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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
幕間 謎と魔力編
80/304

謎の考察

 あの浮島は修行にはちょうど良かったが、流石に食料が不安になってきたので仕方なく浮島を離れることにした。

 次の島がどの程度離れているかは把握している。だが気候、もしくは生物に襲われるなどのトラブルを恐れたというのもある。

 しかしエストリテでマストを外しておいたので、甲板を広々と使えている。全力を出せないというだけで、トレーニングには困らなかった。

 この船、リエロス号は、いつもと変わらず、五人の家となってくれていた。

 目下、五人の議論の的となっているのは、一つだった。


「まじでなんなんだ? この箱」


 ディオブがポツリと呟いた。今のうるさい風の音で、消されそうなほど小さな声だった。

 サグとテリンが魔力コントロールをやめた。ディオブの言葉が気になったからだ。


「それって、親方がくれたマストの中に入ってたやつ?」

「ああ」


 ディオブが箱をクルクル回して全体を見つめながら言った。

 サグがディオブに手を出した、パスしろのサインだ。ディオブはその意図を理解し、小さな木箱をキャッチしやすいように投げる。

 キャッチしたそれを、サグも回して眺める。見る限り、デザインも素材もなんの変哲も無い、強いていうなら拳ほどの大きさしか無いことが気になる程度だ。

 視界の端っこでテリンが興味津々の目線をむけてきたので、ノールックで取りにくいようにパスを出した。


「わっとと」


 聞こえる限りなんに事もなくキャッチしたようだ。


「そういえばさっ……!」


 筋トレ中のイリエルがしんどそうに言った。

 腕立て伏せもなかなかしんどい運動なのだが、普段からディオブの筋トレを見ているので、失礼ながら軽い筋トレで苦しんでいるように見える。

 体制を胡座に変えて、イリエルがサグと目を合わせた。


「なんで神軍はサーコス島の人間を皆殺しにしたのかな」

「えっ?」


 イリエルがさらっと言った。


「おい、いきなりそんな話題」

「けど不思議じゃない? 神軍は”果て”への情報、もしくはオリアークの情報を求めてる、なのにオリアークのことを少しでも知っているかもしれないサーコス島の島民たちを次々に殺すなんて」


 言われてみればそうだった。目の前にある疑問が多すぎて気づかなかったが、普通に考えれば何人か生け取りにした方が合理的だ。

 だというに、あの日神軍たちは、レイゴスの号令を受けて島民たちを皆殺しにしていた。明らかなほどの矛盾点だ。


「もしかしたら、オリアークの言ってた魔法を遠ざけたってのと関係あるんじゃない?」


 テリンがサグの横を通り抜けながら言った。そして箱をディオブに返す、唯一手渡しだ。

 受け取ったディオブは、テリンの言葉を聞いて、眉間に皺を寄せていた。


「気にしないのか?」

「うん、それが情報になるなら積極的に話そう」


 「いや……もうちょっとなんかこう……だな」とディオブがブツブツ言っていたが、それを無視し、サグは次の疑問を口にした。


「どうしてテリンは関係あると思ったの?」

「ん〜……だって魔法って戦闘手段なんでしょ?」


 ディオブが小さく首肯した。


「つまりオリアークは、私たちの故郷から戦う力、身を守る力を奪ったってことになるじゃん?」


 言い方は悪かったが、大きくは間違っていない。

 実際サグたちは鉱山の島で、サソリを相手に死にかけた事もあった。戦う力がどれだけ重要か、実際の痛みが教えている。


「でもそれだとオリアークの話と、皆殺しの理由が結び付かねえじゃねえか」


 ディオブもいっそ吹っ切れたのか、テリンの説の最大の問題点を指摘した。


「それはそうなんだよね、ただなんとなく関連してるかな程度」

「んじゃそりゃ、ってもま〜じで何もヒントが無えな」


 ディオブががしゃがしゃと後頭部を乱暴に引っ掻いた。


「……ねえ、人が徹底的に生き物を殺す時って……どんな時?」


 顎に手を当てていたイリエルが呟いた。生物大好きなイリエルらしい、少し離れた視点のアプローチだ。

 全員が急に範囲が広くなった質問に悩んでしまう。


「領土?」

「でも奪う必要無いわよ?」

「そうだった」


 テリンの意見はイリエルの言葉で消える。


「嫌悪とかか?」

「嫌悪?」

「ほら、虫とかよ」


 言われてみれば心当たりがある。エストリテにいた頃、岩の下にいた虫を、子供が必死になって潰しているのを見たことがある。


「サイコパス?」

「生き物ってお前が言ったんだろうが!」


 くだらない言い合いをする二人をよそに、サグも考えを巡らす。

 サグもサイコパスと言われてしまいそうだが、ディオブの言っていた”嫌悪”という意見は的を得ている気がした。

 ヒントを求めて、サグは記憶の底を漁る。あの日の思い出の大半を占める赤を押しのけて、カケラ程度の記憶をひろい集めた。

 そして、ようやく、気になる言葉に辿り着いた。

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