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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
旅の始まり編
7/304

辛い時は

 店を出て、商店街の正面口に来た。とりあえず旅をするにも逃亡生活を送るにも生活に必要な物品を購入しなくてはならない、街の中心にある柱時計の屋根の下に置いてあった観光用の地図を貰って一応のプランを練る。


「見る限り結構店あるな」

「そうだね、とりあえずラインナップ被ってそうな店もあるし一周してから決めようよ」

「おう」

「……うん」


 サグの提案に二人が乗った。

 商店街はかなり広く、売っているものに次々目移りしてしまった。美味そうな見たことの無い果実、巨大な見たこともない魚、聞いたこともない生物の皮から作ったという靴、知らないものだらけの街は心を躍らせた。程なく商店街を一周し、メモを取って大体の店の欲しい商品の値段は把握した。

 大通の端っこに三人固まって、メモを中心に頭を寄せここがいいだの、あっちの方が安いだのを言い合う。数分もかからずに何をどこで買うか纏まった。気のせいかもだが、言い合っているのは自分とエボットだけで、テリンの主張が弱い気がした。


「よし!行こう!」

「おっしゃ!」

「うん……そう……だね」

「テリン?」


 一人の声に全く覇気が無かった。二人同時にその一人の顔を見て驚いてしまった、顔は青白く疲れが全体に出ていた、注意してみると少し震えているようだった。


「大丈夫かよ!?」

「うん……大丈夫」

「そんなわけないだろ!?」

「大丈夫……だって」


 言いながらテリンは無気力に、落下するように後ろへ倒れていった。


「危ない!」


 反射で反応したサグが、ギリギリのところで背中を支えて助ける。体に力が全く入っていないようで、腕からずっしりと全体重を感じた。


「ごめん」


 意識はあったようで、頭がほぼ地面につきかけている状態のまま謝ってきた。対してサグはこんな状態まで疲弊していたことに気づかなかったことに苛立って歯軋りをした。




 近くにあった半円形の広場、そこの階段状になっているところに二人で腰を下ろしていた。エボットは今水を買いに行っているところだ。


「疲れてたなら言ってよ」

「ごめん」


 もう一度テリンが謝った。しかしサグが欲しかったのはそんな言葉では無い、むしろなんで気づかなかったの?と責めて欲しかった。

 昔、自分の体調不良にテリンとエボットが自分が気づくよりも先に気づいたことがあった。なぜかと後から聞いたら、普段から一緒に居たからと言ってた。

 テリンが何も言わなくても心が自然と自分を責める。なぜ逆ができなかったのか!止まる事無く、うるさく責めてくる。


「ごめん」


 項垂れて地面のタイルを見つめながら、自然と呟きが漏れ出た。テリンが少し驚いた目でサグを見る。


「なんで謝ったの?」


 少しだけ笑って言った、まるで子供を宥める母のようだ。その視線が余計にサグの罪悪感を掻き立てた。イラついて、頭の後ろを乱暴に掻きむしる。


「気づけなかった、体悪かったのに……」

「いいよ、気にしないで」

「気にする……頼れんの……僕たちしか居ないのに……」


 ポツポツと自分もよく知っている事実を並べる。最悪な行為だと自覚している、疲れている友に残酷な現実を叩きつける行為だ。それでもテリンは優しく笑ってくれた。少しだけ息を吐いて、顎を腕で支え遠くを見つめる。


「ごめんね、頼るべきだった」


 放たれた言葉はあまりに的外れで、それでも、間違ってもいないことが事実で、そんなことを言わせたかったんじゃ無いって罪悪感が湧いて出る。


「ちがっ!だっ、そういうことじゃっ!あ〜……!!」


 勢いよく立ち上がってしまった。感情を整理できず腕や足を、メチャクチャに振り回して、さらに頭を振って必死になった。結局それでも言葉は見つからなくて、むしゃくしゃして頭を掻きむしる。

 そんな自分を見てテリンはくすくす笑っている。

 

