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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
幕間 謎と魔力編
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それぞれの魔法

「それじゃまず、それぞれ魔法を使ってみせて」


 イリエル先生の最初の指示がそれだった。

 サグがトップバッターだ。遠くに小さな浮島ともいえない岩を発見する。


「OK、じゃああれが攻撃対象ね」

「わかった」


 あの時と同じように、両手を銃の形にして、魔力を集中させる。バレルを伸ばすかのように、ゆっくり手を合わせた。両手の魔力が合わさり、さらに強烈な光を放っている。


「プラズマライフル!」


 指先から放たれた弾丸のような稲妻は、真っ直ぐに伸びて遠くの岩を貫き、破壊した。

 土煙と共に岩のカケラが淵の向こう側へと落ちていった。


「OK、じゃ次、エボット」

「いいけど、俺は遠距離は無理だ」


 エボットが手に魔力を集中させる、そしてあの浮島と同じ、絶対のイメージを持つ。

 手の中で氷が発生し、剣を形作る。鋭く刀身を伸ばし、きれいに形を整えた。


「アイスブレード!」


 完成したそれを握り、ドヤ顔で技名を叫ぶ。

 たしかに、出来そのものは大したものだと、魔法慣れしているイリエルも思う。しかしだ。


「技名なんとかならなかった?」


 イリエルは苦笑いとも、引き攣っているとも言えない、微妙を極めたような顔になってしまった。

 エボットもネーミングセンスは自覚しているので、その顔を見た時、まるでそのままコピーしたかのように、同じような顔になってしまった。


「ま、そこはどうでもいいわね、じゃあディオブ、実験付き合ってみてよ」

「俺か? まあ良いが」


 甲板の端っこで筋トレをしていたディオブにイリエルは呼びかけた。

 側に来たディオブに、小さく耳打ちをした。

 ほんの少しの後、エボットとディオブは向かい合った。


「それじゃ二人とも、動きは一回だけ、それで決着ね」

「わかった」

「ああ」


 ディオブが腕から胴体までの上半身全てを硬化させた。上裸だったので、体の変化がよく分かった。

 エボットはわかりやすく剣を上段に構える。そして一歩、大きく踏み出した。

 袈裟斬りに振り下ろされた剣を、ディオブは腕で砕く。サグは次の瞬間、見たことの無い光景を目撃した。

 砕けた氷同士が再結合し、一瞬で氷の剣が再生したのだ。そして腕を通り抜け、ディオブの体を狙う。

 体に当たった瞬間、剣は砕け散った。当然だ。体も腕と同じ硬度をしているのだから。

 切られた後、ディオブは心底楽しそうな表情をしていた。


「なるほど、こりゃ面白いな」


 声にも喜びが滲み出ている。

 対照的にエボットの顔は、最悪を形にしたような苦々しい表情をしている。それもそのはずだ、今自分の技の弱点が思いっきり露呈したのだから。


「OK、じゃ次、テリン」


 顔を歪ませるエボットを半分無視して、テリンに魔法を使うように促す。

 テリンは腰のホルスターから、ずっと使っているリボルバーを抜き、離れた場所の小さな岩を、サグと同じように狙った。

 狙ってから、テリンは銃と自分の手に魔力を集中させる。


「グランスフレイム」


 静かな声と、轟音の銃声が同時に聞こえた。

 弾丸は圧倒的な速度で空を走り、一瞬の内に遠くを浮く岩を貫いた。岩にヒビなどは入る様子は無く、ただ穴が空いていた。


「へぇ……」


 今までに無いほどの関心をイリエルは示した。サグから見てもその度合いの違いは明らかで、少しだけテリンに嫉妬したのは秘密だ。


「とりあえず全員分見せてもらったわ、並んで」


 エボット、サグ、テリンの順で横一列に並ぶ。三人とも少しだけドキドキしていた。


「三人とも、それぞれいい魔法だと思うわ」

「エボットは戦闘」

「サグは破壊」

「テリンは速度、って感じで、それぞれが突出した部分を持っているのが良い」


 三人それぞれ、ニヤッと笑ってグータッチを交わす。

 幾つになっても褒められるというのは、照れ臭いものだが気持ちが良い。


「でも、まだまだ荒削りね」


 分かっていたが、次は反省タイムの始まりだ。

 面倒なことを言われるだろうが、成長のために聞き逃さないように耳に集中する。


