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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
旅の始まり編
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旅立ちの前に

 まず初めに一番重要な食料品から購入することにした。最初に八百屋、次に肉屋魚屋と回る。

 だが問題が一つ、エボットは極度のニンジン嫌いだったのだ。付き合いの長いサグとテリンは、そのことをちゃんと知っていたし、それを矯正させようとしたこともあった。いい機会だと、テリンがニンジンを大量に購入しようとしたせいで、二人は喧嘩になってしまった。


「だから! 俺はニンジン嫌いなんだって!」

「ダメ食べなさい! ニンジンにはニンジンからしか取れない栄養素があるの!」

「おかんか! んなもん無えよ!」

「あるもん! そうやって教えられたし!」

「そりゃ方便ってやつだろ!?」


 エボットは「おかんか!」と叫んだが、二人の会話は子供の会話でしか無い。

 その上忘れてはいけないのは、ここが八百屋の真ん前で、商店街のど真ん中だということ。つまり周りの人たちの視線があった。

 喧嘩している二人は気づいて無かったが、うるさいと咎める視線、恥ずかしいとクスクス笑う視線、仲がいいのねという温かい視線、いろんな視線があった。その上それは、明らかに仲間のサグにも突き刺さってきていた。


「すっ、すみません」


 顔を赤くしながら、なぜかサグがぺこぺこ謝っていた。

 結局、さりげなくサグがニンジンを購入したことで、二人の喧嘩はエボットの敗北で幕を閉じた。

 次に入ったのは服屋だ。

 服は男二人には大したこだわりがなかったのだが、今までに見たことがないほど大きな服屋で見た事もない服を見てしまったテリンがテンションを上げてしまったのだ。元気のなかったテリンが楽しそうならと、二人が着せ替え人形を受け入れたのも不味かった。結果変装用含め大量の服を購入し、二人の荷物は大変なことになった。

 また大きめの本屋にも寄った。これから先、神軍のように知らないことに沢山出会す。ならばその時、非力な自分たちにとって力になるのは知識だ。得られる知識を、限界まで詰め込んでおきたかった。生物図鑑や、歴史書、普通の小説など、多種多様な本を購入した。

 買った荷物は段ボールに入れて、これも購入した台車でなんとか森の中を進んでいる。昨日までは枕にしていた木の根っこが、今では皮肉なことに最大の敵になってしまっている。


「ったくよ〜買いすぎだってんだよ」

「ほんとだよ、移動自体が大変になってるし」


 二人の愚痴が飛ぶ。本もそうだが、服が一番かさばって邪魔だった。変装用もあるとはいえ、流石に買いすぎた。


「ごめんごめん、でもさ〜楽しいじゃん」

「何が?」


 テリンはぴょんと飛んで、地面から盛り上がっている大きな木の根っこの上にたった。さながらステージの上に立つパフォーマーのようだ。スポットライトに照らされでもしているかのように、人差し指をピンと立てて、腕を高く伸ばし、天を指差した。


「自由」


 二人は目を合わせた。そして、少しだけ魔を置いて笑い出す。


 なんとも皮肉な話だが、確かにそうだ。自分たちは今得難い体験をしている。

 この三人の年齢は14歳、本来であれば自立などできる歳ではなく、今日の夕飯の買い物だって、食べたいものを食べるには母にお伺いを立てねばならなかった。

 それが、今は自由に欲しい食材を買って、欲しい服を買って、好きな時間に友と笑っている。


「そうだな」


 エボットもニヤリと笑った。不思議だが、楽しい気持ちがあるもの確かだった。


「そんな話は船でしようよ、もう疲れた」


 サグの言葉も一理ある。今日は笑ってはまた絶望して、疲れを自覚してからまた買い物に体力を使った。すでにへとへと以外の言葉が無い。それはテリンもエボットも同じだ。だからテリンも同意の笑みを見せた。


「うん、そうだね」


 その言葉を最後に、三人は島の端っこに停めてある船を目指した。一応来るときに迷わないよう、木に印をつけておいて正解だった。すぐに森を抜けて船へと辿り着いた。

 無理矢理停泊してしまったせいで島に対して船が少し沈んでいる形になっている、自分たちが上り下りする分には大した問題はないのだが、物を持っての上り下りには本当に気を使う。器用なサグと力のあるエボットが荷物を下ろして、甲板でテリンが荷物をあっちこっちにどかしてスペースを確保した。


「今日が雨じゃなくてマジで良かったな」

「うん、じゃなきゃ荷物がずぶ濡れだった」

「そうだねっ!」


 男二人の声にはある程度の余裕があったが、腰と足を使って全力でダンボールを押しているテリンの声は力がこもっている。そしてサグが最後のダンボールを下ろした。中身は食料品だ、一つでも大量だがまだまだ食料品は買ってある。

 ちなみに調理器具が船内にあることは確認済みだ、妙に綺麗で驚いたことを覚えている。


「これ先に中に運んじゃうよ、ナマモノみたいだし」

「わかった、冷蔵庫は下の台所部屋のとこな」

「おっけ〜」


 しっかりとダンボールを抱えて扉へ歩く、扉に手をかけて、ゆっくりと開けた。

 幸運はだった、まず一つはサグが少しでも早く中へ入ろうとして、扉の中央から体を逸らした状態であったこと、これにより扉についていた窓がよく見えた。

 よく見えたことで、窓の中で何か影が動いているのがエボットによく分かった。動きも大きさも、明らかに人のそれだった。


「サァァァァァァァァァァァァグ!!!!!」


 気づいた時にはエボットは勘の騒ぐままに叫んでいた。

 サグの耳が音を聞きつけた時、すでにドアノブを回して扉を半分ほど開いていた。開いた扉の隙間から、斜陽に照らされて何かが銀色にギラついた。その光を、サグは覚えていた。本能が警戒を叫び、反射のスイッチを刺激した。

 持っていた段ボールを、まるで空中に置くかのように投げる。さらに倒れるかのように体を捻った。現在のフィジカルを最大限活かした行動だった。

 銀色は闇から飛び出し、自分の正体は剣であると明かす。剣は段ボールを貫き、上に一閃する。中に入っていた食材たちが甲板に落ちた。

 扉がギイギイ軋む音を立てて、ゆっくりと開く。扉を開けた人物に面識はないが、見覚えがあった。島を滅ぼした例の黒服の連中、その最前線に立っていた男。三人の表情が自然と強張った、筋肉が緊張し、警戒心を剥き出しにする。


「あ…ああ」


 剣を取り出した布で拭きながら言った。


「ん〜その反応は、当たりか」


 男、レイゴス・ビルカードはニヤついていた。楽しそうに、かつ嬉しそうに。

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