表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
幕間 謎と魔力編
76/304

教育論

 お互いにバッチリの状況が出来上がった、ならば、さっきは確実に超えてくるだろう。

 それは、ぶつかり合った互いの拳が証明した。

 拳から腕、そして全身に骨を通じ響く痛み。今回はエボットに電流の、サグに鋭い冷たさのおまけ付きだ。

 しかし怯むことは許されない。もう片方の拳でエボットの腕を狙った。

 エボットは拳を開きながら、手首を使い勢いをつけた。その勢いで、拳を覆っていた氷がサグの顔に飛んでくる。

 反射でサグは顔を腕で覆い、守ってしまう。

 決定的な隙を逃さず、エボットはさっきまでぶつかり合っていた腕を掴んだ。ドライアイスのような冷気がサグの腕を痛めつける。

 味わったことのない冷たさに、サグは顔を歪めてしまった。

 掴む手に力を入れてサグを逃さず、エボットはもう片方の手で胸に掌底を叩き込んだ。

 サグは動揺のままにモロに掌底を受けてしまった。

 さっきとは違い、痛みに地面を転がってしまった。


「痛えぇ〜! 何その技!」

「いいだろ? お前の『近接系武器のマスター術』って本でメリケンサックって武器を見つけてな、それ参考にしたんだ」


 メリケンサックは鉄製で、指を通して付け、握った拳の破壊力を上げるという武器だ。

 つまり拳全体を覆い、開いた時に氷を放つのはエボットのオリジナルということになる。


「流石の応用力だね」

「まあな、名付けて”アイスブロウ”!」

「あっそ!」


 ドヤ顔のエボットに対し、サグは回転しながら足払いを仕掛ける。

 サグの想像以上に綺麗に成功し、エボットは転んでしまった。

 テディベアのように座り込んだエボットの顔に、思いっきり膝を繰り出した。

 ギリギリのところで腕を出し、エボットは膝をガードした。


「容赦ねえな」

「そういう話でしょ」


 苦し紛れのニヤつき顔に、サグは楽しそうにニヤついて返した。

 

「そうだったな!」


 サグの膝を弾き、勢いよく立ち上がるエボット。

 着地したサグに、容赦無く蹴りを繰り出す。

 自分を狙う蹴りを、全力の裏拳で弾いた。拳はベンケイの泣きどころに命中し、エボットは若干涙目になった。

 よろめきながら足を戻す、その隙を狙い、サグは飛び出して拳を突き出した。

 エボットは冷静に軸足で後ろへと飛ぶ。

 次の瞬間見えた光景に、エボットは大きく目を見開いた。

 サグの拳から、雷の塊とも呼ぶべきものが伸びてきたのだ。

 エボットだけではない、見ていた三人にもハッキリ見えるほどの雷が、サグの拳から伸びた。

 雷はエボットに命中し、初めて味わう電流という感覚を教える。ビリビリとした知らなかった痛みは、血液を伝わり全身にダメージを与えた。


「ゲホッ……なんだその攻撃、伸びた?」

「うん、ずっと練習してた片手での魔法、やっと完成した」


 サグが考えていた片手で打ち出す魔法、それが完成したというのだ。


「どういうことだ? 銃みたいに撃ち出すんじゃなかったのか?」


 修行を見ていたディオブが、たまらず質問してきた。


「そう思ってたんだけど、それだとどうしても、両手で撃つイメージに引っ張られて、魔力が安定しなかったんだ」

「だから拳を突き出すのに合わせて、魔力を発射することにした、撃つのとイメージが変わらなかったし」


 「なるほど」とディオブが納得した。

 ディオブはサグたち以上に魔法が使える、理解は、技を喰らったエボット以上にできているだろう。


「発射ってか、ゴホ、伸びたように見えたぜ?」


 未だエボットの受けたダメージは大きいらしく、咳き込みが続いていた。

 真剣勝負とはいえ、目の前で咳き込んでいるエボットを見ると、少しだけ申し訳なくなってしまう。


「これね、未完成なんだよ」

「未完成?」

「うん、本来は撃ち出すってのが理想だったんだけど、拳でやってるせいで伸ばすだけになっちゃったんだよね」


 サグの理想としては、逃げている相手に対し発射し当てるというものだ。

 しかしさっきの魔法は伸びる、マジックハンドのようなものだった。これでは理想とするスピードが出せない、つまり未完成、それがサグの結論だった。


「いや? 俺はそれでいいと思うぞ?」


 逆立ちで腕立て伏せのような筋トレをしていたディオブが言った。

 

「その伸ばす方式なら、仮に当たらなくても、魔力を戻すようにすれば消費が少なく済む、また拳で魔力を纏えるぜ?」

「私は反対」


 ディオブのもっともらしい意見に、イリエルが渋い顔でツッコミを入れた。

 両腕から片腕に移行していたディオブは、イリエルを見ながら眉間に皺を寄せた。


「なんでだ?」

「今は魔力コントロールを鍛えなきゃいけない時期、ここでそんな魔力コントロールなのか魔法なのかわからない技取り入れたら、ごっちゃになるわ、一貫させて発射を考えた方がいいわ」

