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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
幕間 謎と魔力編
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メッセージ

 辿り着いてから三日、未だサグたちの船は、浮島を離れずにいた。

 というよりも、離れるに離れられなかった。理由は単純だ。


「ったく! やり方は考えるべきだろ!」

「考えた果ての意見を否定してるのは、あんた! でしょうが」


 食事中の今も、二人がものすごい喧嘩してるからだ。

 三日前、サグの技を発端として起こった喧嘩は、巡り巡って三人の魔力に関する教育方針の喧嘩に発展した。

 サグはまだまだ初心者で、教育や理論を展開できるほどの実力は無い。

 だが、二人が言っていることは間違ってない気がした。そこが厄介なのだが。

 二人のやっていることは、まんま夫婦喧嘩だ。しかし今や、疑似夫婦喧嘩なんて微笑ましい領域で収まらない。

 修行中に喧嘩するようになったのだ。

 なまじお互いに実力があるだけに、派手な喧嘩になってしまっている。

 ディオブの拳をイリエルが魔法でいなしたり、イリエルが飛ばした岩をディオブが砕いたり。

 そのカケラがテリンに当たったりすることもあった。


「何テリンに当ててんのよ!」

「テメェが投げてきたんだろうが!」


 なんて、不毛な言い合いにも発展する。

 三人からすれば呆れ以外の何者でもないが、それぞれに合っている部分があるだけに口が出しにくい。自分たちのためとなれば尚更だ。

 なので面倒だが、放置のスタンスを取っている。幸いなことに、命の危機が迫ってるわけでもない。

 それに三人からすれば、少し安心している節もあった。ディオブの事だ。

 三人から見ればディオブは師匠で、一歩引いたところにいた兄の様なものだった。

 だが今は本音を遠慮なくぶつけられる相手がいる。自分たちでは無理だろう、年下で弟子のような存在だから。

 だからその事実が嬉しかった。喧嘩は不毛なものだが、怒りとはある意味、最大の本音なのだから。


「ごちそうさま!!」


 ディオブが食べ終わった。少し乱暴に立ち上がり、派手な音を立ててシンクに食器を放り込む。

 そしてイライラとした足取りで外へと出ていった。


「ごちそうさま」


 イリエルはディオブよりは落ち着いていたが、やっぱり少しだけイライラした様子で外へと出ていった。

 残された三人は苦笑いを浮かべるしかなかった。


 今日の食器洗い当番はサグだった、なのでもうみんな外で修行を始めているのに、一人船内で皿洗いを続けていた。

 やっと全ての食器を拭き終え、外に出ようとした時、部屋の端っこに置いてある木箱が目に入った。オリアークの資料を入れている箱だ。

 なんとなくでしかないが、オリアークの資料を取り出してみた。

 こういう時、一番気になるのは、『オリアーク・ウィスト冒険記』だ。オリアークの冒険が記されているはずなのだが、中身はあまり読めていない。

 というのも、ほとんどのページが黒塗りになっているのだ。ただのインクなら、むしろ話は簡単だったのだが、どうやらこの黒は闇属性の魔法らしかった。

 先祖曰く、それぞれのページに条件を設定しているらしく、その条件を満たすことができれば、ノートを読むことができる様になるらしい。

 だがその条件というのがわからない。

 前例で言えば、魔力を集中させた手で触れることだった。同じことを何度かやってみたが、やはりというべきか、他のページが解放されることはなかった。

 