「まずエボット、剣が再生する発想は良いわ、けど脆すぎるのも考えものね」

「確かにな……さっき気づいたわ」


 後頭部をガリガリ引っ掻きながら答える。ちょっと気にしているらしい。


「硬さを固定させるんじゃなく、瞬間的に硬さを変えられるようにしなてみると良いんじゃない?」


「次サグ、威力はいいと思うわ、ただ威力を絞れて無さすぎる、だから魔力をかなり持ってかれたでしょ」

「バレてた」


 可愛げとばかりに舌を少しだけ出した。


「一撃必殺すぎて汎用性も低いわ、他にも魔法を考えるのも必要ね」


「最後テリン、大きな問題点はサグとおんなじ、魔力消費と一撃必殺すぎること」

「自覚してます……」


 苦笑いしながら下を向いた。確かに、サグから見ても魔力消費が異常だった。


「それはそれで良いとして、他の魔法が作れると良いわね」

「ただ現状、一番すごいのはテリンよ」


 イリエルの一言で、場の空気が張り詰める。

 サグとエボットにとっては聞き逃せない言葉だった。

 テリンの事を見くびっているつもりはない。

 一番最初の島でレイゴスを仕留める岩を落とす、その重要でプレッシャーのかかる役割を果たしたのはテリンだ。旅を始めてすぐの頃、体調を崩しても付き合いの長い二人にバレないように、上手に隠せていたほどタフだし、銃を恐れずに使う胆力も持っている。

 だがそもそも、サグもエボットも負けず嫌いなのだ。それが根底にあったからこそ、お互いに刺激を受けて修行してきた。エストリテでやった朝の修行がわかりやすい例だ。

 一番がテリンと言われ、わずかな悔しさをだきながら、イリエルの次の言葉を待つ。

 少し腹立たしいことに、イリエルは全てを見透かしているかのようにニヤついていた。


「まず魔力コントロールの精度、テリンはさっきの魔法で、自分の手の保護、魔力の注入、足強化による補助、その三つを同時に行なっている、多分強化は無意識だろうけど」


 無意識と言われたところで、テリンは首を縦に振った。イリエルの推測が当たったらしい。


「魔力コントロールの精度は、戦闘に密接に関わってくる、例えば」


 イリエルがサグの腰からナイフを抜いた、そのままナイフを空中へ放り投げる。

 手をナイフに向けた。するとナイフは空中で静止した。


「えっ」

「私の適正属性は念、簡単に言えばサイコキネシスが得意なのよ」


 手を握り、人差し指だけをナイフに向ける。ちょいちょいと指を動かし、ナイフを空中であっちこっちへと動かした。


「ナイフを操るのに、私は常に魔力を消費する」


 手を引っ込めた。魔法を解除したようだ。

 落ちてきたナイフを、大袈裟な動きでキャッチした。


「だから私は、魔力コントロールを極めている」


 その言葉を言い終わった時、イリエルの手が消えたように見えた。

 瞬間、サグの顔のすぐ側に、ナイフが迫っていた。


(全く……見えなかった……)


 サグはその速度に呆然としてしまう。

 テリンもエボットも同じだった、一瞬テリンの腕が消え、次の瞬間にナイフが現れたように見えたのだ。

 イリエルは、また三人の状況を把握できているようで、ナイフを見つめながら笑っていた。


「今のは不意打ちだから、本来もっと遅く見えると思うけど、身体強化ってのはこういうこと」

「魔力を体でなく、筋肉、フィジカルに活かすことをイメージする」

「ある意味で魔法よりも難しいイメージが必要になるわ」

「でもよ、俺ら魔法持ってんだぜ? ならすぐ」

「無理よ」


 エボットの反論を、イリエルは有無を言わさず切り捨てた。


「あなた達は生と死の境目に立ち、恐怖とアドレナリンで魔法を生み出しただけ」

「けどこの修行は違う、自分をどう強化するか、体内の魔力をどう操るか、そこに正確さが求められるわ」


 サグは思わず唾を飲んだ。

 正直、自分たちはかなりできている方だと思っていた。稀代の大天才だとは言わないが、少なくともいい方だと。

 しかし、イリエルの言い方ではギリギリ入り口に入ったぐらいに聞こえる。というかそうなのだろう。

 特にエボットが言っていた相手、バシフォードがそれに優れているのだろう。魔法は使えないが、身体強化を極めたと語っていたのだから。


「まずは魔法を自分の意思で完全にコントロールすること! 身体強化はそれから! 目標設定もマイセルフね! はい修行開始!」

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