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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
鳥と人 エストリテ編
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戦いの後に

 嫌な予感のままにディオブとイリエルは走っていた。

 途中から魔力不足の疲労が回復したイリエルはディオブの支えを断り走った。

 船を出て、中央の島の山を駆け上っていたところだ。

 さっきからマーコアニスたちが騒がしい、羽ばたく音と鳴き声がひっきりなしに聞こえる。

 嫌な予感が比例するように止まらない、疲れとは違う汗が滝のように溢れ出た。

 漸く山を登り切る。中央の、スカイストムが居る穴を覗き込む。予想よりも最悪の光景が、二人の視界に飛び込んできた。

 巨大化したマーコアニスたちが、サグたち三人と、ビシェイルたち神軍の三人を運んでいた。傷と様子から見て神軍たちはすでに全員死んでいるようだったが、サグたちは生きているようで一安心だった。テリンに至っては未だ意識がある。

 マーコアニスの強靭な足に捕らわれながらも必死に暴れている。


「どうする? 今の私たちじゃみんなを助けることなんて!」

「難しいが……やるっきゃねぇだろ……!」


 サグたちほどではなかったが、ディオブもイリエルもボロボロだ。

 だというのに相手にしなければならないのは天空生物マーコアニス。命をかけても解放できるかどうかすらわからない。

 やらねばならぬと覚悟を決めて、二人は体制を整えた。だから気づけなかった。

 二人は同時に、背中に巨大な衝撃を感じた。


(マーコ……)

(アニス!?)


 二人の背中を攻撃したのは、巨大化したマーコアニスの片翼だった。後ろから気づかない間に飛来して攻撃されたのだ。

 空中に放り出された二人を、さらに別個体のマーコアニスが起こした突風が襲う。


「うぉっ!!」

「キャアァ!」


 突風に巻き込まれ呼吸を奪われる。意識を奪われなかっただけマシというものだ。

 地面に味わったことのない速度で叩きつけられた、飛びそうな意識を必死に繋ぎ止める。


「ディオブ! イリエル!」


 捕まっているテリンが叫んだ。

 するとテリンを掴んでいるマーコアニスが一つ鳴いた。それに同調するように他に人をつかんでいるマーコアニスたちも鳴き始めた。

 鳴いているマーコアニスたちは、一斉に足で掴んでいる六人を離した。


「キャアアア!!」


 唯一意識のあるテリンだけが甲高い悲鳴をあげていた。


「イリエル! 魔法で助けられるか!?」

「意識の無い二人なら!」

「よし!」


 落下してくるサグとエボットを、イリエルが年属性の魔法で支え、悲鳴を上げほぼパニック状態のテリンをディオブが滑り込んでキャッチした。

 二人とも申し訳なく思ったが、すでに死んでしまっている神軍の三人はそのまま地面へ落下した。

 仕方なかったとはいえ、遺体を傷つけてしまった事実にディオブは僅かに顔を顰めた。


「あっありがと」

「気にすんな」


 抱えているテリンを確認すると、体の至る所にあるすれ傷や打撲もそうだが足に空いた穴の傷が一番痛々しかった。

 ディオブの様子で自分の足に気づかれたことを察すると、テリンは手を大袈裟に振った。


「大丈夫大丈夫! 意外に大したことないから!」


 ディオブを離れぴょんと立った。足がついた瞬間の痛みを堪えた顔を見逃さない。


「無理するんじゃねぇ!」


 厳しい口調で言った。

 流石に自分が悪いと思っているのか、テリンはバツが悪そうに下を向いた。叱られている子供そのものだ。

 ゆっくりイリエルが寄ってきて、優しくテリンの傷に手を翳した。

 暖かい光がイリエルの傷を包む。


「流石に魔力足りないから痛み止めだけだけになっちゃう、ごめんね」

「ううん、大丈夫、ありがとう」


 実はかなり痛かったのか、素直にイリエルにお礼を言っていた。

 二人がやり取りをしている間に、ディオブは上空を見上げる。こちらを見ているが襲ってくる様子は無く、三羽ほど巨大な状態で旋回しているのが気になる程度か。

 チラと端っこの方へ目をやると、窪みのようになっている位置に紫色のブヨブヨ、スカイストムがすっぽりハマっている。


(あんな体でよく動けたな……)


 僅かに浮かんだ疑問符、ディオブはそれに従いスカイストムを観察した。

 すぐに最初見た時よりもスカイストムが萎んでいることに気づいた。中にあったはずの脂肪が消え、ダルダルになっている皮膚があることも。


(近いのか……成体になる時が……!)