「別にいいだろ? この技術は始めた時期からすると天才的だぜ? 封印させることも」

「封印させるって言ってるわけじゃないの、ただ、今進めるべき技術じゃない、って言ってるの」

「今進めるべきってか、魔力の成長は人それぞれだろ、だから魔法にも派生が生まれるんだ」

「でもそれはある程度レベルが高い戦士のやり方でしょ? あなたや私はともかく、サグはもう少し基礎から」

「すごいやつは基礎から違う、こいつらの天才ぶりはお前もわかってるだろ、自由なやり方に合わせて指導者だって柔軟にだな」

「それは安心して修行できる環境あってこそでしょ? 私たちは命が掛かってるのよ? 堅実な道を選ぶのが指導者のすべきことよ!」

「命が掛かってんなら、尚のことそいつらのためになる方を選ぶべきだ! 強さの階段を数段飛ばしさせねぇといけねえ場面はある!」

「それはわかってるけど! 飛ばした階段に大事な物が転がってる場合だってあるのよ!」

「一つ一つ拾ってんじゃ時間が足りねえ! 魔法使ってる奴らだって全部やってるわけじゃねえだろ!」

「そりゃそうだよ! でもまだ初心者なのに階段飛ばし覚えちゃったら、この先に支障が出るかもでしょ!」

「だから! やり方は人それぞれでだな!」


 二人の語りが熱を帯びてきた。恐ろしいことに、ディオブはその間ずっと片腕で腕立て伏せをしている。

 それに対抗しているのか無意識なのか、イリエルは大袈裟に体を動かし、白衣をバサバサ振っている。

 さっきまで修行していたサグとエボットは、地面にペタリと座り込んで、二人の激論をぼんやり眺めている。

 年齢的におかしいのはわかっていたが、サグは二人に両親の姿を重ねてしまった。


「親か、こいつら」


 エボットもほぼ同じことを考えていたようで、少し呆れたように呟いていた。

 エボットの方を見ると目が合って、同じことを考えていたのが伝わったようだ。お互いにやっと笑ってしまう。


「何? 仲間はずれ?」


 後ろから声がして、サグの頭にずっしりと重みがかかった。

 見えなかったが、両腕で枕を作り、サグの頭にのしかかった様だった。

 声からして多分むくれっつらだ。


「しょうがないじゃん、俺の話だもん」

「お前離れてたしな」

「むぅ〜」


 やはり見えないが、テリンが今度は頬を膨らませたようだ。少しだけクスリと笑ってしまった。

 照れくさいので、言葉に出す気はないが、故郷にいた頃よりも、三人の距離が近くなった気がしていた。

 それはもちろん、同じ船で暮らしているからというのもある。故郷ではそれぞれ家があって、家族も居た。

 だが今は、お互いが家族である様に感じる。さっきの「親か、こいつら」というエボットのセリフで、より実感できた。

 今の自分たちは運命共同体で、寝食を共にする家族だ。ある種血よりも濃く大切な絆で繋がっておく必要がある。

 テリンとエボットは語るまでもない。ならばディオブとイリエルはどうだったのか。


(二人とも、あんまりいい出会いじゃなかったかもな)


 ディオブには初め”同情”があった。だが語りを聞くうち、自分たちと同じ”被害者”で”恩人”となっていった。だからサグは”仲間”で”師匠”になってほしいと願ったのだ。それを叶えられるように、恐怖を押し殺し語った。

 イリエルとの出会いは”驚き”でしかなく、初め性格の悪い攻撃で協力せざるをえない心境にさせられていた。つまり”トラブル”でしかなかったのだ。

 しかしそれから行動を共にする中で、イリエルの中にある信念を感じていた。

 神軍にイリエルが邪魔として切り捨てられた時、激しい怒りを感じた。イリエルを”尊敬”していたのだ。

 だから助けたいと感じた、ギリギリでも勝とうと思った。

 繋がり、感じたものはそれぞれでも、一緒にいたいと願える心を、今目の前にいる四人が持っていた。

 運命共同体である四人を、家族と感じることは、自分を守った母や、敵に殺されてしまった父に対する無礼だろうか。

 それでもサグは、暖かさを感じずにはいられなかった。故郷で感じていた、知っている暖かさを。


「だからあいつらなりのやり方があるって言ってんだろ!!!」

「そうじゃなく基礎を踏ませるべきだって言ったわよね!!!」

「やっべ喧嘩になってきた! 止めんぞ!」

「わっわかった!」

「たはは! 大変だ!」


 睨み合いを始めた二人に、焦って止めに入るエボットとテリン。

 少しだけ遅れてから、サグは笑いながら止めに入った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