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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
果てへの導き編
82/304

魚落下

 船はひたすら青いだけの空を進んだ。

 途中、人のいる小さな島で物資を補給した。流石に食料品がヤバかったので、大量に購入しておいた。

 驚いたことに、旅を始めてから初めてなんのトラブルもなく人のいる島を旅立つことができた。

 観光資源の無い島で、大した時間立ち寄らなかったというのもあるのだが。

 天気も快晴、白い雲が時折流れていくくらいだ。風も爽やかで優しい、日光はあっても暑さを和らげてくれた。

 珍しく平和で順調な旅、エボットも自動操縦に甘えて甲板で寝そべっていた。


「あ〜っ! いい日だな今日は」


 体を伸ばしながら、何回目になるのかそれを言った。

 坐禅の体制で魔力コントロールに集中していたサグは、エボットの何度目かのセリフに呆れ顔を向けた。


「何回目?」

「何回行ってもいいだろ? 実際、いい日なんだからよ」


 エボットはニヤニヤして上半身を起こした。久しぶりの平和を満喫しているようだ。そこに関しては、サグも間違いないので強くは言えなかった。

 他の三人だってそうだ、テリンは椅子に座って日光を浴びながら本を読んでいるし、ディオブは珍し筋トレをせず寝転がり、イリエルは図鑑を開きながら、脳内の研究資料を立ち寄った島で購入していたノートに書き写している。

 おかしいほど平和、サグは青空を見上げ、そう思った。

 その時だ、平和は崩れる。


「何あれ?」


 呟きは小さかったが確実に全員の耳に入っていた。

 一度声の主を確認した、その主が上を見上げていたので、同じように上を見上げる。

 五人全員が、遥か大空を見上げた。

 視線の先にいたのは、魚だった。簡単に言えば、羽の生えた魚。遠すぎて豆粒程度にしか見えないが、なんとなく大きいのはわかった。


「魚?」

「ちょっと待って」


 テリンが側に置いていた、本のぎっしり入ったリュックから単眼鏡を取り出した。そしてイリエルへ単眼鏡を放り投げた。

 イリエルはその単願鏡を受け取り、手慣れた動きで伸ばした。

 右目に当てて遥か空の生物を見た、少しだけ唸っていたが、さすがというべきか、すぐに納得したような声を出した。


「ああ〜ボリジウスか」

「危険なやつか?」

「いえ? 攻撃的ではないわ、天空生物でもないし、けど変ね、本来は淵の近くに生息してる種類なのに」


 単眼鏡を外したイリエルは、不思議そうに眉間に皺を寄せていた。

 違和感を得ることができるのも、イリエルの知識によるものだ。サグではただ生物、としか認識できない。前からすごいとは思っていたが、改めて凄さを実感させられる。


「あっ、なんか大きくなってきた」


 エボットが呟いた。

 確かに、あの魚?は大きくなってきている。遠近法で大きくなってきているということは。


「近づいてきてる?」


 ディオブが呟いたのがトドメだ、全員がパニックになってしまった。


「やばいやばい! こっち落ちてきてるってことじゃね!?」

「騒いでないで船の操縦初めてよエボット!」

「俺受け止めるか!?」

「やめときなさいよ!」

「ああくそ! プラズマっ……!」


 混乱で騒ぐことしかできなかったが、結局魚はこちらに向かって飛来してくる。

 大体の落下地点はわかった、この船のど真ん中、マストのあった辺りだ。

 全員が甲板の端っこに対比した、中に入っても良かったが、さすがに暴れられた場合対処が必要だった。唯一エボットだけは船室に入り、中で操縦の準備を進めている。

 そうこうしている内に、魚は船に落ちてきた。

 木と肉のぶつかった轟音、大きく揺れる船、木の軋む小さな音、全てが仲間たちの顔を青くさせた。

 エボットの操縦のおかげか、すぐに船の揺れは収まってくれた。


「うおえぇ……」

「大丈夫かよ」


 イリエルが吐く真似をした。だが顔は真っ青で、多分だが冗談じゃなく吐きそうになっている。

 落ち着いた船の上で、サグは落ちてきた魚を見つめた。尾鰭から頭までで、少なくともサグの身長の二倍はある。恐ろしいほど大きな羽の生えた魚だ。

 ゆっくり触ってみる。


「うおっ」


 触った瞬間、恐ろしいほどのぬめりがサグに触れることを許さず、手は滑って甲板についた。

 側で見て気づいたが、魚はぴくりとも動いてはいなかった。羽もヒレもどの部位も動かない。

 すでにイリエルが調査を始めていたが、なんとなくサグも察しはついていた。


「死んでる……」


 イリエルの呟きで、察していたものは事実に変わった。

 驚いたことに、さっきまで空を飛んでいた魚はすでに死んでいた。だからぴくりとも動かず、上空から自由落下してきたのだ。

 だが、死んでいると言う事は、この魚を死に至らしめた原因がいると言う事だ。それは警戒しなくてはならない。


「テリン、銃抜いといて」

「もうやってる」


 サグとテリンが船の周囲の警戒に当たった。

 ディオブはボリジウスを調べ続けるイリエルの側に立ち、一応魚そのものを警戒している。

 イリエルが手早く体を調べるが、特段目立った傷も、目立った病気のようすも見られなかった。


(体の様子みて……異変がないなら……あとは体内)


 重く閉じていた口をこじ開け、体内を覗く。


「なっ!?」


 イリエルがそこに見たのは、魚の中で眠る、褐色肌の少女だった。

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