「ごめんごめん、いじわるした」


 この表情はみたことがある、ドッキリや軽い悪戯が成功した時の楽しそうな笑顔だ。

 頬が膨らむほど大きく息を吐いて、同じ場所に座った。


「やめてよ……すっごい性格悪いやつじゃん僕」

「ごめんって」


 テリンの声も、笑顔も、動きの一つもいつもと同じで、体調は悪く見えなかった。だから気づけなかった。聞かなくちゃいけない、顔を上げて、笑っている瞳を見つめる。


「……いつから体調悪かった?」


 少しだけ暗い顔をして項垂れてしまった。綺麗に整えられた石の床を見ながら、テリンは自分の腕をキュッと握りしめる。


「多分……神軍の話を聞いてから……」

「そっか……」


 それ以上の言葉はいらない。もう察する事はできた。


 三人は昨日、よく知らないものに島を滅ぼされた。訳が分からない中で、知らないなりに色々考えていた。そして、答えはさっきの食事の時に出た。

 神軍は正義である。悪人を捉え、脅威から市民を助ける、物語のようなヒーロー、それが神軍。テリンはオリアーク・ウィストにそんなヒーローという存在を重ねていた、かっこいい憧れの存在を。そんな正義に、ヒーローに愛した人たちを殺されたのだ、辛くないわけがない。


「テリン」

「ん?」

「最後に母さんが言ってたよね」


『いい?これから先は三人で生きていくの!何があっても!助け合って生きていきなさい!』


「うん、覚えてる」

「だったら、頼ってよ、僕たちは、受け止められないほど、弱くないよ」


 そう思っている。けれどこれは嘘にもなり得る。だってわかっている、自分たちは剣も銃も使えない。つまり勝てる訳がない。今頼れる人間がいない自分たちは、弱いのだ。


「うん」


 それでも、テリンは優しく信じてくれた。二人は顔をまっすぐ青空へと向けた。太陽の光が目に滲みたが、瞼は少しも下がらなかった。

 

 しんみりしているとサグの後頭部に結構な衝撃が走った。バシィというなかなか重い衝撃だ。


「痛って!!」

「な〜にカッコつけてんだ」


 衝撃の正体はエボットが投げた水入りペットボトルだ。割と痛む頭を抑えながら後ろを睨むサグ。


「何すんだよエボット!ていうか聞いてたの!?」

「ああ、ごめん返しのあたりから」


 二人の顔が一瞬でトマトのように赤くなった。一瞬で酔いが覚めた感覚だ。いや、未成年だから酒は知らないのだけれど、今の心に、これ以上適切な例えがわからない。


「なんで来なかったんだよ!」

「いやぁいい雰囲気を邪魔すんのもなあ」


 ケラケラ笑って揶揄われた。さらに二人の顔が真っ赤になる、思春期の二人にはその揶揄いは恥ずかしすぎた。


「いっ良い雰囲気って!」

「良い雰囲気以外に何を言えば良いんだよあれ」


 エボットは少しだけ呆れ顔だった。これでも十分言葉を選んだらしい。


「もう!」

 

 怒って立ち上がったテリンは、エボットが持っていたもう一つのペットボトルを引ったくって歩いていってしまった。面倒だと額に手を置く。


「なんであんな怒ってんだ?」


 面倒を作った犯人に、少しばかりの怒りを抱く。


「誰のせいだよ」


 サグも立ち上がって水を飲む、わかっているくせに疑問顔をしているエボットを少しだけ睨みを効かせながらだ。すぐに視線の意味に気づいてニヤリと笑った。この顔もよく知っている、テリンと同じ、いたずらをするときの楽しそうな顔だ。


「悪かったって、でも発破かけてやろうと思ってな」

ふぁっふぁ(発破)?」

「好きなんだろ?テリンのこと」


 口に含んでいた水を盛大に吹き出してしまった。方向はずれていたとはいえ、エボットに飛沫が少し飛んだ。


「汚ったね!」

「いやっ、ごめ、じゃなくて!」


 何度目だろうか、呼吸と言葉に困りながら頭とセリフを整理する。一旦軽く深呼吸して落ち着いた。


「言っとくが、島の奴らはテリン以外全員察してたぞ?」

「はあ!?」

「ちなみに俺はそういう目で見てねぇから気にすんな」


 エボットがものすごく良い顔をしてサムズアップした。恥ずかしいやら、ちょっと苛立つやらで落ち着かない。顔を真っ赤にして睨んでくるサグが面白くて、エボットはニヤッとしてしまう。


「ま、落ち着いたら色々考えてみろって」

「やめろよその言い方」


 もう少し言ってやりたいところだったが、紅一点が少し離れた場所で手を大きく振って呼ぶものだから、小走りで追いかけた。

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