリンの読み上げる声が止まった。

 顔を見ると、少しだけ顔をひくつかせている。


「どうしたのテリン」

「いや……親方から「神軍の野郎どもも使ってる、悩むくらいなら気にせず、使えるもんは使っとけ」って、ここだけ直筆で」

「ぷはっ!」


 聞いた瞬間にサグは吹き出してしまった。

 出会ってから別れるまでの期間はとても短いものだったが、文章の言葉がそのまんま親方の声で再生されたのだ。言葉選びも親方がいいそうなものだから、余計リアリティを持った音で。

 親方の言っていることは間違ってもなかったので、とりあえず従ってみることにした。これも親方への信頼ありきだ。


「そういやぁ、ディオブとイリエルは?」

「今日の選択当番だから……甲板で服を干してるんじゃない?」

「そっか、ごめんミラ、二人の様子を見てきてくれない?」

「はーい」


 ミラを拾ってから二日、優しくサポートし続けたおかげか、本人が積極的に馴染もうとしてくれたおかげか、意外にも早くミラはリエロス号の乗組員になってくれた。

 今だってパタパタ走って二人の様子を見に行く光景が馴染んで見える。

 そんな光景が、特にテリンは、妹ができたようで嬉しかった。




「ふんふ〜ん」


 ミラは鼻歌を歌いながら階段を上がった。

 そして、甲板に出るためのドアノブに手をかけた。


「イリエル、どうしてあんなにミラを警戒する?」


 聞こえた低い声が、少女の動きを止めた。

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