とある店で
サグたち三人は、目の前の森を潜り抜けて、ようやく街に出た。
しばらく民家ばかりだったが、どうやら旅人や商船の中継所として成り立っている島のようで、船で使うためのパーツや航行を補助するための道具を売っている店もあれば、シンプルな休憩所もあった。
とりあえず腹の虫に任せて、ウロウロと港周辺を散策した。もちろんあまり目立たないようにコソコソと。
そして落ち着けそうな店を見つけたので、そこに入ることにした。
店も当たりだった。調理スペースが見えるようになっている店だった、入店を最初に歓迎したのは、武骨で少し威圧感のある店主。その荒そうな容姿の割に、作業は丁寧で見ていて心地いいくらいだった。料理を運んできてくれる女性も良い。恐らく店主と夫婦のようだが、対照的に雰囲気が柔らかくて優しい。地元でも親しまれているようで、仲の良さそうな客も何人か居た。
店内は少し混んでいたようだったが、さらに運のいいことに座敷の席に座ることができた。
これでサグとエボットは背負っていたリュックを下ろすことができたのも大きい、日差しの日差しの強い今日、背中が少しぶりに楽になった。
食事だって素晴らしく、味もさることながらボリューミーで、食べた満足感が大きいのがよかった。
長時間の睡眠と、料理の美味さも相まって疲れはほぼ消え去っていた。
「食ったな〜美味かった」
「ね〜!こんなに食べたの初めて!」
「僕もだよ!めっちゃ美味かった!」
三人が笑顔で話し合う。すっかり恐怖から心が解き放たれていたようだった。
「あ〜らっありがとね!」
少し太った女性がテーブルへとやってきた。片手のお盆にテキパキと慣れた様子で食べ終わった食器を持っている。
「今日は一体どんな用事できたの?」
「あ〜僕ら船乗り見習いなんですよ、船長がここでしばらく休んでくから食べてこい!ってお小遣いくれて」
「へ〜じゃゆっくりしていきなさいな!」
「いやあそうもいかないんですよね、道具やら資材やら買ってこいって言われちゃって」
「あら〜それは大変ね!頑張んなさいよ!?」
「はい!ありがとうございます!」
女性はニコニコ笑いながらテーブルを去った。どうやって持っているのかわからないほどの食器を持って。
女性から視線を変えると、二人が変な目を向けていた。
「「ナチュラル嘘つき」」
ニヤつきながら、二人が声を揃えて言った。
「なっ、いいだろ?こんな状況だし」
流石にそんなことを言われるとは思っていなかったので、少しだけムキになって反論する。
「いや〜あまりに自然で怖かったぜ?」
「うん」
「いやいやそんな嘘ついたりしないよ」
「まっ大概にしとけよ?嘘つきは地獄に落ちんぜ?」
「地獄におちたか!」
店内に響くほどの大声がした、急にエボットの言葉と重なった大声に三人の方は同時に大きく跳ねる。
大声の主はカウンター席で新聞を読んでいた。常連のようでさっきの女性と店主から同時に注意されて片手を構えて謝っている。
「全く……で?どうしたんだい?」
「ああ、最近この辺りの島々で天空猪の森林被害があったろ?」
「あったなぁ、確かこの街の人間も怪我を負ったとか……」
「そうそれだ!その空猪を神軍が討伐したって記事がな」
サグの心臓が大きく跳ねて、肋骨を刺激するほどにポンプした。心音が店中に響いていそうなほど大きかった。
三人の笑顔がまた消えてしまった。嫌な汗が額やこめかみを伝っていく。
指先が冷えていく感覚がした、しかし代わりに耳は熱い、情報を聞き漏らさないように必死だ。
「そうかぁ……あの猪ついに殺されたかぁ……」
「ああー! 俺の孫も怪我させられたからな! ほんと神軍様様だ!」
「犯罪者を取り締まってもくれるし、助かるわよねぇ」
「ああ! この間なんかこの街を占拠しようとした悪党どもを倒しててな」
語る三人の表情は安心に満ちている、神軍という存在に対する感情が、そのままストレートに現れていた。
「……行こう」
サグの言葉が号令となって三人は動き出した。
支払いを済ませてとりあえず街へと出た。
側から見れば、ただの若い集団だが、少年たちの心は複雑に歪み、荒れ狂っていた。