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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
幕間 謎と魔力編
78/304

伝えるべきこと

 ある意味吐き気を覚えるほどの心臓の鼓動と戦いながら、サグは次のページへ向かうべく、端っこを摘んだ。


「いいか?」


 誰もそれを否定しない、心臓がうるさいのはみんな同じだ。

 最初から否定されないことは分かっていたので、サグも遠慮なくページを次へと進めた。

 次のページもやはり図形だらけだった。文字だというのは分かっているが、いかんせん知らない文字というものは図形にしか見えない。


「お願い」

「うん」


 小さくレスポンスだけ返してもらって、すぐに解読の作業に入った。

 頑張っているテリンにはいつも悪いと思うが、この時間がはっきり言って一番の苦痛だ。ドキドキ高鳴る心臓と、今にも暴れ出しそうな心を、必死に押さえつけねばならないこの時間が。


「えっ?」


 小さくテリンが、言葉にもならない声を漏らした。

 音量としては微かだったが、微かな中に収まりきらないほどの、まるで爆弾のような驚きを持っていた。

 それが心臓と心を刺激する。より早く、より前のめりに前傾姿勢。今か今かと、次の少女の言葉を待っている。ミルクを求める赤ん坊だって、こんなに前のめりじゃない。

 必死に体が動かないようにしていたが、すでに心は体を飛び出すほど前に出ている。


「終わったわ、読み上げる」


 一度の頷きで、こちらの準備完了を伝える。


『伝えるべき大事なこと、それはこの文字に関してだ』

『この文字を正しく理解できているのなら、少なくとも恐らく、サーコス島の出身者が仲間にいるのだろう』


 まただ、また自分たちの状況を言い当てている。

 オリアークは時々未来が見えているように語る。おそらくだとか不確定に感じている部分もあるようだが、それでもほぼ正確なことには変わりない。

 その言葉をテリンの声で聞いた時、サグはいつも背中が凍りつくような恐怖を感じる。慣れ親しんだ声で、突然不気味に今を言い当ててくるのだから。


『この文字はある部族の使用していた文字だ、現代にも残っているであろう公用語とは違う、特殊な文字だ』

『……またおそらくだが、この文字を翻訳することはできても、読むことはできないんじゃないか?』

「……これは本当……私は膨大な文字の形で意味と文法を覚えただけ……」


 テリンが自分の読んだ文章を肯定した。

 全員に走った衝撃は、計り知れない。

 読書をする時、基本的に脳内でその文字を読み上げる、そして意味を咀嚼するのだ。だが形だけで文字を覚えているということは、目の前にある図形のような文字を、言う通り膨大な数を脳に擦り込んでいるということになる。

 習得にかかる時間と、言語の理解速度は、通常に比べて格段に落ちることだろう。


「よく習得できたな……?」


 ディオブが心底驚いた様子で呟いた。

 何も言わないテリンの顔を覗き込むと、なぜか少しだけ暗かった。


「……元々は一子相伝のつもりで、最初の子供だけに習得させてたらしいんだけど、何世代か前の人が病気で亡くなってしまって……」

「なるほど、それで音を忘れてしまったということか」


 テリンは小さくうなづいた。


「けどよ、文字はどうやって伝えたんだ?」

「言ったでしょエボット、代々伝わった本があったって」

「代々って……意外と古くもなかったのか」


 苦笑いでエボットが呟いた。サグもだが、代々と言われもっと古い世代を想像していたようだ。


「続ける」

『その場合、”果て”への到達は困難を極めるだろう、それでも辿り着けるはずだ』

『なぜなら、このノートを手放さなかった時点で、君は好奇心に呪われている』


 爆発、そんな表現ですら甘いほど、心臓が大きく跳ねたのを感じた。

 サグには言われても仕方ないほどの心当たりはあった。しかしまさか遠い先祖にそれを言われるとは思ってもみなかった。

 エボットを見ると、顔に「わけわかんね」という本音がしっかり現れていた。


『私がそうだったから、君も呪われているのだろうと推察する、ならば辿り着けるはずだ、同じ呪いに突き動かされたものなのだから』

『その船リエロスは、”果て”へ辿り着いた唯一の船、大事にするといい』

「これで終わり」


 今回解放されたノートのページは前よりも長く、大事なことも多く語られていた。

 沈黙が場を支配する。当然だ、一度情報をそれぞれ整理したいだろう。

 サグも脳内で情報を整理する。ノートの黒が消えたのは今回で二度目だ、しかし起こるたびに混乱と情報を与えてくれる。

 サグが思う前回最も重要だった情報、それは”神軍を警戒せよ”という情報だ。神軍がオリアークの時代に存在していたということと、神軍とオリアークに何かがあったという二つが伝わってきた。

 そして今回大事なのは、この文字が”果て”へ辿り着くための重要なピースになってくるという点だ。

 オリアークがさりげなく語っていた”ある部族”という言葉、これが次のヒントになっている。

 指針のない旅に、ようやく道が見えてきた。


「……どう思うイリエル」


 ディオブが小さく呟いた。瞬間、三人の心臓が鋭く跳ねた。

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