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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
果てへの導き編
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少女の宝石

「君の名前を教えてよ」


 問いかけられたその言葉に、少女は一瞬だけ驚いたような顔をした。

 だがすぐに柔らかい笑顔になった。安心に満ちた笑顔だった。


「うん」


 少女は久しぶりに得た安心に心を任せ、一度小さくうなづいた。

 その小さな掌を、心臓のあたりに当てる。


「僕はミラ・ピアプローデです」


 にっこり笑って言うその姿は、やはり歳相応の可愛らしさがある。エストリテで出会ったトエリコを思い出すようだ。


「俺はサグ、よろしく」


 一応姓の方は名乗らない。大丈夫だとは思うが、一応の警戒心だ。

 明らかに不思議そうな顔をした、流石に姓を名乗らなかったのに気づいたか。


「あの」


 遠慮を含んだ声で質問しようとした。

 少しだけ前傾姿勢になってミラの腕を、テリンが後ろから優しく掴んだ。


「私はテリン・イアムク、サグとは幼馴染なの、よろしくね」


 自然な優しい笑顔で笑いかけた。

 掴まれた一瞬はびくりと肩を震わせていたが、テリンの優しい笑顔で一瞬の恐怖は消えたようだった。

 実のところ、サグは上手い言い訳を思いついていなかった。目だけでテリンに感謝を伝える。


「俺はエボット・ケントンだ! 俺もこいつらと幼馴染なんだぜ!」


 エボットがサグと肩を組みながら言った。

 テリンと目を合わせていたのに、また後ろで名乗るものだから、ミラがまた頭を回すことになってしまった。


「ディオブ・テンベルタムだ」

「イリエル・トントーク、よろしくね」


 続け様に二人も名乗る。これでミラの意識は完全にサグの姓から離れた。

 名乗るたびにミラはペコペコ頭を下げている。どうやら育ちは良いらしい。


「ねえ……ミラ」


 イリエルが遠慮しながらも言葉を出した。質問の内容を、サグとディオブはすでに察している。


「その布袋の中身は……何なの?」


 最後の一言を出すまでに、少しだけ言葉詰まってしまった。ミラの表情の変化が、そうさせたのだ。

 誰が見てもわかるほど、ミラの表情は暗さに満ちていた。言われたくなかったことを言われてしまったらしい。布袋をキュッと握りしめて、頭を下げ、心臓のあたりに握った布袋を中心に縮こまっている。

 サグはイリエルにアイコンタクトを送った。メッセージは「これ以上はまずい!」だ。しかしイリエルはミラだけを見ていて、サグの視線に一切気づいていない。


「私、その袋に触れたの」


 瞬間、ミラが弾かれたように顔を上げた。

 目の前のローテーブルを乗り越えて、イリエルの手を掴む。


「大丈夫!? どっちの手で触ったの!?」


 必死の形相でイリエルの手を握っている、ジロジロ見て様子を確かめているようだ。

 イリエルは何でも無い顔をしているが、いきなりの事に、それ以外の四人が驚きを隠せず、顔に驚きが現れている。


「大丈夫よ、触った時はキツかったけど、今は回復しているわ」


 ほっ、と息をつく音が聞こえた。

 どうやらミラは布袋に触れると苦しい思いをすることを知っていたらしい。

 確信を得たイリエルは、続いて言葉を発する。


「ねえ、この袋の中身は何? あなたはこれのせいで何かに巻き込まれたの?」


 表情が厳しく変わる。苦しまされた側として、問い詰めずにはいられないのだろう。

 ミラは布袋をキュッと握って目を硬く結んでいる。明らかに怖がっていた。


「おいイリエル!」


 流石にやりすぎだと、ディオブがイリエルの肩を掴んだ。


「ごめんなさい……でも、問い詰めないといけないわ、そして助けられた側として、あなたには答える義務がある」


 一瞬だけ申し訳なさそうな顔をしたが、すぐに真剣な顔に変わった。

 申し訳ない感情も嘘では無いだろうが、イリエルとしては事実を確かめなければ退っ引きならないらしい。そこに悪意は一切無い、ただ純粋な真実を確かめたいという気持ちだけだ。

 澄み切ったイリエルの瞳に、ミラは迷っている。伝えても良いのかと。


「大丈夫、このリエロス号に乗っている仲間たちは、決して君を傷付けない」


 サグがミラの頭に手を置いて言った。

 ミラの瞳は迷いに揺れ、恐怖に潤んでいた。サグはその目をまっすぐ見て優しく笑ってみせる。


「言ったろ? 信じて欲しいな」


 ミラはやはり迷っていたが、サグの目を見てようやく決めたようだ。袋を握る手から力が抜けたのがその証拠だろう。

 袋を縛ってた紐を解く。そしてひっくり返した。

 中から綺麗な宝石が現れた。光を受け真っ赤に輝く宝石だ。

 一切の角の無いそれに、全員が見惚れてしまう。


「すごい……なんて綺麗な宝石だ」


 ものすごく抽象的な感想だが、経験の浅いサグからは、やはりこの程度の感想しか出てこない。また己の経験の浅さを呪ってしまった。

 その時、視界の端っこに手を伸ばしたテリンの姿が映った。宝石に魅入られている様子だ。ぼんやりした顔で宝石に向かって手を伸ばしている。


「さわっちゃだめ!」

 

 突然イリエルが叫んだ。触ったことで自分がどうなったのか思い出したらしい。

 手を伸ばし、声と共に警告の意思を伝える。だがぼんやりしているテリンは、宝石に触れてしまった。


「あっ!?」


 けれど、テリンは何かを感じている様子は無い。ただ普通に触れている。イリエルはひどく不思議そうだった。


「ミラ、これは?」


 不思議そうな顔のまま、ミラを見つめた。

 ミラの表情は至って普通だった。なにも思っていない、当然のものを見ている目だ。


「それは……心を写す宝石なんだ」

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