「サグ、何してんの?」


 少しイラついているイリエルが入ってきた。


「何してんの?」

「それはこっちのセリフ! いつまでも来ないから呼びにきたのよ」


 イリエルの様子から察するに、サグが想像する以上に時間が経っていたらしい。思わず頬を掻いてしまった。


「ごめん、このノート見てた」


 そう言ってイリエルにノートを見せた。


「へえ、例のオリアークの資料ってやつ?」

「うん、俺の家にあったノートの一つ」


 そこでイリエルはサグの腕の擦り傷に気づいた。


「サグ、その腕どうしたの?」

「えっ?」


 サグも指摘されて気づいた。

 どこかで擦ったらしい、少しだけ血が流れていた。


「腕出して」


 イリエルが近づいて、サグの擦り傷に光を当てた。

 覚えのある暖かい感覚が、サグの腕に染み渡った。


「この感覚知ってる」

「ええ、これが光の魔法よ、スカイストムのやつはこれの究極形ね」


 イリエルの解説で、サグは心の中で納得する。

 その時だ、大きな光がサグの手で起こった、正確には、サグが握っているノートが光ったのだ。

 二人の視線がノートに集中する、光は二人の目を潰さんばかりに広がっていく。


「なっなにこれ!」

「まさか! 条件を満たしたのか!?」


 イリエルは眩しさに腕で目を隠すことしかできていなかったが、サグは状況を正しく把握できていた。


「なんだ!? どうした!」


 外にいたエボットたちも光に気づいたらしく、バタバタと騒がしく部屋に入ってきた。

 光の出ている先を確認し、三人も起こっている事態を正しく把握した。

 やがて光は収まり視界がはっきりした。三人はサグの元に駆け寄り、光の発生源であるノートをじっと見つめる。


「何があったんだ?」


 ディオブが重く言った。


「わからない、イリエルが光の魔法を使った時に光出したんだ」


 次は全員の視線がイリエルに向いた。

 イリエルは向けられた視線に少し引きつつ、ノートから目を離さなかった。


「何よ、普通にサグの傷に使ったのよ」

「じゃあそれだな、サグの傷に使った時、魔力がサグの体を通してノートに伝わったんだ」


 ディオブがじっとノートを睨みながら言った。

 サグは恐る恐るノートを床に置いた、そしてノートの端っこを指でつまむ。新たに開放されたであろうページを、一発で開けるように調整して。

 まただ、また指が心臓になったかのような感覚がする。


「開くよ」


 質問ではない、断定だ。そして誰もそれを止めることはしない、否、止められない。

 瘡蓋を剥がすときのように一瞬だけ躊躇し、あとは全力でノートを捲った。

 やはりそこにあったのは、まるで図形のように見える言語。


「テリン」

「ちょっと待って」


 サグの隣でテリンが膝をついた。顔をぐっとノートに寄せて、すぐに解読を開始する。

 少しして顔を離し、テリンがふっと息をついた。


「解読できた、説明始めるね」


 テリンには見えていなかったろうが、全員がうなづいていた。


『おめでとう、とりあえず君が孤独で無いことを祝福しよう』

『今回のページの条件は光属性の魔法だ』

『仮にこのノートを手にしているメンバーに、我が子孫がいるのなら、この条件の達成が子孫の孤独を否定する』


 サグはイリエルと顔を見合わせた。サグもだが、イリエルは心から不思議そうな顔をしていた。

 しかし、サグは不思議な状況であることは分かっていたが、何がどう不思議なのか理解できていなかった。


「魔力の適性はね、多くは遺伝しないの、だから光属性イコール自分の子孫じゃないってのは、あまりに不自然なのよ」


 イリエルの説明でようやく納得できた。

 エボットからも「ふぉ〜ん」と声が聞こえた、どうやらエボットも納得したらしい。

 

『最近調べたところ、俺の血を引いたやつは、光属性の適性を持てないらしい、つまり、我が子孫は孤独でない可能性が高いということだ」

「何!?」

「嘘!?」

「うお」

「びっくりした」


 集中しているテリン以外が、あまりの大声に驚いてしまった。

 大声の犯人であるディオブとイリエルは、目をこれでもかというほどに開いて、読めないはずのノートの文字を凝視している。


「なんでそんなに驚いてるのさ」


 少しキンキンする耳を押さえながら、なんとかサグが切り出した。エボットも首肯で疑問を伝えた。


「適性を調べる方法は、お前らもやったあれぐらいだ、それ以外はほぼねえ」

「そうよ、修行の入り口としての位置付けにあったのに……まして子孫の属性を知るなんて……」


 魔法に関する知識が深い二人だからこそ、オリアークが語る内容に心底驚いてる様だった。


『まず伝えるべきことは、船の名前だと思う』

『今君たちがいる船は、俺たちの時代の最高の技術を詰め込んである、未だ世間に広まっていない技術もな』

『そんな船のなは、”リエロス”という』


「リエロス……号」


 脳で噛み砕いたそれを、もう一度耳で咀嚼するために呟いた。

 ずっと知らなかった、船としか呼んでこなかった自分たちの船。その名をようやく知ることができたのだ。少しぼんやりするのも仕方ない。


『”より大きな”という意味を持っている、より大きなものを掴むための力として、その名を与えた』

『持ち主よ、どう使うかは自由だ、君に任せるよ』


 心臓がドキドキ鳴っているのがよく分かった。

 緊張しているわけではないが、何か不思議な、それこそ魔力のようなものが、サグの心に熱を与えている気がした。


『次に伝えるべきこと、実はこっちの方がよっぽど大事だ』


 ノートの、右ページ下にあったそれを見たとき、心臓の高鳴りは、痛いほど強くなった。

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