 こんな状況でなければ、じっくり感動しながら観察したいところだった。ただでさえ希少なスカイストムという生物の、貴重すぎる成体になる瞬間に出くわせるのに。

 だがさらにある違和感にも気づいた。

 それはなぜ自分たちを護衛対象の前に置いているのか、だ。

 仮説ではマーコアニス達はスカイストムを守ろうとしていたはずだ。

 現状自分たちは脅威にならないということだろうか、だとしても危険に晒すことに間違いはないはずだ。

 それらしく顎に手を当てて絶えず考察を続ける。

 そして最悪の考察に辿り着いた。


(有り得るのか!? いや、群れという概念があるなら或いは!?)


 思い浮かんだ可能性、それは見せしめ。

 正確にいうならば、目の前で危害を与えてきた生物を殺してスカイストムに安心を与えようとしている。というとこだ。

 そしてこの考察は最悪なことに当たっている。

 マーコアニス初め、天空生物に分類される生き物はまだまだ研究が浅い。姿形程度しか判明していない種も多いのだ。

 どの生物においてもそうだが、知能という点は特に分かりにくい。人間的発想とはまた違う場合もある。

 今回の場合、サグ達五人がマーコアニスたちを守ろうと、神軍達がマーコアニスを捕えようとした。

 だがマーコアニス達からすれば、”人の群れがナワバリに入ってきた”という認識になる。そこにサグ達や神軍という複雑な区別は存在しない、同じ形をした生き物なら同じ群れ、それだけだ。

 怯えているスカイストムの前で危険物を殺し、食糧と安心を手に入れる。それがマーコアニス達の正確な目的だった。


(仮にこれが正解なら、なんとかして逃げねぇと……! 今の体調じゃ確実に殺される!!)


 急ながらあたりを何度も何度も見回す。

 どこかに登りやすい部分は無いか、少しだけで良いから低くなっている場所は無いか、マーコアニス達が対応できないほど離れている場所は無いか。

 必死になって何度も首を振るが、どうにもそれらしい場所は無い。

 口の中でイリエルとテリンに聞こえないよう弱く舌打ちをする。

 いつ殺されるのか?疑問を自分に投げるが当然答えは出ない。このままでは殺されるということだけが確かだ。


(どうする……? 意識の無い二人を抱えて出るには崖が厳しい……)


 ディオブとて人間だ。腕は二本、人ならざる力を持ってしても二人を抱えながら崖を登ることは不可能だ。

 落とされた時にわかったが、二人とも相当な重傷を負っている。意識が無くとも傷が浅ければ、外に放り投げるのでよかったのだが、ああもボロボロではそれも憚られる。

 ほぼ詰みに近いこの状況。苛立って髪を掻きむしってしまった。

 唐突に背中に強烈な衝撃を感じた。イリエルが平手を打ち込んだのだ。


「落ち着いてよ」

「悪い……」


 眉間に皺を寄せられ、態度を咎められる。冷静なイリエルの顔で自分が想像以上に焦っていたことに気づいた。

 だが同時にイリエルも焦っていることに気づいた。しかしボロボロの三人の手前(正確にはテリンのみだが)声に出さないように努めているらしい。ひどく焦っていることは、青い顔が物語っていた。


「ギャアア!!」


 テリンを掴んでいたマーコアニスが咆哮する。

 二人同時に首を上げると、すでにはるか空中へ飛び立っていた。そして旋回し、急降下してくる。ディオブは自分が狙われていることを一瞬で察した。

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