成長と次の可能性
船は青い空を進み続けた、すでにエストリテを出航してから一週間が経過している。
マストを取り外し、どこにいても視界が開けていて素晴らしい。
イリエルが乗船し、スペースをどうするのか、少しだけ会議をした。
とりあえずサグ、エボット、ディオブの三人は今まで通りの部屋で寝ることにして、空き部屋を片付け、新たに女子部屋を作った。
イリエルはほぼ身一つで乗船したため、途中遭遇した商船が救いだった。
出航してからはほぼ平和に旅を続けている。唯一問題があるとすれば、サグとエボットの修行だろうか。
あの浮島で得た魔法と体術の感覚。二人はそれを忘れることが無いようにと、日々修行を繰り返している。
だが時としてやりすぎることもあった。
例えばサグの魔法が暴発して、付近を飛んでいた生き物に当たったり。例えばエボットの蹴りが外れて、思いっきりディオブに当たったり。
やりすぎるとイリエルの魔法で押さえ込まれて、思いっきり叱られていた。
だが頻繁にあるのかと言われるとそうでも無い。サグとエボット以外に、テリンも肉体修行に参加するようになったからだ。
テリンは今まで、二人とは若干劣るため、一人で筋トレをすることが多かった。しかし今は魔力コントロールに開眼したらしく、二人のフィジカルの才能に追いつけている。
この間だって、サグの渾身の蹴りを、テリンは見切ってみせた。
「嘘!?」
「油断!」
まさか躱されるとは思っておらず、サグは蹴りの姿勢のまま固まってしまった。
その隙をテリンは逃さず、体勢を低くして軸足を刈り取ったのだ。
すっ転ばされて、珍しくサグがテリンを見上げる形になった。
珍しい光景に、見ていた三人も驚きが隠せなかった。
「ほ〜う、サグの蹴りを見切ったのか……こりゃ本格的に身体強化を教えてもいいかもな」
なんてディオブの呟きが、寝っ転がるサグの耳に入った。
サグはその時、一刻も早く教えてほしい気持ちでいっぱいだった。目の前で喜ぶテリンの姿に、どうにも悔しさを覚えてしょうがなかったからだ。
テリンの快進撃は止まらず、エボットにも一泡吹かせていた。
エボットが繰り出した拳を、テリンは完全にいなしたのだ。
そのまま腕を引っ張り、崩れた体勢に膝を入れる。一連の動作はあまりに鮮やかで、魔力コントロールを手にした事がこれほどに違うとは思わなかった。
「ぐっ、マジかよ」
蹲りながら、悔しそうにテリンを見上げるエボットの顔は、サグの脳裏に今でも正確に焼きついていた。
悔しいので、二人でひたすら修行を続けた。しかしテリンほど魔力コントロールは出来上がらなかった。
敗北から三日ほど経ち、今日はようやく魔力コントロールによる身体強化について教えてもらえることになった。
広くなった甲板で、サグとエボットはその時を今か今かと待ち構えている。
「ようやく身体強化を教えてもらえるぜ! もう負けねえぞテリン!」
よっぽど悔しかったのか、エボットの鼻息がいつも以上に荒い。うざったく感じながら、エボットと同じようにテリンを軽く睨む。
睨まれていることに気づいてるくせに、テリンはニヤニヤと笑いながら、しつこくピースをアピールしてきた。三人並んだ、ほんの一メートル程度の出来事だ。
「お前ら動き煩すぎ」
準備を終えたディオブが、呆れ混じりにそう言った。
後から聞いた話だったが、あの島の戦いでディオブも殺しをしたらしく、ひどく驚いてディオブに聞いたが、なんだか腫れ物が落ちたような顔をしていたので、それ以上は聞かなかった。
「待ってたぜディオブ! さあ身体強化教えてくれ!」
興奮気味にエボットが詰め寄る。なんだが異常な興奮具合だ。
「待て待て、お前らにそれを教えるのは俺じゃねえ」
「えっ?」
ということは?
「私よ」
ディオブの後ろから、ひょっこりイリエルが現れた。ニッカリ笑ってピースしている。
「なんでイリエルなの?」
テリンの質問も当然だった。
「俺は魔法以外は、素の身体能力で戦ってる、つまり身体強化はあんましてねぇんだ」
「そ、だから私の方がコントロールには長けてるってわけ」
「なるほど」と思わず呟いてしまった。
確かに、ディオブのあの怪力ならば身体強化の必要は無いだろう。
「わかった、よろしくイリエル」
「任せて」




